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絶望名人カフカの人生論(フランツ カフカ )

絶望名人 カフカの人生論
フランツ カフカ(著)
カフカの『変身』を読んだのは、高校生の時だったと思います。

文学史に出てくるので、まぁ押さえておかねばなるまいて…と、受験対策として半ば義務的に読みました。

そして、「なんとまぁ、理不尽で救いのない話であろうか!」と思いました。

今風に言えば「暗っ!!」という感じだったと思います。

でも、なんとも言えず引き込まれる世界だなとは思いました。

人間、明るいものにも惹かれますが、それと同じように、暗いものに惹かれるのではないでしょうか。

『絶望名人カフカの人生論』はカフカが手紙やメモに残した文章を集めたもの。

”絶望名人”とはよく言ったもので、カフカは、ありとあらゆることに絶望しながら生きていたようです。

例えば、それは将来についてであり、自分の肉体についてであり、己の心の弱さであり、自分を束縛する親であり、学校、仕事、結婚などなど。そしてそれを綿々と手紙などに綴っています。

例えば
「将来にむかって歩くことは、ぼくにはできません。将来にむかってつまずくこと、これはできます。いちばんうまくできるのは、倒れたままでいることです」
(『絶望名人カフカの人生論』 P24より引用)
 
「バルザックの散歩用ステッキの握りには、『私はあらゆる困難を打ち砕く』と刻まれていたという。僕の杖には、『あらゆる困難がぼくを打ち砕く』とある。共通しているのは、『あらゆる』というところだけだ。」
(『絶望名人カフカの人生論』 P26より引用)
なんだそれは!!
暗くて暗くて暗すぎて、逆に笑いがこみ上げてくるよ。

あれ?この感覚、どこかで味わったことがあるような…。

お笑い芸人「ひろしです」だわ!!

試しに、ひろしのテーマ曲とも言える『ガラスの部屋』に乗せて、音読してみましょう。

「カフカです…
将来にむかって歩くことは、ぼくにはできません…」

ああ、ぴったりくる。
もしかしてひろしさんはカフカからヒントを得たのでは?

ま、それは冗談としても、カフカは20世紀最大の作家と称されることもあり、その後の作家たちに決定的な影響を与えたんですって。

カフカ以降、彼の影響を全く受けていない人はいないと言ってもいいほど、だそう。

そういえば、この本に収められているカフカの言葉、言い回しを読んでいると村上春樹さんの作品を読んでいるような錯覚に陥ることがありました。

また『李陵・山月記』の作者 中島敦さんは、作中で、ほとんどカフカと同じ心境を吐露しています。

きっと海外の作家でも、カフカの影響を受けた人は大勢いるはず。

それなのに、皮肉にも、カフカは生きている間、ずっと自分の才能や作品に自信が持てないでいました。

そして、自分が死んだら原稿は全て焼き捨てるように親友ブロートに言い残しています。

親友ブロートは当時売れっ子の作家でした。

だから出版社にもツテがあったのかもしれません。

彼は死ぬまでカフカの作品を世に出そうと努力し続けます。

今カフカが「20世紀最大の作家」と言われるのもブロートがいてこそ。

一方のブロートの作品はというと、少しも残っていません。

彼が流行作家だったのは、当時の人たちの好みに合わせて書くことができたから。

年月の波に洗われた時、残ることができなかったのです。

なんという皮肉!!

さてこの本の最後には、全てに絶望したカフカが、あることで絶望から逃れたことが書かれています。

それもかなり皮肉な話なのですが、その部分は実際に読んでみてください。

私はこれを読んで、カフカに親近感を覚えました。

そして、まだ読んだことがない他の作品を読みたくなりました。

今とても落ち込んでいる人。

元気をもらおうと、松岡修造語録を読んでみたら、あまりの元気さが眩しすぎ、勇気をもらうどころか、余計しんどくなることがあれば、ぜひこの本を読むといいと思います。

共感し、癒され、そしていつしか前を向くしかないと思えるようになるでしょう。

単なる愚痴ではないのです。

どの言葉も、さすが天才作家。
とても面白い。

本人は至って真面目なのにねぇ。
絶望名人 カフカの人生論
フランツ カフカ(著)
新潮社 (2014/10)
「いちばんうまくできるのは、倒れたままでいることです」これは20世紀最大の文豪、カフカの言葉。日記やノート、手紙にはこんな自虐や愚痴が満載。彼のネガティブな、本音の言葉を集めたのがこの本です。悲惨な言葉ばかりですが、思わず笑ってしまったり、逆に勇気付けられたり、なぜか元気をもらえます。誰よりも落ち込み、誰よりも弱音をはいた、巨人カフカの元気がでる名言集。 出典:amazon
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池田 千波留
パーソナリティ・ライター

コミュニティエフエムのパーソナリティ、司会、ナレーション、アナウンス、 そしてライターとさまざまな形でいろいろな情報を発信しています。
BROG:「茶々吉24時ー着物と歌劇とわんにゃんとー」

パーソナリティ千波留の
『読書ダイアリー』

ヒトが好き、まちが好き、生きていることが好き。だからすべてが詰まった本の世界はもっと好き。私の視点で好き勝手なことを書いていますが、ベースにあるのは本を愛する気持ち。 この気持ちが同じく本好きの心に触れて共振しますように。⇒販売HPAmazon

 



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