長い間、読みたいと思っていました。
映画化された時も「三國連太郎がおじいさん役か。見たいな」と思いました。
なのに、なぜか原作も読まず、映画も見ることなく過ごすこと、なんと20年以上!
平成6年の初版から21年目の夏、
私はやっと『夏の庭ーThe Friendsー』を手に取りました。
厚さ1cmに満たないこの小説に、
なんとたくさんのことが詰まっていることか!
読み終わったあと、じんわりと心に湧き上がるあんなこと、こんなこと。
いいものを読んだなぁという満足感でいっぱいです。
***
これは小学6年生の少年たちの、ひと夏の物語。
太り気味の山下くんは魚屋の息子。
母と二人暮しの河辺くんは、家庭の事情を抱え、
どこか危うい部分を持っている。
そして ぼく。
3人は同じ塾に通い、同じ少年サッカーチームに所属している。
個性は違うけれど仲良しだ。
夏休み前に、山下くんが学校を休んだ。
田舎に住んでいるおばあさんが亡くなったので、
学校を休んで葬儀に出席していたのだという。
人が死ぬってどういうことなんだろうか?
河辺くんも ぼくも身近に死を見たことがない。
死んだらどうなるのだろう?
町外れの一軒家に、一人暮しのおじいさんがいる。
生気のないおじいさん。
もしかしたらもうすぐ死ぬんじゃないかと思ったぼくたちは
おじいさんが死ぬ瞬間を見届けることにした。
そうすれば「死」がどういうものかわかる気がして。
夏休み、おじいさんの家に通いつめる3人。
そのうち、観察していることがおじいさんにバレてしまい…
***
読み始めてすぐに、物語の世界に没頭できました。
子供のころの夏が蘇ってきたのです。
全身に浴びた日の光の色や、
扇風機の風を受けながら食べたスイカの味。
時々見える大人の世界の不条理さなどなど。
ああ、なんて懐かしい。
この小説が書かれて20年以上も経っているとは信じられません。
人間の死について。
家庭の問題について。
ちょっと大げさだけれど友情について。
そしておじいさんとの触れ合い。
少年たちが経験すること、
考えていること、学んでいくさまが、
時代を超えて普遍的なものだからだと思います。
今も「新潮文庫の100冊」に選ばれているのは、
こういうところにあるのではないかしら。
私は主人公のぼくも好きだけれど、
魚屋さんの山下くんが家業にとても誇りを持っていて、
いっぱしの「職人さん」であることがまず嬉しい。
そして、一番危うげだった河辺くん
(映画『スタンド・バイ・ミー』でいうなら、
リバー・フェニックスがやっていた少年に似ている)の成長が
本当にうれしく頼もしい。
また、子どもたちに観察されていたおじいさんが
どんどん生き生きしてくるのが良い。
生きがいって大事だなと思いました。
ここには書かないエピソードが他にもたくさんあり、
微笑ましかったり、心がしんと静かになったりします。
でもなんといっても、
夜中にトイレに行くのが怖かった山下くんが
最後に叫ぶ言葉が素晴らしい。
そうか、そんな風に思えば良いのか!と
思わず膝をポンと叩きたくなる名言でした。
出版されて21年も経つ本を今更お勧めするなんて、
お恥ずかしい限りですが、
この本はお勧め度★★★★★です。
本当に、良い小説でした。 |
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池田 千波留
パーソナリティ・ライター
コミュニティエフエムのパーソナリティ、司会、
ナレーション、アナウンス、 そしてライターと、
さまざまな形でいろいろな情報を発信しています。
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著書:パーソナリティ千波留の読書ダイアリー
ヒトが好き、まちが好き、生きていることが好き。
だからすべてが詰まった本の世界はもっと好き。
「千波留の本棚」50冊を機に出版された千波留さんの本。
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