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そのときは彼によろしく(市川拓司)

優しい人たちの物語

そのときは彼によろしく
市川拓司(著)
私がパーソナリティを担当している大阪府箕面市のコミュニティFMみのおエフエムの「デイライトタッキー」。その中の「図書館だより」では週に一度、箕面市立図書館の司書さんが選んだ本をご紹介しています。

今回ご紹介するのは、市川拓司さんの『そのときは彼によろしく』です。
遠山智史 29歳。小さなアクアプラントの店を営み、その二階でひっそりと住んでいる。彼は、子どもの頃、父親の仕事の都合で、引越しを繰り返した。

友だちができるひまもないほど短期間で引っ越したこともある。そのせいか、智史は人付き合いが得意ではない。特に女性と付き合うということがなく、今に至る。

このままではいけないと、結婚相談所に登録し、紹介された女性と三度目のデートでようやく緊張せずに話せるようになったところ。

普通に話せるようになった原因は、話題にあるのかもしれない。転々と引越しを繰り返した中、唯一友だちができた時期のことを、彼女が興味深く聞いてくれたのだ。

恐ろしく絵のうまい佑司、容貌が美しいのに男の子みたいな花梨。そして水辺の生き物が大好きな智史。三人は放課後、秘密基地であるゴミ置場で落ち合って過ごした。そこには、ゴミに見間違うほど毛がもつれ切った犬もいた。その名もトラッシュ。

やがて父の転勤で彼らともやはり別れ別れになったけれど、佑司、花梨、そしてトラッシュと一緒に過ごした思い出なら、いくらでも言葉が出てくる智史だ。

そんなとき、智史の店にアルバイト希望者がやってきた。ひどく美しいその女性に、智史は見覚えがある。それもそのはず、アルバイト希望のその女性は、有名なモデル 森川鈴音だというのだ。

鈴音は最近は女優としても成功しており、芸能界に興味がない智史でも見覚えがあるのは当たり前かもしれない。鈴音の出現により、智史の周りの人間関係が大きく動きだす……。
(市川拓司さん『そのときは彼によろしく』の冒頭をまとめました)
市川拓司さんといえば2003年に出版された『いま、会いにゆきます』。映画化、ドラマ化されました。私は原作を読み、映画も見に行きました。『そのときは彼によろしく』はその1年後に発表された作品です。

私は市川さんの作品はこの二つしか読んでいないのですが、独特な死生観をお持ちの作家さんだと思います。どちらもとても不思議なお話です。

科学的に証明されていないことを受け入れられない人は途中で読むのが嫌になるかも。そのあたりで好き嫌いが分かれるかもしれません。でも、ファンタジーあるいはSFとして捉えればきっと楽しめると思います。

『いま、会いにゆきます』と『そのときは彼によろしく』のもう一つの共通点は、登場人物が優しいことでしょうか。見方によっては「弱い」と言えるかもしれません。

でも、人からなんと思われようと、世間的な成功を収められなくても、自分の好きなことを貫く強さを持っている人たちです。ある意味、とても強い心を持っていると言えるかも。

私は『そのときは彼によろしく』を読んでいるあいだじゅうずっと、なんだか泣きたいような気分でした。智史が語る子ども時代の思い出が美しく、郷愁をそそるのです。

もちろん、私の子ども時代の思い出は、智史たちの思い出とは全く違うものです。でも、振り返ってみると、かけがえのない思い出や、いつまでも大切にしておきたい何かが私にもあるのです。

きっと多くの人がそう感じるのではないでしょうか。

結末は容易に納得できませんでしたが、登場人物たちの思い出や会話の面白さに、最後まで引っ張られて面白く読みました。
そのときは彼によろしく
市川拓司(著)
小学館
小さなアクアプラント・ショップを営むぼくの前に、ある夜、一人の美しい女性が現れる。店のドアに貼ってあったアルバイト募集のチラシを手にしてー。採用を告げると彼女は言った。「私住むところがないの。ここに寝泊まりしてもいい?」出会うこと、好きになること、思いやること、思い続けること、そして、別れること…。ミリオンセラー『いま、会いにゆきます』の著者による、最高のロマンチック・ファンタジー。 出典:楽天
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池田 千波留
パーソナリティ・ライター

コミュニティエフエムのパーソナリティ、司会、ナレーション、アナウンス、 そしてライターとさまざまな形でいろいろな情報を発信しています。
BROG:「茶々吉24時ー着物と歌劇とわんにゃんとー」

パーソナリティ千波留の
『読書ダイアリー』

ヒトが好き、まちが好き、生きていることが好き。だからすべてが詰まった本の世界はもっと好き。私の視点で好き勝手なことを書いていますが、ベースにあるのは本を愛する気持ち。 この気持ちが同じく本好きの心に触れて共振しますように。⇒販売HPAmazon

 



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