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私はスカーレット(林真理子)

時代が変わろうとスカーレットよ永遠に

私はスカーレット
林 真理子(著)
タイトルでピンとくる方も多いと思いますが『私はスカーレット』のベースは、マーガレット・ミッチェルさんの『風と共に去りぬ』で、林真理子さんはスカーレットの視点で描き直しておられます。
舞台は1861年、アメリカ ジョージア州。ヒロイン スカーレット・オハラは大農園主の長女、16歳。アイルランド移民で一代で財を成した父親譲りの激しい性格だが、恵まれたビジュアルでそれを隠す術を知っていた。そしてその気になればどんな男性も自分の虜にできると自負していた。高慢なところがあるが、一方で一人の男性を一途に思う純な部分もある。

スカーレットが想いを寄せているのは、アシュレ・ウィルクス。芸術や文化を愛する青年だ。告白されたことはないが、アシュレも自分を愛していると、スカーレットは確信を持っていた。

それなのに、アシュレが別の女性と結婚するという噂を聞いた。相手はメラニー・ハミルトン。平凡な容姿でおとなしく、なんの取り柄もないように見えるメラニーとアシュレが結婚するなど、見過ごすわけにはいかない。

二人の婚約発表パーティーで、スカーレットはアシュレと二人きりになるよう画策する。そしてアシュレに愛を告白した。しかしアシュレはスカーレットの愛を受け入れなかった。

アシュレの目や言葉から、彼が自分を愛していることは間違いないと感じるのに、なぜ?!困惑し、屈辱に震えるスカーレットだった。

しかしもっと許しがたいことが判明した。アシュレとのやりとりを全て聞かれていたのだ。レット・バトラーという、得体の知れない男に。
(林真理子さん『私はスカーレット』の出だしを私なりにまとめました)
この小説の軸になるのは、上の紹介文に登場したスカーレット、アシュレ、メラニー、レットです。この四人をグループ分けすると、「スカーレットとレット」「アシュレとメラニー」に分かれます。

現実を見据えバイタリティ溢れるスカーレットとレット、静かに読書するのが好きで争いを好まないアシュレとメラニー。

この小説の中で「結婚は似た者同士でないとうまくいかない」という言葉が出てくるのですが、もし最初からこの組み分け通りにカップルになっていたら、すぐに小説は終わってしまっていたかも知れません。少なくとも、恋愛小説にはなりえず、歴史小説になっていたことでしょう。

アシュレに恋するスカーレット。スカーレットに惹かれながら、メラニーに安らぎを感じるアシュレ。アシュレを愛するメラニー。正直で情熱的なスカーレットを愛するレット。面白い人間関係です。

しかし、その人間関係をもっとややこしくするのがスカーレットなのです。

アシュレに受け入れられなかった腹いせに、さほど好きでもないメラニーの兄と結婚することを即決。あまりに急な話だと、親や周囲の人が諌めても聞きません。

また、時代背景も話を複雑にする要因になっています。

それは南北戦争。腹いせに結婚した相手が戦死(正確には病死)し、スカーレットはすぐに未亡人になってしまいます。その上、スカーレットたち負けた南軍側は略奪に合い、生きていくのもやっと。税金が払えず、大切な生まれ故郷の農園「タラ」を奪われそうになります。

そこでまた驚くべき行動に出るのがスカーレット。小金持ちになっていた妹の婚約者を略奪し、莫大な税金を支払うのです。もちろん今回も恋愛感情はありませんし、周囲の人がどう思うだろうとか、自分の行動の結果、他の人が悲しい想いをするかも、なんてことはお構いなし。

とはいえ、ひたすら自分勝手かというとそうでもありません。スカーレットは妹の性格をよく知っていて、妹は自分がお金持ちになっても実家の税金を払うことはないと確信していたのです。農園には使用人もおり、自分たち全員が生き残るためにはこれしかない、と思って行動するんです。

スカーレットの決断と行動の早さに翻弄されるのがレット・バトラー。

彼は初めてスカーレットに会った時から、彼女の激しさや感情に素直なところ(ぶりっ子じゃないところ)に惹かれ、彼女を愛するわけですが、まさか、好きな人に振られたら腹いせに即 別の人と結婚を決めたり、普通の手段でお金の工面ができないとなると妹の婚約者を略奪してでもなんとかするとは思いもよらないわけです。ちょっと様子を見ていたら別の人の妻になっている、とんでもない女性を愛してしまったなぁと思ったんじゃないでしょうか。

スカーレットが二度目の夫と死別した時、結婚という制度にこだわっていなかったレットが慌ててスカーレットにプロポーズするのが可愛く思えました。

思い返せば、私が『風と共に去りぬ』を初めて読んだのは1977年、中学2年生の時だったと思います。(奇しくも林真理子さんが初めて『風と共に去りぬ』を読まれたのも中学2年生の時)宝塚歌劇で上演することが決まったことがきっかけで観る前に読んでおこう、くらいの気持ちでした。初代バトラーの榛名由梨さんは宝塚史上初”トップスターの髭”を実現、渋かったです。

ちょうどその頃、ビビアン・リー、クラーク・ゲーブル主演の映画『風と共に去りぬ』がリバイバル上映されたので、同級生と神戸三宮の映画館まで見に行きました。

当時の私は本当に子どもで、クラーク・ゲーブルのレット・バトラーに衝撃を受けたのを思い出します。大人の男性の魅力全開!レット・バトラーかっこいい!!

