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関西ウーマンインタビュー(作家)


藤野 恵美さん(作家)

「日常のなにげない幸せ」に気づく

藤野 恵美さん
作家
小学生の時から物語を創作し始め、すでに作家になることもめざしていたという藤野恵美さん。大学卒業後の2004年に作家デビューし、以降は児童文学やミステリ、恋愛小説など、さまざまなジャンルの物語を執筆されています。

2020年11月に出版した『子どもをキッチンに入れよう! 子どもの好奇心を高める言葉のレシピ』は、藤野さんにとって初のエッセイ集。子育てと日々の食事づくりを同時に楽しむ方法について書き綴った同エッセイには、「『日常のなにげない幸せ』に気づくきっかけになれば」との想いを込めたと言います。

その背景には、藤野さん自身が葛藤した日々がありました。子育てをしながらの執筆には大変さや申し訳なさがあったと振り返ります。そんな日々の中で、藤野さんが「日常のなにげない幸せ」に気づいた出来事とは?
物語の世界で、さまざまな疑似体験を
中学・高校時代から年間500冊以上もの本を読んでおられたとのこと。本を好きになるきっかけは?
気づいたら本が大好きだったので、自分でもどうしてこんなに本を読むようになったのか、理由はわかりません。自分で文字を読めるようになったら、どんどん読んでいたという感じです。

家には本があまりなかったので、学校の図書室や図書館、あと近所に自宅の蔵書を地域の子どもたちに開放してくれている家庭文庫があって、そこによく行っていました。

学校の休み時間もずっと、休みの日は朝から晩まで1日中、本を読んでいましたし、おもしろい本と出会うと夢中になるので、気づいたら朝になっていたなんてこともあったんです。

そういえば、中学時代に、同じクラスの男の子が「本好きなんやったら、これやるわ。俺、読まへんし」と親戚からもらったという何十冊もの本をくれたことがありました。同級生からそんな申し出を受けるくらい、学校でも異様に本を読んでいたんです。
本のどんなところに魅力を感じていたのですか?
疑似体験できるところでしょうか。

子どもの頃の日常といえば、家と学校の往復くらい。同じような毎日の繰り返しに飽きていたんだと思います。それが、本を開けば、いつでも物語の世界に入っていけて、さまざまな疑似体験ができます。

小学生の時に好きだったのは『イソップ物語』や『グリム童話』などです。「弱い存在」とされているものが、知恵を使って「強い存在」をやっつけるという胸をすく展開がおもしろかったんだと思います。

自分自身が、まわりの大人から「子ども=弱い存在」とされ、特に権力を振りかざして支配しようとしてくる大人に対して嫌悪感や憤りのようなものがあったので、『イソップ物語』の登場人物と自分を重ね合わせて読んでいたのかもしれません。
本を読むだけではなく、小学生の時から物語を書いておられたそうですね。物語を書くきっかけは、何だったのですか?
小学校の教科書に、作家の星新一のショートショートが掲載されていて、失礼な話なんですが、「このくらい短い作品なら、私にも書けそう」と思ったことがきっかけです。

最初は『イソップ物語』のパロディのような感じで、教訓的な寓話というか、「悪魔が現れて取引をして、自分の思い通りにするんだけど、結局はだまされる。欲をかくと、うまくいかないね」といった落ちのあるショートショートを書いていました。

小学校でも文章を書くのが得意な子として扱われていて、先生が「はとぶえ」という児童文化誌に応募してくれて掲載されたことがあります。中学校では物語を書いたノートを交換日記みたいに友だちにまわしたり、高校では文芸部に入部して部誌を発行したりしていました。
物語を書き始めた小学生の時にはすでに作家をめざしておられたそうですね。
小学生だから、知っている職業の選択肢が少なかったというのもあります。

