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噂の女(奥田英朗)

なぜか応援したくなるのが不思議

噂の女
奥田英朗(著)
奥田英朗さんといえば、代表作は2004年に第131回直木賞を受賞した『空中ブランコ』。

主人公の精神科医・伊良部は、これまで小説に登場する「医師」のイメージをことごとく壊すとんでもないドクターでした。

看護婦さんのキャラクターも際立っていて、読み始めてすぐに夢中で読んだものです。

『噂の女』は、最初はそれほどでもなかったのに、どんどん面白くなり、最後は早く次の展開が知りたくて、ドキドキしながら読みましたよ。

『噂の女』は短編集です。最初はそれぞれ独立した話かと思いますが、二つ目を読み終えた時、一人の「噂の女」の話なのだとわかります。
その女の名は糸井美幸。第1話では中古車販売店の事務員として登場する。

美幸は決して美人ではないのだが、大きく分厚い唇が肉感的で、美幸を見た男性のほとんどは、その色香にクラクラする。

美幸もそれを知っているようで、自分の魅力を最大限活用して、男を乗り換え、金をせしめる。

中古車販売店の事務員の次は、麻雀荘のアルバイト嬢。その後は、良い「カモ」を見つけたのか、結婚を決め、料理教室に現れる糸井美幸。

ついに自分の店を構えるまでになるのだが、陰ではどうやら非合法な行いに手を染めているようだ。

かつての同級生や、なんらかの形で美幸に関わった人たちの噂に登るようになる美幸。最後は……。
(奥田英朗さんの『噂の女』を大まかにまとめました。ネタバレはしていないつもりです)
男性を踏み台にして、のし上がっていく美幸ですが、高校までは地味でおとなしくモテない女の子だったらしい。

しかし専門学校に進んでから、何があったのか、メイクもファッションも態度も派手に変身。

ただ単に派手になったわけではなく、客あしらいがうまく、男性の心を掴んで離さない魅力的な女性に成長しています。

一見ピンチに見える場面でも、冷静に、時には手の内をさらけ出すようにして、敵対しているはずの相手をも魅了するほど。

美幸が利用するのは、男性ばかりではありません。自分の目的を達成するためならば、女性をも利用します。

しかし、その一方で、くすぶっている女性を引き上げ、活力を与えることもする。

パッとしない女の子に、口癖のようにかける言葉は「女は変われる」。

それは美幸自身の経験から出た言葉でしょう。

ではいったい、何があって美幸が変身したのかは、読者の想像に任せるような形になっています。

そこがもっと知りたいわ。

おそらく犯罪者であろうのに、思わず「頑張れ」と応援したくなるのが不思議です。

自分の欲望に正直で度胸のある「噂の女」糸井美幸。

ドラマ化したら面白いだろうなと思ったら、すでにドラマ化されていて、つい先日放送が終わったところでした。ショック!!(BSジャパン2018年4月14日〜6月23日)

地味で目立たなかった美幸が変身したきっかけと、この物語以降の彼女も知りたいわ。続編を期待します。

余談ですが、1人の人物を直接描くのではなく、その周辺の人の目から炙り出していく手法で、思い出したのは有吉佐和子さんの『悪女について』。

やはりドラマ化されて、劇団四季の影万里江さんが主演でした。

私はまだ小学生でしたが、毎週ドキドキしながら見た記憶があります。その後、影さんが若くして亡くなられたことも、思い返されます。

これを機会に『悪女について』も読み返してみようかしら。
噂の女
奥田英朗(著)
新潮社
「侮ったら、それが恐ろしい女で」。高校までは、ごく地味。短大時代に潜在能力を開花させる。手練手管と肉体を使い、事務員を振り出しに玉の輿婚をなしとげ、高級クラブのママにまでのし上がった、糸井美幸。彼女の道行きにはいつも黒い噂がつきまといー。その街では毎夜、男女の愛と欲望が渦巻いていた。ダークネスと悲哀、笑いが弾ける、ノンストップ・エンタテインメント! 出典:楽天
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池田 千波留
パーソナリティ・ライター

コミュニティエフエムのパーソナリティ、司会、ナレーション、アナウンス、 そしてライターとさまざまな形でいろいろな情報を発信しています。
BROG:「茶々吉24時ー着物と歌劇とわんにゃんとー」

パーソナリティ千波留の
『読書ダイアリー』

ヒトが好き、まちが好き、生きていることが好き。だからすべてが詰まった本の世界はもっと好き。私の視点で好き勝手なことを書いていますが、ベースにあるのは本を愛する気持ち。 この気持ちが同じく本好きの心に触れて共振しますように。⇒販売HPAmazon

 



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