たかじん波瀾万丈(古川嘉一郎)
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![]() たかじん波瀾万丈
古川嘉一郎(著) 昔、関西には『たかじんnoばぁ〜』という、めちゃくちゃ面白い番組がありました。
私の中ではそんなに昔という感覚はなかったのに、平成4年10月から平成8年の7月までの放送というのだからざっと20年前のことですやん!! 古い言い回しだと、ふた昔も前のこと。 ええっ?!そんなに歳月がたちましたんか、そりゃぁ私も歳をとるはずですわ、と思わずひとりごちてしまうのでした。 『たかじん波瀾万丈』の著者 古川嘉一郎は放送作家。 『たかじんnoばぁ〜』は古川さんが たかじんとタッグを組んだ番組で、深夜、おまけに大阪発でありながら視聴率25.1%を叩き出したほどの人気番組でした。 古川さんは たかじんから「お師匠さん(おっしょさん)」と呼ばれ、公私にわたって30年来の付き合いがあったとのことで、少年時代から、歌手デビューのいきさつ、競馬の話や、もはや伝説になっている「新地のはしご酒」、コンサートツアーの様子などなど、波瀾万丈なたかじんの生きざまを紹介しています。 なかでも、古川さんが製作に携わった『たかじんnoばぁ〜』のエピソードには多くのページが割かれています。 当時楽しみに見ていたものにとっては、懐かしくも嬉しい。 ご存知ない方のために、番組の内容をちょっとだけ紹介すると、たかじんのお店(バー)に、お客様が来られ、カウンター席に並んで座ってお酒を飲みながら、本音で喋る…というもの。 この本によると、たかじんのこだわりでバーのセットには1000万円以上の費用がかけられ、(関西の番組ではセットにかける予算は多くても300万円なのに)棚に並べてあるのも本物のお酒のボトル。 カウンターには本業のバーテンダーさんがいて、ゲストが注文するどんなカクテルも、その場で作って出していたとか。 酔っ払ったふりで収録していたのかと思ったけど演技じゃなかったんですねぇ。 カラオケも用意されていて、普通の飲み会みたいになっていたこともよくありましたっけ。 この本でももちろん紹介されていますが、私がとても印象に残っているのはビートたけし(北野武)がゲストの回。 たかじんがいつになく緊張していたし、マスター役としてレギュラーだった トミーズの雅などはおんおん泣き出しましたからねぇ。 ここからは私の記憶ですので、間違っていることがあるかもしれませんが… なんでも、その年に(前年だったかも)トミーズが上方演芸大賞の漫才大賞を受賞したことを祝って、ビートたけしが、東京で高級なクラブに連れて行ってくれ、お店の人に「この雅くんは 上方演芸大賞をとったんだよ。すごいんだよ」と紹介してくれたんだそうです。 「あのビートたけしが、ボクのことをお店の人にそんな風に紹介してくれて…それでボクが『ありがとうございます!ありがとうございます!!』ってたけしさんにお礼を言ったら『お礼なんか良いんだよ、今度は雅くんが若いもんにしてやったらいいんだよ』って言ってくれて…」 そう言って泣く雅を照れ臭そうに見ていた たけしが「歌でも歌うか!あれ、あの『ラジオ』歌うよ」と言いだし、歌ったのは 徳永英明『壊れかけのRadio』。 なんとも言えない味のある歌で、歌手である たかじんが、涙ぐんでいました。 記憶では、たけしの歌にのせて番組のエンディングで、それがまた余韻を生んで、素晴らしかったんです。 その時の歌声は、いまだに私の脳裏で再現できるほどです。 本にもどりますと、ビートたけしは当時すでに確固としたビッグスターでわざわざ関西収録の番組に出演してくれるかどうか、古川さんも たかじんも半信半疑だったそうです。 そのいきさつと、たけしが出してきた出演に際しての4つの条件はこの本を読んでください。 すごくカッコイイです。 そのかっこいい たけしが たかじんのことを「興味がある」と言っていたそうで。 芸風やジャンルは違っても、二人の行き方はどこか似ているのかも知れません。 やしきたかじんが亡くなって約1年半。 最近のテレビはますますつまらなくなっています。 たかじんが居てくれたらなぁと やっぱり思う。 この本は昨年4月に発行されましたが、すぐ売り切れてしまって、そのまま今日まで来てしまいました。 このタイミングで読めてよかった。 ありがとう、たかじん! やっぱり たかじんは面白かったよ。 最後に。 やしきたかじんに関する書籍として、いろいろ物議をかもしたあの本を思い浮かべる方も多いとおもいます。 失礼とは思いますが、避けることも不自然なので、ここであえて書かせていただきます。 それは百田尚樹『殉愛』 たかじんの最後の闘病に献身的に尽くした奥様のお話でした。 私はですね、百田尚樹の小説が好きなのです。(一番のお勧めは『風の中のマリア』)。 放送作家としての百田尚樹も好きです。 『探偵ナイトスクープ』は関西の宝ですよ、ええ。 ただ、作品や普段の言動から察するに、百田尚樹は感情の振れ幅が大きく、自分が感動したもの、尊敬する相手についてはとことん のめり込む人のように見えます。 そのあたりは、まるで少年がそのまま大人になった人のように思えるくらい。 『殉愛』は、献身的に尽くした奥様(の証言)に感激し、その感動の赴くままに書き上げたもののように感じました。 とてもエモーショナル。(小説だと思って読めば面白かったけど) 逆に、『たかじん波瀾万丈』は著者が自分自身の感情をあえて前面に押し出さず、淡々とエピソードを紹介しているように読めました。 もちろん、30年来の付き合いのなか、競馬やパチンコなどの笑えるエピソードや、仕事への取り組みなどから、著者とたかじんの絆は十分に感じられるのです。 だからこそ、あえて「悲しい」だの「寂しい」だの素の言葉で感情を表現しなかった著者の思いが伝わるのです。 読んだ人それぞれが、自分の中の「たかじん」を偲べるような文章と言えば良いかしら。 同じ放送作家さんが、ほぼ同じ事象を本にしてこんなに色の違うものが出来上がるのかと、その点にも感心しました。 【呼称について】 関西人の多くは やしきたかじんについては、普段から 「たかじん」と呼んで親しんでいました。 文中で「たかじんさん」というのは何かしっくりこず、あえて たかじんと呼び捨てしています。 また、北野武氏についても、本の表記に準じて「ビートたけし」にしました。 たかじん波瀾万丈
古川嘉一郎(著) たる出版(2014) たかじんの少年時代/勘当されて京都。そして/たかじんが恩人と呼ぶ人/たかじんの東京ジグザグ/29年前のインタビュー/たかじん44歳での再婚/たかじんの競馬道/たかじんの金銭哲学/コンサートツアーの裏側/たかじんエピソードあれこれ〔ほか〕 出典:楽天 ![]() 池田 千波留
パーソナリティ・ライター コミュニティエフエムのパーソナリティ、司会、ナレーション、アナウンス、 そしてライターとさまざまな形でいろいろな情報を発信しています。 BROG:「茶々吉24時ー着物と歌劇とわんにゃんとー」 ヒトが好き、まちが好き、生きていることが好き。だからすべてが詰まった本の世界はもっと好き。私の視点で好き勝手なことを書いていますが、ベースにあるのは本を愛する気持ち。 この気持ちが同じく本好きの心に触れて共振しますように。⇒販売HP/Amazon
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