自分の親か、学校の先生か、あと本の作者。本のあとがきを読んで、「作家という仕事をしている人がいて、本を書いているんだ」と知って、自分もその仕事をしたいなと思ったんです。
具体的に進路を考え始める中学・高校生くらいになると、さまざまな選択肢が見えてくると思いますが、その時でも変わらなかったのはなぜですか?
自分自身を客観的に見ても、作家が向いているのかなと思ったからです。

中学・高校時代も、夜遅くまで本を読んで、物語を書いてという日々で、朝起きられず、学校を休むこともしばしば。毎日決まった時間に起きて、通勤してという生活は向いていないと思いました。

それに、成長しても、変わらずに「権力を振りかざして支配しようとする存在」への嫌悪感が強くあり、上下関係が苦手だったので、会社などの組織でやっていくのは難しいだろう、と自己分析した結果です。
「物語を書きたい」という想い
作家をめざして、芸大の文芸学科に進学されたとのこと。卒業後は一時期、フリーランスのライターをされていたそうですね。
大学で学びながら、「いい作品を書くためにはどうすればいいのだろう?」ということを常に考えていました。

その頃に愛読していた作家の開高健さんの著書に「食の描写ができることは、文章力があるということ」といったことが書かれていたので、美術学科の子たちがデッサンをする感覚で、料理の描写をしてみることを思いついたんです。

そこで、大阪府内のいろいろな飲食店を食べ歩いて、文章だけでグルメを紹介する食べ歩きサイトを運営し始めました。すると、思いもよらないことが起こったんです。サイトを見た編集者から「原稿を書いてもらえませんか?」と飲食店取材の仕事が舞い込んだのでした。

卒業後も引き続き、仕事の依頼をいただいていたので、フリーランスのライターとして仕事をしていました。
グルメライターとして本を出版する話も出ていたくらい、ご活躍されていたとのこと。その話を断ってまで、物語を書く作家として生きていこうと思われたのは、どんなタイミングだったのですか?
ライターの仕事が忙しくて、気づいたら大学を卒業して1年ほど、物語を書いていませんでした。

自分の得意な「文章を書く」というスキルを活かして仕事ができていましたし、新しい店を開拓したり料理人の技に触れたりすることは刺激的で楽しかったのですが、それだけでは満たされない、自分の中で何か溜まっていくものがあったんです。

そもそも料理の記事を書いていたのは、作家になるための文章修業だったはず。自分が書きたいのは、やっぱり物語なんだと初心に立ち返ったんです。

作家になるべく、まずは作品を応募することにしました。

小説の賞を探す中で見つけたのが、福島正実記念SF童話賞です。もともと、福島正実さんが翻訳しているジャック・フィニイという作家や『夏への扉』という作品がとりわけ好きでした。「これは運命だ!」と思い、それまでまったく童話なんて書いたことがなかったのに、童話を書いて応募したんです。

その作品は佳作に選ばれました。そして、出席した授賞式で子どもの本づくりに関わる作家や編集者の熱意に触れ、私もこの世界で仕事をしたいという想いを強くしたんです。
作家や編集者のどんな熱意に感化されたのですか?
みなさん、子どもの本に対する思い入れがすごいんです。

たまたま2次会の席で隣にいた出版社の編集長がめちゃくちゃ熱い方で、言語学などにも造詣が深く、子どもの本のおもしろさと難しさについて、いろいろと教えてくれました。

その中でも印象に残ったのは、「子どもはこれから本を好きになるかどうかという、初初しい存在。出会った児童書がおもしろければ、本への信頼感が芽生え、本を好きになるかもしれない」ということ。使命感を持って、子どもの本をつくっていることが伝わってきたんです。

それまで児童文学について通り一遍の知識しかなかったので、授賞式の後から「児童文学とは何か」について専門書などを読み、一から勉強しました。

私なりに児童文学の肝は「向日性」という生きることへの讃歌と考え、新たに作品を執筆。そうして書き上げた『ねこまた妖怪伝』という作品を、ジュニア冒険小説大賞に応募したところ、大賞を受賞し、本を出版できることになったんです。

