競争の番人(新川帆立)
人物の造形が面白い 競争の番人
新川 帆立(著) この日本にはいろいろなお役所、官公庁があります。
外務省、財務省、文部科学省、厚生労働省、農林水産省、経済産業省、国土交通省、防衛省などはニュースなどでよく聞きますから、耳馴染みがあります。小説などに登場することでお仕事内容をなんとなく知っている気になっている省庁も。 では「公正取引委員会」はどうでしょう? 名前はたまに聞くけれど、どんな人たちがどんなお仕事をしているのか、私は今ひとつわかりません。名前から考えて「公正な取引ができるように取り締まる」機関なのかなぁ?と想像するくらい。そしてなぜか私の中では、男女ともに職員の方はグレーのスーツを着ているイメージ。とにかく地味、というイメージですね。 新川帆立さんの『競争の番人』はその「公正取引委員会」に所属する凸凹コンビが活躍する小説です。 公正取引委員会の審査官 白熊楓はもうすぐ三十歳になる女性。元々は警察官を目指していたが、家族の反対にあって警察学校を中退し公正取引委員会へ。空手が得意だが優勝したことはない。最後の詰めが甘くいつも二位に甘んじている。
楓の所属するチームに、とんでもないエリートが配属されることになった。小勝負勉、東京大学とハーバード大学を卒業。司法試験は二十歳で合格している。頭脳明晰・沈着冷静だが、頭の回転が早すぎて、「普通の人」である同僚の気持ちや仕事ぶりが理解できないでいる。もちろん周りの人間も小勝負のことを理解し難いと思っている。 そんな白熊楓と小勝負勉がペアで仕事をすることになり…… (新川帆立さん『競争の番人』の出だしを私なりに紹介しました) この小説のおかげで、公正取引委員会のお仕事が少しわかるようになりました。
企業や会社が良き競争相手として切磋琢磨しあい、経済を回していけばより良い社会が生まれるはず。ですが現実には、一部の企業で結託し談合で仕事を割り振ったりしていることはニュースなどで報じられている通り。 また、取引先に無理難題を押し付け、それができないなら取引を打ち切るといった脅しのような「下請けいじめ」の現実も。 そういった問題を暴くのが公正取引委員会。Wikipediaによると「公正で自由な競争原理を促進し、民主的な国民経済の発達を図ることを目的とし」ているそうです。 当然、不正かどうかの調査・捜査を行い摘発していくので、仕事内容は警察のようでもあり、検察のようでもあります。が、公正取引委員会は警察や検察ほどの強い権限を持っていません。民間人からの理解もあまりないため、思うように調査を進められないことも。 しかも、調査対象はズルを承知で談合や下請けいじめをしているのですから、なかなか尻尾を掴ませません。正しいことをおこなっているはずの公正取引委員会が逆に「悪」に見えるよう陥れられることも度々。 白熊楓と小勝負勉がタッグを組んで、相手にしてやられたり、裏をかいて証拠をあげたり…… お仕事小説として、とっても面白いです。 全然地味じゃないぞ、頑張れ公正取引委員会! もちろんこの小説の面白さは、公正取引委員会の仕事内容だけに要因があるわけではありません。人物の造形が面白いのです。 主人公である白熊楓はもうすぐ三十歳の独身女性。仕事以外で恋愛にも忙しい年頃であるはず。実際に楓はもうすぐ結婚する予定です。お相手は空手を通して出会った猛者で忙しい合間を縫って式場の予約などをしている状態。 でも、そこにラブロマンス的な香りはしません。余計なお節介ではあるけれど、私が同僚だったら「そのまま結婚しちゃっていいの?」と口を挟みたくなります。楓自身、そう思っている節があるけれど、なんとなく流れに乗ってしまっている感じ。 また、楓の心の中にはいつも「本当は警察官になりたかった」という気持ちがあります。自分の本意を曲げて進路を変えています。これも、波風たててまで自分の思いを押し通せない、という性格の現れかもしれません。空手でいつも二位になってしまうことと根っこが全て同じなのかも。だけどその分楓には思いやりが深いところがあります。 一方の小勝負勉はいつも論理的。何かに妥協してやり方を変えたり、物を選んだりしません。まして情に流されることもない、楓とは全く違うタイプです。 二人が組んで仕事をするうちに、良きバディになっていきます。まさに凸凹コンビ。互いに足りない部分を補完し合うようになるですね。 最初は、カシコ(関西弁で賢い人)だけど性格が悪そうだと思っていた小勝負くんが、物語が進むにつれ、どんどん良い人、頼れる人のように思えてきます。元々美形でシュッとしたビジュアルに描かれているんですから、これはもしかしたら二人のラブロマンスにも発展するのか?と期待も高まりますが…… 仕事と恋、そして人間としての成長、色々な面で面白い『競争の番人』でした。 もしかしたら続編もあるのかな?あったらいいナ。 池田 千波留
パーソナリティ・ライター コミュニティエフエムのパーソナリティ、司会、ナレーション、アナウンス、 そしてライターとさまざまな形でいろいろな情報を発信しています。 BROG:「茶々吉24時ー着物と歌劇とわんにゃんとー」 ヒトが好き、まちが好き、生きていることが好き。だからすべてが詰まった本の世界はもっと好き。私の視点で好き勝手なことを書いていますが、ベースにあるのは本を愛する気持ち。 この気持ちが同じく本好きの心に触れて共振しますように。⇒販売HP/Amazon
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