カフカはなぜ自殺しなかったのか?(頭木弘樹)
![]() |
|
![]() どんな人の中にも迷い揺れるカフカ的な一面が潜んでいる カフカはなぜ自殺しなかったのか?
頭木 弘樹(著) カフカの代表作『変身』。「ある朝、目がさめたら、ベッドの中で虫になっていた」という、とんでもない書き出しの小説です。そんな馬鹿な、という設定なのに、ぐいぐい引き込まれる名作です。
ホラーとしても読めるでしょうし、大いなる暗喩を読み解くこともできるでしょう。暗いのに不思議な魅力を放つ作品です。 カフカはいつも生きづらさを感じていて、いつも死にたがっていたのですって。 頭木さんが、日本の作家でカフカに似ていると名前を挙げておられるのは芥川龍之介と太宰治。芥川龍之介はカフカを高く評価していたそうですし、太宰治もカフカを読んでいたようです。 その二人はともに自殺してしまいました。なのに、カフカは自殺しませんでした。 それはなぜなのかを、カフカの手紙やメモ、会話から読み解くのがこの本。自殺者が年間二万五千人もいる日本で、こういう考察は有意義かもしれません。 カフカは煮え切らない人です。いつもいつも「〜したい」と「〜したくない」の狭間を揺れています。その最たるものが結婚。 フェリーツェという女性と恋に落ち、1日に何通も手紙を書くカフカ。そしてついにプロポーズしたものの、今度は「いややっぱり僕なんかと結婚したら君は幸せになれないと思うけど、どう?」という内容の手紙を送ってしまうカフカ。 少しでも返事が遅れると、心配でたまらず次々に手紙をよこしたかと思えば、結婚が決まったとたんに臆したかのような手紙をよこすカフカを、フェリーツェはどう思ったんでしょうねぇ。 私だったら「意味不明すぎてこっちがノイローゼになるわ!」と怒りすら湧いてきそうです。いまふうに言えば「めんどくさい人!!」じゃありませんか。 ところが、どうやらフェリーツェはそんなカフカを見捨てていません。結局別の人と結婚したのに、カフカからもらった手紙を捨てることなく保存しておくのです。 著者の頭木さんは、カフカにはきっと人物的な魅力に加えて、紡ぎ出す言葉に素晴らしい魅力があったのだろうと推察しておられます。 ちょっとしたメモや会話の言葉も面白いらしく、カフカの友人だったブロートは、カフカの会話をわざわざ書き留めて残しているくらい。 ブロートは当時の流行作家で、彼のおかげでカフカの作品が後の世に出たわけですが、皮肉にもブロートの作品をいま読むことはできません。歳月に流されてしまったのです。 話がそれました。 「この人と結婚したい」と「やっぱり結婚したくない」の間を揺れ動くカフカ。読んでいると「あれ?こういう人をもう一人知っているゾ」と記憶の底でうごめくものが。それはキルケゴール。 大学一年生の時に選択した授業「青年心理学」でキルケゴールを習った時に、「なんというイジイジした人なんだろう。邪魔くさい人だわ〜」と感じたことを久々に思い出しましたわ。 カフカ自身、キルケゴールの日記を読んで、キルケゴールと自分はよく似ていると感じていたそうです。やっぱりね。 私は高校時代に『変身』を読んだものの、それ以上カフカに踏み込むことはありませんでした。 彼が「〜したい」「でもやっぱりしたくない」と揺れていたと、その当時知っていたらどう思ったことやら。多分全く理解できなかったことでしょう。 でもいまは、何となく理解できる気がするのです。理解するというよりは、そういう人もいるでしょう、と受け入れられるようになったと言うべきかも知れません。 いやどんな人の中にも、迷い揺れるカフカ的な一面が潜んでいるのかもしれません。弱い自分を否定したくなった時こそ、カフカについて知ると力が湧くかもしれませんよ。 頭木さんの他のご著書については、下記のリンクをお読みください。 ⇒「千波留の本棚『絶望名人カフカの人生論」 ⇒「千波留の本棚『絶望読書』」 カフカはなぜ自殺しなかったのか?
頭木 弘樹(著) 春秋社 いつも死にたがっていた男の生き方ー親との関係、仕事、結婚…。カフカは人生のあらゆる場面で絶望していた。それでも死を選ぶことはなかった。その事実は私たちに何を教えてくれるのか。弱さの価値をみつめなおす、現代へのヒントに満ちた一冊。 出典:楽天 ![]() ![]() 池田 千波留
パーソナリティ・ライター コミュニティエフエムのパーソナリティ、司会、ナレーション、アナウンス、 そしてライターとさまざまな形でいろいろな情報を発信しています。 BROG:「茶々吉24時ー着物と歌劇とわんにゃんとー」 パーソナリティ千波留の『読書ダイアリー』 |
OtherBook