ちょっとしたミステリが盛り込まれているので
ネタばれしないように気をつけつつ、あらすじを。
主人公は、魅力的な文房具を制作販売している会社に勤める斉木光生。
同僚の川岸知之、宇津木民平との3人で、マミヤ三銃士と呼ばれている。
(マミヤは会社名)
斉木光生は以前 入院していた時に
死を目前にした老人から不思議な話を聞かされていた。
それは、ある桜の木の下に三千枚のメイプル金貨を埋めた、
もし見つけたらアンタにあげよう、という内容。
その時は死ぬ間際の老人の妄想に付き合わされたと思っていたが
ふとしたきっかけから、本当の話ではないかと思い始める。
ヒントはほんのわずか。
そのヒントを元に、立ち上がるマミヤ三銃士。
その金貨は、どうやら危ない由来らしく
三人の周辺には、闇の顔を持つ金融機関の手も伸びてくる。
金貨を遺した老人の正体は?
そして本当に金貨は見つかるのか?
この小説は光生がパキスタン旅行から帰ってきたところから始まります。
その旅行途中で、肛門部に痛みを感じ、帰国早々手術。
痛みの原因だった「痔ろう」という病気の恐ろしさが延々と語られ
「こ、こわー!!!もしなったら恥ずかしがらずに
即病院に行かなくては」とおそれおののきつつも
「で?三千枚の金貨は?」とついつい思ってしまうのでした。
それは最初だけの印象ではなく、
私にはタイトルになっているメイプル金貨探しよりも
数々織り込まれているサブストーリーのほうが面白く感じられました。
文房具、釣り忍(本物は見たことがありません)。
ゴルフのベストショットを打つための極意、骨董品などのウンチクはもちろん
一時の気の迷いで浮気をした相手が会社にまで乗り込んできたとき
奥さんがどのように対応したかなどなど、
エピソードの一つ一つが、丁寧に書き込まれていてすごく面白い。
それはもしかしたら、宮本輝の小説の特徴かもしれません。
以前読んだ「約束の冬」上下のときも
ストーリーよりも、挟まれていた「空を飛ぶクモ」の話が印象深かったと
書いておりますから。
ここから先はネタばれあります。
これから読む方は避けてくださいね。
それに比べて、タイトルになっている三千枚の金貨エピソードの希薄さよ。
その金貨を遺した老人(芹沢由郎)の生い立ちや人物像も
なんとなく中途半端な感じ。
人物像を浮かび上がらせるのは
調査会社の報告書類なのだけれど
何人もの人が芹沢由郎について語る手法が
昔読んだ有吉佐和子「悪女について」を思い出させました。
金貨が埋まっている場所も
あの広大な和歌山県のどこかにポツンと咲いている見事な桜という
砂漠の中から一粒の石を見つけるような…というわりに
あっさりと見つけられちゃうんです。
ありゃりゃ。
そして金貨に関係する闇の顔を持つ金融機関も
あっさり消滅。都合よすぎませんか?という展開です。
それを補ってあまりあるのは、やはり宮本輝の筆の力で
何度も言いますが、挟まれているエピソードの一つ一つが
それだけで短編のネタになりそうな面白さです。
お勧め度は★★★☆☆
本筋が薄い分、星が少なくなりました。
【おまけ】
メイプル金貨三千枚の話が実話だと判明するきっかけとなった女性が
バーMUROYのママ、室井沙都。
ふーん、三銃士が出てきて金貨ザクザクで美女登場ときたよ、
さては沙都はミレディか?と深読みしちゃいました。
深読みしながら最後まで読んで
「え?ミレディじゃなかったやん!!」
期待を裏切られた不満がふつふつ。
いえ、勝手に深読みした私が悪いんですけどね。 |