古くてあたらしい仕事(島田潤一郎)
本とは美しいもの 古くてあたらしい仕事
島田 潤一郎(著) 私がパーソナリティを担当している大阪府箕面市のコミュニティFMみのおエフエムの「デイライトタッキー」。その中の「図書館だより」では、箕面市立図書館の司書さんが選んだ本をご紹介しています。
今回ご紹介するのは、島田潤一郎さんの『古くてあたらしい仕事』。 島田潤一郎さんは、33歳の時に「夏葉社」という出版社を立ち上げました。社員は島田さん ただ一人。 本を作るためにデザイナーと校正者に仕事を依頼することはあっても編集、営業、事務、発送、経理、全部一人でなさっています。 そもそも島田さんは大学時代、本をたくさん読み、ご自分でも文章を書いていました。 大学4回生のとき、大学主催の小説コンクールで一等賞を獲得、就職活動をやめて、アルバイト生活に入ります。 5年計画で小説家になろうとしたのですが、夢叶わず。27歳で学習教材の販売の仕事につきますが、約1年で退職。 仕事自体は嫌いではなかったそうですが、営業方法が他の人とは違っていたのですって。 島田さんは集団行動や、周囲の人に合わせることが苦手。マイペースで仕事をして、結果が伴えば良いだろうと思っていたのに、上司が「他の人と同じように働け」と言ったのだとか。 サラリーマンだったことがある私としては、自分のペースで成績を上げたい島田さんの気持ちもわかるけど、部下を管理する立場として、やりにくいと思う上司の気持ちもわからなくもないです。 上司だってまだまだ未熟で、管理能力を疑われたくなくて、部下を縛り付けてしまったのかも、と。 ともかく島田さんは退職。すでに31歳になっていました。転職活動は全くうまくいかず、なんと50社連続で不採用だったそうです。 50社!! それだけでも辛いのに、追い打ちをかけるように、幼い頃から仲が良かったいとこさんが亡くなりました。 その年に、島田さんはある詩に出会います。 その詩は「死」に関するもので、死者と生きている人の関係は終わらない、死者を思って暗くなるのではなく、普段通り変わらない生活をして欲しい、だって、死者はあなたのそばにいるのだから、そんな内容の詩です。 島田さんは、その詩を一冊の本にして、亡きいとこのご両親、つまりおじさんとおばさんにプレゼントしたいと思ったのでした。 それが一つのきっかけとなり、「夏葉社」が生まれたのです。 島田さんは編集者としての経験などは皆無だったけれど、いつも本が身近にあったし、思い入れもありました。 島田さんは「本」を、ただ単に情報が詰まった紙の集まりとは思っておられません。 100年前、200年前の傑作を数百円で読めるという驚き(図書館を利用すればタダだ)。文豪たちの作品は、時空を超えた彼方からの手紙だった。
優れた文学は、おしなべて、万人のためでなく、まるでぼくひとりのために書かれているように読むことができた。 それは、文章のテクニックや、物語の構造とかいうつまらない話ではなくて、心構えのようなものだ。 (島田潤一郎さん『古くてあたらしい仕事』P25より引用) 本はただ単に、情報を紙に印刷して、それを束にしたものではない。それよりも、もっと美しいものだし、もっとあこがれるようなものだ。
(島田潤一郎さん『古くてあたらしい仕事』P61より引用) 「本」に対してそんな気持ちを抱いている島田さんは真摯で誠実な態度で本を作ろうと考えます。
そして取り組んだのが、絶版になった本の復刊です。 古本屋さんで出会った、地味ではあっても素晴らしい本を再び蘇らせることは、大手の出版社では通らない企画かもしれません。 インターネットなどに押されて、本の売り上げは年々下がっています。だけど本を求める人がなくなることはないはず。 本を愛する人が手に取りたくなる本、その値打ちがある本を世に出そうと、島田さんは考えておられるわけです。 「本を愛する人」には、読者だけではなく、本屋さんも含まれています。本の作り手、売り手、そして読み手…その人たちの存在が紙の本を守っていくのでしょう。 私は自分を本好きだと自認していましたが、『古くてあたらしい仕事』を読んで、まだまだ全然、本に対する愛が足りないと思いました。 お恥ずかしいことに、夏葉社が手がけた復刻本のほとんどを全然知らないんですもの。 これからはもっともっと新旧色々な本を読みたいと思いましたよ。 余談ですが、夏葉社さんの復刊の中に、作家 庄野潤三さんの作品集がありました。 私は庄野潤三さんの小説を読んだことがないのですが、庄野潤三さんには特別な思いがあります。 今は亡き、元花組トップスター大浦みずきさん。 本名 阪田なつめ から、ニックネームは なつめさん、なーちゃん。 大好きでした。 彼女のお父様、直木賞作家 阪田寛夫さんは庄野潤三さんと小中学校の同級生。 庄野潤三さんの小説『ザボンの花』の登場人物のひとり「なつめ」がなーちゃんと同じ8月29日生まれ、ということで、そのまま名前をもらったのだと聞いています。 そして なーちゃんが宝塚歌劇団に入団した際、「大浦みずき」という芸名を付けてくれたのが庄野潤三さんでした。 なーちゃんが亡くなって今年で12年。 今年こそ庄野潤三さんの『ザボンの花』を読もうかな。 それにしても、島田潤一郎さんが順調にサラリーマン生活を続けておられたら、夏葉社は生まれていなかったかもしれません。 人生紆余曲折があっても、終わりよければ全て良し、ですね。(まだ終わっていませんが) 古くてあたらしい仕事
島田 潤一郎(著) 新潮社 嘘をつかない。裏切らない。ぼくは具体的なだれかを思って、本をつくる。それしかできない。ひとり出版社「夏葉社」の10年が伝える、働き方と本の未来。 出典:楽天 池田 千波留
パーソナリティ・ライター コミュニティエフエムのパーソナリティ、司会、ナレーション、アナウンス、 そしてライターとさまざまな形でいろいろな情報を発信しています。 BROG:「茶々吉24時ー着物と歌劇とわんにゃんとー」 ヒトが好き、まちが好き、生きていることが好き。だからすべてが詰まった本の世界はもっと好き。私の視点で好き勝手なことを書いていますが、ベースにあるのは本を愛する気持ち。 この気持ちが同じく本好きの心に触れて共振しますように。⇒販売HP/Amazon
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