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許されようとは思いません(芦沢央)

人間の心に潜む「魔」の物語

許されようとは思いません
芦沢 央(著)
収められている短編のタイトルをご紹介します。
「許されようとは思いません」
「目撃者はいなかった」
「ありがとう、ばあば」
「姉のように」
「絵の中の男」
(芦沢央さん『許されようとは思いません』の目次より引用)
まずは表題『許されようとは思いません』。
諒は彼女を連れて、母の実家があった村を訪ねている。

彼女とは付き合い始めて4年。そろそろプロポーズを期待されているのはわかっているが諒は踏み切ることができない。

というのも、諒の祖母は殺人の罪を犯し、刑務所で服役中に死亡したからだ。

その祖母が住んでいた村を訪ねる道すがら、諒は祖母の犯行について彼女に話し始めた……
(芦沢央さん『許されようとは思いません』の出だしを私なりにご紹介しました。)
彼女は、諒の祖母が殺人者だと知っています。

知っていてなお、諒と結婚したいと思っているので、祖母の事件について、真面目に話を聞いてくれます。

「許されようとは思いません」は、人を殺してしまった後の祖母の言葉。

最後に、その言葉の意味の新たな解釈が示唆され、読み手としては「ああ!そうだったのか!」と膝を打ちます。

途中までは、暗くやりきれない気持ちだったのが、最後に少し救われる感じでした。

他の作品も、人の心に住む「魔」を描いています。

中でも私が特に気に入ったのは、「ありがとう、ばあば」。
孫娘 杏は帰国子女。アメリカ在住中、ジャンクフードばかり食べていて、まだ9歳だというのに肥満体。

しかも転入した日本の学校ではクラスメートとうまく馴染めていない。これではいけないと、「ばあば」は腕によりをかけ、杏のために健康的な和食を作って食べさせた。

おかげで杏は10キロものダイエットに成功。元々の美しい顔立ちが際立つようになり、子役デビューも果たした。「ばあば」はマネージャーとして杏をサポートするのだが……。
(芦沢央さん「ありがとう、ばあば」の出だしを私なりに紹介しました)
元々は肥満児だった杏。

痩せたことで、肉に埋もれていた目鼻が現れ、その美しさに「ばあば」は大満足しています。

そして子役としての仕事をしている以上、子どもとはいえプロフェッショナルなのだと杏に言い聞かせ、自分も一生懸命に支えているのです。

一方杏の母親、つまり「ばあば」の娘は、子役である前に杏は自分にとって大切な子どもだと思っています。

太っていようが痩せていようが、杏は可愛いんだよ、と事あるごとに言い聞かせます。

その点においては常に「ばあば」と意見が対立します。

「ばあば」は、子役として活躍しようとしている杏にとって、肥満児だった過去は邪魔だと思っているのです。

さて、母と祖母の対立を杏はどう思っているのか。

もしかしたら「ばあば」の熱意に押されて、調子を合わせて頑張っているだけで、本当は負担に思っているのか?

いやー、最後まで読んで思わずゾクッとしました。

「子どもとは純真無垢で守るべき存在」と考えられがちだけど、子どもの心にだって「魔」は住んでいるのですね。

まぁ、自分の子ども時代を振り返ってみると、杏ほどではないにせよ「魔」は確かにいた気がします。

まだ3冊しか読んだことがありませんが、芦沢さんの小説はどれもこれも なんだか怖い。
許されようとは思いません
芦沢 央(著)
新潮文庫
「これでおまえも一人前だな」入社三年目の夏、常に最下位だった営業成績を大きく上げた修哉。上司にも褒められ、誇らしい気持ちに。だが売上伝票を見返して全身が強張る。本来の注文の11倍もの誤受注をしていたー。躍進中の子役とその祖母、凄惨な運命を作品に刻む画家、姉の逮捕に混乱する主婦、祖母の納骨のため寒村を訪れた青年。人の心に潜む闇を巧緻なミステリーに昇華させた5編。 出典:楽天
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池田 千波留
パーソナリティ・ライター

コミュニティエフエムのパーソナリティ、司会、ナレーション、アナウンス、 そしてライターとさまざまな形でいろいろな情報を発信しています。
BROG:「茶々吉24時ー着物と歌劇とわんにゃんとー」

パーソナリティ千波留の
『読書ダイアリー』

ヒトが好き、まちが好き、生きていることが好き。だからすべてが詰まった本の世界はもっと好き。私の視点で好き勝手なことを書いていますが、ベースにあるのは本を愛する気持ち。 この気持ちが同じく本好きの心に触れて共振しますように。⇒販売HPAmazon

 



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