あしたから出版社(島田潤一郎)
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![]() あしたから出版社
島田潤一郎(著) 「千波留さんは読む本をどうやって選んでいるんですか?」というご質問をときどきいただきます。
その答えは… まずは好きな作家の新作や未読の作品。 次に、新聞書評で気になったもの、図書館司書さんのお勧め本。 最後は、偶然見つけた本です。 私は時間に余裕がある時、本屋さんや図書館の書棚を端から端まで見ていくのが好きなのです。 そして、ん?と心の釣り針に引っかかった本が「偶然見つけた本」というわけ。 『あしたから出版社』は、思わず足を止めるに十分なインパクトのタイトルでした。 「あしたから出版社って、アナタ、出版社ってそんなに簡単に立ち上げられるものですか?」と。 著者 島田潤一郎さんは作家志望だったそう。お名前の潤一郎が谷崎潤一郎からもらったものだということも背中を押していたらしい。だから大学を卒業しても就職せず、アルバイトをしながら作家を目指していた。でも「自分には才能がない」と気がついてしまったのですね。(↑ご本人の談です)
これは悲劇です。本が好きでたまらないのに、自分ではつむぎだせないなんて。とは言えめげているだけではいけない、ととりあえず就職活動を始めるのでした。しかし、世間は(企業は)一度レールから外れた人間に冷たく、履歴書を送っても送っても、「お断りメール」が届くばかり。 そんなある日、子どもの頃から仲が良かったいとこが事故で亡くなってしまう。まだ若かったのに。たくさんの思い出を共有していた従兄の死は思っていた以上の喪失感をもたらすことになる。 その大きな喪失感を癒すために、グリーフケア関連の本を読みふけった著者は、ある一編の詩に出会う。亡くなった人が、生きている人に語りかける形式で書かれたイギリスの詩に。 著者は決意する。この詩を本にして、息子を亡くした叔父と叔母にプレゼントしよう、と。そして同時に、それをきっかけに未来を切り開こうと。就職活動はやめだ!あしたから出版社だ! ん?
ん? 読み進むうちに、私の中で何度も沸き起こる疑問符。 「これって、もしかして…」 ええ。 そうでした。 著者が出会った一編の詩とは「死はなんでもないものです」から始まるもの。 その詩を収めた本「さよならのあとで」を私は先月読んだばかりではないですか!! そうか、図書館司書さんが「『夏葉社』はこの詩を世に送り出すために作られた出版社なんですよ」とおっしゃっていたっけ。 「あしたから出版社」=夏葉社だったんだ。 確かに『さよならのあとで』の奥付きを見たら「発行者 島田潤一郎」って書いてありますわ! 縁って本当に不思議なものですね。 『さよならのあとで』を読んだその日に元同僚の死を知りました。 そのことが私にとって『さよならのあとで』をいっそう特別なものにしたのでした。 そして、その特別な本がつくられた経緯を記した本に偶然巡りあうなんて。 興奮冷めやらず、そのままの勢いで最後まで読み続けました。 そして一冊の本が生まれるまで、さまざまなかたが関わる姿を知って胸が熱くなるのでした。 良いなぁ!やっぱり本って良いなぁ! 島田さんが良いという小説を、私はまだ読んでいなくて、あれ読みたい、これも読みたいと、タイトルをいくつもメモしました。 また、巻末に紹介されている夏葉社の本リストを見て「あ、これも面白そう。読まなくちゃ」とメモ。 ああ、読みたい本がたくさんあるって幸せ。 ちなみに、私がこの本を手に取った時に思った疑問、「あしたから出版社って、アナタ、出版社ってそんなに簡単に立ち上げられるものですか?」の答。 立ち上げられるんですね。 本気があれば。 それは出版社に限ったことではなく、誰もが、あしたから新しいことを始められるんです。 私はこの本を読んで勇気が漲りました。 何かを諦めかけている人にぜひお勧めしたい一冊です。 あしたから出版社
島田潤一郎(著) 晶文社(2014) 「夏葉社」設立から5年。一冊一冊こだわりぬいた本づくりで多くの読書人に支持されるひとり出版社は、どのように生まれ、歩んできたのか。アルバイトや派遣社員をしながら小説家を目指した20代。挫折し、失恋し、ヨーロッパとアフリカを旅した設立前の日々。編集未経験からの単身起業、ドタバタの本の編集と営業活動、忘れがたい人たちとの出会い…。これまでのエピソードと発見を、心地よい筆致でユーモラスに綴る。 出典:楽天 ![]() 池田 千波留
パーソナリティ・ライター コミュニティエフエムのパーソナリティ、司会、ナレーション、アナウンス、 そしてライターとさまざまな形でいろいろな情報を発信しています。 BROG:「茶々吉24時ー着物と歌劇とわんにゃんとー」 ヒトが好き、まちが好き、生きていることが好き。だからすべてが詰まった本の世界はもっと好き。私の視点で好き勝手なことを書いていますが、ベースにあるのは本を愛する気持ち。 この気持ちが同じく本好きの心に触れて共振しますように。⇒販売HP/Amazon
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