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阿修羅のごとく(向田邦子)

日常に埋もれそうなことを上手に掘り出してみせる天才

阿修羅のごとく
向田 邦子(著)
向田邦子さんは有名な脚本家であり、のちに小説も残しておられ、私もご生前から名前とお顔は一致しておりました。ただ、作品は脚本・小説どちらも読んだことがなかったのです。

向田さんが小説を発表し始めた頃が私の大学受験の勉強期間と重なっており、読む暇がなかったのかもしれません。毎週楽しみに見ていた『時間ですよ』『パパと呼ばないで』『寺内貫太郎一家』が向田さんの作品だと知って、勝手に親しみを持ち、いつかは読まなくちゃとは思っていました。

それなのに1981年、向田さんは旅行先の台湾で航空機墜落事故にあい死去されてしまいました。

悲劇的な死を迎えた向田さんは、直木賞をとったばかりだったこともあり、書店には向田邦子さんコーナーができました。向田邦子ブームです。さて、そうなると読まない、読めないのがへそ曲がりの私。あれから30年以上たってようやく手に取りました。『阿修羅のごとく』。

『阿修羅のごとく』は小説ではなく脚本です。1979年のドラマとしてタイトルは覚えているけれど見ていないのでまっさらな状態で読むことができました。
”七十代の夫婦 竹沢恒太郎とふじ。二人には四人の娘がいた。夫に先立たれ、生け花の先生として生計を立てている綱子。夫と一男一女を持つ平凡な主婦(に見える)次女の巻子。図書館司書の三女 滝子は四角四面、男性との浮いた話もない。四女 咲子は子どもの頃から成績は悪いけれど男の子にモテた。今は親や姉に内緒で、なかなか芽が出ないボクサーと同棲中。

ある日滝子は父親の秘密に気がつき、独断で興信所に調べさせた。そして父に愛人がいることをつきとめる。相手の女性は父親より三十歳ほども年下で、小学生ぐらいの男の子もいるらしい。興信所の調査員が撮影した、三人で仲良く歩く写真を前に、姉妹四人は緊急の話し合いを持つ。

それぞれの立場、性格で物をいう姉妹。共通しているのは「おかあさんには黙っていよう」ということ。両親のことを心配しながらも、実は四人姉妹それぞれ自分自身にも問題を抱えていた。それを隠しつつ、父親の愛人問題に対処しようとするうち、一家に大変なことが起こる……。”
四人姉妹の物語といえば、谷崎潤一郎の『細雪』。しっかり者の長女、跳ねっ返りの四女、そのあたりは『阿修羅のごとく』も同じで、日本人の姉妹イメージなのかもしれません。

向田さんの特徴は、会話が軽妙かつリアルなこと。こういう会話は実際にあるだろうな、となんども吹き出しそうになりました。

また、姉妹でも性格の合うあわないがあったり、家族だからこそ言いたくない家庭内の問題があったりと、ドラマなのに身につまされることばかり。向田邦子さんは日常に埋もれそうなことを上手に掘り出してみせる天才だったのかも。

ところでタイトルの「阿修羅」。冒頭に説明が書かれています。外面は仁義礼智信を装いながら、内側は猜疑心が強く争いを好む……と。女性はそれぞれに本当は阿修羅なのかもしれません。

私はこの小説に出てきた「阿修羅」の一人がかわいそうでかわいそうでたまりませんでした。本当に男ってやつは!!プンプン。

読み終わると、脚本を読んだというより小説を読み終わったような気持ちに。ああ、向田邦子さん、もっと長生きしていただきたかった。遅ればせながら、向田邦子マイブームが起こる予感がします。
阿修羅のごとく
向田 邦子(著) 岩波書店
穏やかに暮らしているはずの実家の父と母。しかし、その父に愛人がいるとわかり、四姉妹は急に色めきたった。未亡人でお花の先生をする長女綱子、主婦の次女巻子、独身の図書館員三女滝子、ボクサーと同棲する四女咲子。母のために女性との関係を清算させようと相談をするが、表向きの顔とは別に、姉妹それぞれがのっぴきならない男と女の問題を抱えている。猜疑心強い阿修羅になぞらえ女の姿を軽妙に描いた、向田作品の真骨頂。 出典:楽天

池田 千波留
パーソナリティ・ライター

コミュニティエフエムのパーソナリティ、司会、ナレーション、アナウンス、 そしてライターとさまざまな形でいろいろな情報を発信しています。
BROG:「茶々吉24時ー着物と歌劇とわんにゃんとー」

パーソナリティ千波留の『読書ダイアリー』
ヒトが好き、まちが好き、生きていることが好き。だからすべてが詰まった本の世界はもっと好き。私の視点で好き勝手なことを書いていますが、ベースにあるのは本を愛する気持ち。 この気持ちが同じく本好きの心に触れて共振しますように。⇒販売HPAmazon



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