そのレット・バトラーを「可愛い」と思うなんて、私も歳をとったものですわ。

そして似た者同士であるスカーレットとレットが、ここでこうしていれば、ひとこと本心を言っていれば二人で幸せにになれたのになぁ、と実感を伴って感じ、残念でたまらないのです。小説だと分かっていても、本当に残念。

そして歳をとったせいでしょうか。今『私はスカーレット』を読んでいると、この小説に登場するすべての人物が愛おしいのです。特に中学生の頃には全く視界にも入っていなかったスカーレットの妹であるスエレンとキャリーン、スカーレットの二度目の夫フランクについては、ハグして慰めたいような気持ちです。

林真理子さんはあとがきにこう書いておられます。
つくづく思うのであるが、スカーレットはかなり乱暴でヒステリックな女性である。人の心を読み取ることも出来ない。が、それでもなお、私たちが彼女に激しく魅了されるのは、「とにかく生きぬいてみせる」という強い意志と行動力。そして実は夫も子どもさえも必要としていない自分本位の生き方であろう。今もこれほど強く自分勝手なヒロインを見たことがない。
(林真理子さん『私はスカーレット』下巻 あとがき P385より引用)
確かに、ある意味スカーレットは憧れの存在ですね。

でも『私はスカーレット』を読んで思いました。だいぶん規模は小さいけど、私自身にもスカーレット的なところがあると。私もかなり自分勝手だし、他者を必要としない自分勝手な生き方をしていると自覚があります。どうしよう!!我が家のレット・バトラーに去られちゃうかも。気をつけないといけませんね。

最後に『私はスカーレット』、『風と共に去りぬ』で私の好きな場面を二つだけ紹介させて下さい。

まず一つ目は、悪夢にうなされるスカーレットをレットが慰めるシーン。

レットと結婚し、贅沢な暮らしをしていても、南北戦争直後の食べるものも食べられなかった時を夢に見て泣くスカーレット。自分の泣き声で目を覚ましたら、レットが心配そうに見ているのですよね。そしていつもの からかうような態度ではなく、スカーレットを抱っこして優しく話を聞いてくれる……

永遠の憧れですワ。一時流行った壁ドンとか、顎クイなんかより、こっちの方が断然羨ましい。

現実はどうかというと、私はここ20年以上、横になって1分もしないうちに眠りにつき、朝までぐっすり夢も見ません。ですから、怖い夢を見て泣いて目を覚ますこともないし、ヨシヨシしてもらうこともないのでした。残念!!

もう一つの好きな場面は、スカーレットの乳母マミイとレットのシーン。

当初、レットのことをならず者だと思い、大切なお嬢様がそんな人と結婚することを許していなかったマミイ。新婚旅行のお土産にとレットが買ってきてくれた極上のペティコートも身につけることはありませんでした。

ところが、レットとスカーレットの間に女の子が生まれ、メロメロになっているレットを見て考えを変えたマミィが初めてレットにもらったペティコートを身につけ、それにレットが気が付く場面。後から考えると、レットにとってこの時が幸せのピークだったのかもね。悲しい。

こういう気持ちになる人が多くて、『スカーレット』や『レット・バトラー』といった『風と共に去りぬ』の続編が生まれたのかもしれません。

だけど、続編は微妙なものでした。遠回りの末、スカーレットがやっと本物の愛に気づいたときにレットが去る……やはりこれに勝る結末はない。泣くだけ泣いたら「明日は明日の風が吹く」と、前を向いて生きるのがスカーレットなのですから。

【追記】
人種差別や奴隷制度に対する批判から『風と共に去りぬ』を否定する動きがあるようですが、私はその考えに反対です。もちろん、人種差別や奴隷制度を正当化するものではありません。現在の倫理観をもって過去の作品を裁くことを否定しているのです。

林真理子さんもこうおっしゃっています。
しかし当時の思考や意識を、現代のそれと入れ替えることは、絶対にしてはいけないことである。
(林真理子さん『私はスカーレット』下巻 あとがき P385より引用)
深く同意します。

そして今回、林真理子さんのおかげで、スカーレットが甦ったことは本当に嬉しい限り。どんな時代になったとしても、スカーレットは読み継がれるべきヒロインだと思います。
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私はスカーレット
林 真理子(著)
小学館
1861年春。ジョージア州の大農園タラの娘スカーレット・オハラ、16歳。好きなものはパーティーとドレス、男子にもてること、幼なじみのアシュレ。嫌いなものは勉強、読書、深く考えること、戦争の話、まわりの女子。南北戦争の開戦とともに、そんな彼女の激動の人生が幕を開けるー「作家・林真理子」を生んだ名作が、極上エンタメ小説に! 出典:楽天
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池田 千波留
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コミュニティエフエムのパーソナリティ、司会、ナレーション、アナウンス、 そしてライターとさまざまな形でいろいろな情報を発信しています。
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