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その女アレックス(ピエール・ルメートル)

その女アレックス
ピエール・ルメートル(著)橘明美(訳)
まずはご忠告。
翌日、朝早くから仕事があるならこの本を読み始めないほうがいいです。

特に、後半は途中でやめられません。

おかげで私はえらい目にあいました。

「その女アレックス」は「このミステリーがすごい!2015」海外編1位のみならず、「週刊文春ミステリーベスト10」、「ミステリが読みたい!」、「IN POCHET 文庫翻訳ミステリー・ベスト10」、イギリス推理作家協会賞、リーヴル・ド・ポッシュ読者賞(フランス)と史上初の6冠を達成しています。

読み終わった時に「そりゃ、選ばれるわね」と納得。

いざ、紹介…の前に、文春文庫の帯に書かれた一文が大きな縛りに。

いわく「101ページ以降の展開は、誰にも話さないでください。」

うーむ。最大限に気を配りつつ…。
舞台となるのはフランス・パリ。三十歳のアレックスは、男性が思わずハッとする美人だが恋愛はしない。現在、ある計画のことで頭がいっぱいなのだ。

最近、彼女がはまっているのはウィッグやカラーコンタクト。ウィッグ一つでこれほど印象が変わるなんて。今日もウィッグのお店でショッピングを楽しんだ後こじゃれたお店で外食してから帰宅するアレックス。独りでも人生を楽しまなくては。

ところが、自宅まであと少しのところで、アレックスは男に誘拐・監禁されてしまう。圧倒的な暴力の前に、抵抗もできないアレックス。犯人はアレックスを自作の檻に閉じ込めた上、逃げられないよう檻ごと吊るし上げて言うのだ。「おまえがくたばるところを見てやる」と。

一方、路上で若い女が誘拐されたとの目撃情報を受け警察が捜査に乗り出すことになる。しかし、被害者が誰で、どこに連れ去られたのか全くつかめない。犯人から何の要求もないため、何が目的なのかもわからない。

捜査を担当するチームの一人、カミーユは最近仕事に復帰したばかり。身重の妻が誘拐され、殺されたつらい事件からやっと回復できるかも知れないと思った矢先のこと。「誘拐事件だけは担当したくない」そんなカミーユの精神状態などおかまいなく、捜査は進められていくのだった。
小説は、アレックスとカミーユの視点で交互に語られていきます。

のっけから、眉をひそめたくなるような暴力描写があり、そういうのに弱い人は、おそらくそこでギブアップしてしまうでしょう。

できれば そこを我慢して読み進めてください。

事態は二転三転します。

誰が被害者で、誰が加害者なのか。

実際に罪を犯す人だけが悪いのか。

自らは手を汚さず、罪の意識もないままに人の一生を決定付けるほどの傷を負わせる人はどうなのか。

などなど、深い問題を含んだ展開に、夜が更けてもページをめくる手を止められなくなるでしょう。

一人の人生は終わり、一人は人生を取り戻すのが悲しくもあり、救いでもあり。(あ、ちょっとネタバレかも)

「大事なのは真実ではなくて正義」

凄惨な場面描写が多くあるのに、読後感が悪くないのは、物語の最後に語られるこのセリフのおかげだと思います。

必殺仕置人シリーズを見終わった後のような感じと言えばわかっていただけるかも。

最後に。
忘れてならないのは翻訳が滑らかで読みやすいこと。

訳者 橘明美さんの訳は、現代的でありながらきちんとした日本語で、翻訳ものだということを忘れそうになりました。

自信を持って断言します。

この小説、読む価値あり!!

ところで、「その女アレックス」は映画化されるそうです。

キャストを知らないのですが、私の脳内ではもう、アレックス=ミラ・ジョヴォビッチ。「ジャンヌ・ダルク」と「バイオハザード」を足して2で割ったらアレックスになる気がするの。

もちろん上映されたら見に行くつもりですがエグいシーンはなるべくソフトな描写でお願いしたいワ。

あの場面を実写で見るのはちょっと…。
その女アレックス
ピエール・ルメートル(著)橘明美(訳)
文藝春秋(2014/09)
おまえが死ぬのを見たいー男はそう言ってアレックスを監禁した。檻に幽閉され、衰弱した彼女は、死を目前に脱出を図るが…しかし、ここまでは序章にすぎない。孤独な女アレックスの壮絶なる秘密が明かされるや、物語は大逆転を繰り返し、最後に待ち受ける慟哭と驚愕へと突進するのだ。イギリス推理作家協会賞受賞作。 出典:楽天
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池田 千波留
パーソナリティ・ライター

コミュニティエフエムのパーソナリティ、司会、ナレーション、アナウンス、 そしてライターとさまざまな形でいろいろな情報を発信しています。
BROG:「茶々吉24時ー着物と歌劇とわんにゃんとー」

パーソナリティ千波留の
『読書ダイアリー』

ヒトが好き、まちが好き、生きていることが好き。だからすべてが詰まった本の世界はもっと好き。私の視点で好き勝手なことを書いていますが、ベースにあるのは本を愛する気持ち。 この気持ちが同じく本好きの心に触れて共振しますように。⇒販売HPAmazon

 



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