大好きな玉岡かおる先生の近著
『天平の女帝孝謙称徳』。
待ちに待った新刊なので、
一気呵成に読みたいような、じっくり読みたいような。
複雑なファン心理でした。
結果としてはじっくり読むことになりました。
その理由は、私には時代背景、登場人物に馴染みがなかったから。
もちろん、弓削道鏡や、和気清麻呂、吉備真備といった、
日本史の教科書に載っている有名どころは知っていましたよ。
しかし、道鏡の弟・浄人や、和気清麻呂の姉 和気広虫、
吉備真備の妹 吉備由利となると、存在すら知りませんでした。
お恥ずかしいことで。
この小説は、タイトルロールである
女帝 孝謙称徳帝の崩御から始まります。
そのあとは、女帝に使えた二人の女官 和気広虫と
吉備由利を中心に物語が紡がれていきます。
***
和気広虫と、吉備由利。
二人は女帝を崇拝する気持ちは同じであるものの、
辿った運命は違っていた。
広虫は、女帝から遠地へ追放され、
由利はご最期まで寝所に通される存在だった。
女帝崩御を機に、都に帰ることを許された広虫は
由利とともに、女帝の「ご遺志」を後世に伝えようとする。
しかし、それは一筋縄でいかないこと。
そもそも一族の娘を入内させることで
栄華を保ち、権力を守ってきた藤原の男たちにとって
「女帝」は旨味がないもの。
やっと男性の天皇になったからには、
自分たちの思うようにできるよう、
何もかも周到に計算している。
時に人を陥れ、時に人を殺めてでも。
都にうずまく権謀術数。
その中にあって、おのが生きる意味を確信し、
まっすぐに生きる者もいる。
女帝の死後、生きている者たちによって
徐々に輪郭が見えて来る
『天平の女帝 孝謙称徳』。
彼女は、平成の現代に問題にされていることを
すでに見つめていたのだった。
女性が一人の人間として、
自分の能力を活かしながら働き、
同時に女性として幸せになれるしくみが必要だと。
***
玉岡さんの講演会でよくお聞きするのは
「ほぼ全ての歴史(書)はオトコが書いたものです。
そこにはほとんど女性が出てきません。
私は名前も埋もれている女性たちに光を当てたいんです」という言葉。
まさにこの小説ではさまざまな女性に
光が当たっていました。
伊勢神宮に向かう斎王や、
未来を見、死んだ者の思いを語り、呪術を行う巫。
帝の妃たちや、それをとりまく女官たち…
中には「嫌なやっちゃなぁ」と思う女性もいますが、
本人の身になれば、
こう生きるしかないのかと哀れにも思えます。
それは時代に関係のないことかもしれません。
また、ある種ミステリ小説としても読めるようになっているのも
おもしろいところ。
最後に特筆したいことは、
この「本」の完成度、一体性の高さです。
表紙の絵と、文体、登場人物の品格が
見事に一致しているのです。
だから、最初に書店で手に取った時の印象と、
読んでいるときの感じ、
読後感が一緒。
これはありそうで、なかなかないことだと思います。
次はどの時代の、どんな女性に光が当たるのか、
次回作も楽しみにしています。 |
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池田 千波留
パーソナリティ・ライター
コミュニティエフエムのパーソナリティ、司会、
ナレーション、アナウンス、 そしてライターと、
さまざまな形でいろいろな情報を発信しています。
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著書:パーソナリティ千波留の読書ダイアリー
ヒトが好き、まちが好き、生きていることが好き。
だからすべてが詰まった本の世界はもっと好き。
「千波留の本棚」50冊を機に出版された千波留さんの本。
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