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まずはこれ食べて(原田ひ香)

おいしい食事は人を救う

まずはこれ食べて
原田ひ香(著)
ご飯の上に半熟目玉焼きを乗せて醤油をたらり…

白身がちょっぴり焦げていて、なんて美味しそうなんでしょう。

表紙に釣られて、原田ひ香さんの『まずはこれ食べて』を読みました。
東京目黒駅から徒歩11分。住居としても使える2DKのデザイナーズマンションを事務所にしている「ぐらんま」は、学生時代の友人たちで起業した医療系ベンチャーだ。立ち上げ当初は苦労したが、現在は軌道に乗りかなりの収益も挙げられている。

現在のメンバーはCEO 田中優一郎、営業と事務担当の池内胡雪、IT担当の桃田雄也、営業担当の伊丹大悟で、アルバイトのマイカと胡雪は女性だ。

食事や掃除は当番など決めずに、できる人がやってきたが、この頃事務所が少し荒れてきたということで、家政婦を頼むことになった。

やってきたのは筧みのりという、白髪まじりの中年女性だった。

1週間に3日出勤し、掃除と、夕食と夜食を作るのが筧の仕事だ。

筧のおかげで、事務所はピカピカになった。

しかも筧の作るご飯はどれもこれもとても美味しい。

和風のカレーうどん、ほうれん草をくたくたに煮たスープ、鯛めしはもちろん、普通のサラダですら美味しい。

「ぐらんま」の社員たちは筧の作るご飯を食べて心癒され、それぞれが抱える問題を筧に打ち明けるのだった……
(原田ひ香さん『まずはこれ食べて』の前半を私なりに紹介しました)
著者、原田ひ香さんの小説はストーリーが面白いだけではなく、いつも食事が美味しそうなのです。お腹が空いている時に読むのは酷なくらい。第一話から第六話、そしてエピローグと七つの短編から成り立っている『まずはこれ食べて』は、どの章を読んでも、筧さんの作る料理を本当に食べたくなって仕方がなくなるのでした。

「ぐらんま」のメンバーはそれぞれ問題を抱えています。

池内胡雪が平成元年生まれ、小説の中では令和を迎えているので30歳を超えたあたり、他のメンバーもおそらく同じ歳か、1、2歳しか違わないはずです。

学生時代のノリで会社を立ち上げて成功し、仲良く楽しくやってきたものの、ずっとこのままでいいのだろうか、という思い。そこに各自の恋愛や転職についての悩みがくっついてくるのです。

悩んでいる人に美味しいものを食べさせてあげたくなるのが筧さん。

自分でもこう分析しています。
みのりはわかった。
自分は腹を空かしている人間を邪険にできないのだと。彼らに冷たくしたり、拒否したりすることは絶対できないのだと。それが自分の弱点なのだと。

まずは腹を満たしてやろう。拒否するのはそれからでもできる。
(原田ひ香さん『まずはこれ食べて』P204より引用)
筧さんがそれぞれに振る舞うご飯の美味しそうなことと言ったら。

みな、食べながらついつい筧さんに心を開いて悩みや本心を打ち明けてしまうのだけれど、その気持ちはわかる気がします。

筧さんの料理が美味しいのは、基本を蔑ろにしないから。

出汁を取る、綺麗な焼き色がつくまでじっくり焼く、出来合いのドレッシングを使わない、など、特別なテクニックではない、一手間を大切にしているのです。

七つの短編のタイトルをご紹介しましょう。
第一話 その魔女はリンゴとともにやってきた
第二話 ポパイじゃなくてもおいしいスープ
第三話 石田三成が昆布茶を淹れたら
第四話 涙のあとでラーメンを食べたものでなければ
第五話 目玉焼きはソースか醤油か
第六話 筧みのりの午餐会
エピローグ
(原田ひ香さん 『まずはこれ食べて』目次より引用)
どの章にも美味しい食事が出てくるのがわかると思います。

私はてっきり普通の「グルメ小説」だと思って気楽に読み進めてしまい、後半の展開に驚かされました。

なんだ、これは単に美味しいものを食べて元気を出して、またお仕事頑張りましょう、っていう小説じゃなかったんだわ。

タイトル『まずはこれ食べて』は、悩みを抱える「ぐらんま」の社員に筧さんがかける言葉。それに倣って私も言わせていただきましょう。

これ以上小説の説明をすると、ネタバレしてしまうから「まずはこれ読んで」。

【おまけ】
第六章で洞爺湖の山の上にあるホテルが登場します。名前は「Wホテル」と伏せられているけれど、洞爺湖ウィンザーホテルだなと思いました。2015年に泊まったことがあるので、場面が想像できてとても嬉しかったです。
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【パーソナリティ千波留の読書ダイアリー】
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まずはこれ食べて
原田ひ香(著)
双葉社
アラサーの池内胡雪は、大学の友人たちと起業したベンチャー企業で働き、多忙な毎日を送っている。不規則な生活のせいで食事はおろそかになり、社内も散らかり放題で殺伐とした雰囲気だ。そんな状況を改善しようと、社長の提案で会社に家政婦を雇うことに。やってきた家政婦の筧みのりは、無愛想だが完璧な家事を行い、いつも心がほっとする料理を振る舞ってくれる。筧の食事を通じて、胡雪たち社員はだんだんと自分の生活を見つめ直すが…。人生の酸いも甘いもとことん味わう滋味溢れる連作短編集。 出典:楽天
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池田 千波留
パーソナリティ・ライター

コミュニティエフエムのパーソナリティ、司会、ナレーション、アナウンス、 そしてライターとさまざまな形でいろいろな情報を発信しています。
BROG:「茶々吉24時ー着物と歌劇とわんにゃんとー」

パーソナリティ千波留の
『読書ダイアリー』

ヒトが好き、まちが好き、生きていることが好き。だからすべてが詰まった本の世界はもっと好き。私の視点で好き勝手なことを書いていますが、ベースにあるのは本を愛する気持ち。 この気持ちが同じく本好きの心に触れて共振しますように。⇒販売HPAmazon

 



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