以降は作家としてさまざまなジャンルの小説を執筆してきました。
書き上げた作品に反映される、自分自身
今も変わらず年間500冊ほどの読書量がおありになるとのこと。藤野さんにとって、読むことと書くことには、何か違いがありますか?
私にとっては、読むことも、書くことも、同じような感覚があります。読む時も、まるで翻訳するように、自分の中で物語をつくっているからです。「読む=原作ありもの」「書く=原作なしもの」という感じでしょうか。

だから、書く時も、物語が頭の中に浮かんでくるという感覚があるんです。

書きながら、自分でも思いがけないような展開だったり、「おぉっ!」と思うことをキャラクターが言い出したりと、自分自身が「この続きを読みたい」と楽しんでいます。
物語が思い浮かぶということですが、今回のエッセイのまえがきに、「日々の食事づくりへのモチベーションを高めるために、料理をつくりたくなるような小説を書こうと考えて、『初恋料理教室』を書いた」と書いておられました。

テーマなどは、藤野さん自身の日常とリンクしているのですか?
編集者との打ち合わせでしゃべっている時に「こういうことを書いてみよう」と思いつくこともありますし、基本的に執筆中の作品に集中するので、出来上がった時にまた次のテーマが浮かんでくるという感じなんです。

あと、私は根っこのところが「私小説を書くタイプ」なんだと思います。自分で意図して私小説を書こうとしているわけではなく、書き上げた時に「ああ、自分自身のことがとても反映されている」と気づくんです。

たとえば、『涙をなくした君に』という小説では、「親との確執」「家族」をテーマにしたので、書く前から自分自身のことが出てしまうかもしれないという気がしていました。だから、あえて主人公を自分とは遠い設定にしたにも関わらず、出来上がった作品には自分自身のことが反映されていたんです。

芥川龍之介やヘルマン・ヘッセなど、人生や生き方が色濃く反映されている作品を好んで読んできたので、知らず知らずのうちにその作風がインプットされているのかもしれませんし、もう私の資質みたいなものかもしれません。
期間限定の「かけがえのない幸福な時間」
これまでにどんな「壁」または「悩み」を経験されましたか?
子どもが生まれた後、仕事と家事と育児をこなすということが、ものすごく大変でした。

まず、仕事に全力投球できないことが苦しくて、苛立ちや焦りを感じることがありました。

小説のゲラを満足のいくまで読みたいし、手を入れたいのですが、ゲラを返すまでの期間に子どもの発熱など想定外のことが起きて全力投球できなくて苦しい。書きたいことはたくさんあるのに、執筆の時間をつくるのが大変。依頼されているのに取り掛かれていない原稿を抱えていて悶々とする、など。

逆に、執筆モードになると、どうしても物語の世界に没入してしまうので、子どもに対して100%の状態で心を向けてあげられないことも多く、申し訳なさにいっぱいになります。

たとえば、息子の通う幼稚園はお弁当が必要だったのですが、仕事をしながら、毎日お弁当をつくることは私にとって負担が大きく、あまり労力を割けませんでした。

同じ幼稚園には「栄養バランスに優れたお弁当」や「見た目がかわいい凝ったお弁当」を持ってきている子たちがいて、参観日などにそういう素敵なお弁当を見て、息子に「お弁当、手抜きでごめんね」と謝ったこともあります。

息子は「おなかいっぱいになったら、それで、ええねん!」と言ってくれて、本人はこちらが気にしているほど、気にしていなかったようですが。

私の完璧主義な部分がしんどさの原因だったのかなと、後になって気づきました。
完璧主義な部分がしんどさの原因であると、どうして気づけたのですか?
忙しくて、ストレスも多々あってという時期に、ぎっくり腰になったんです。いすに座ることもままならず、強制的に休まざるを得なくなったので、内省する時間を持てたからかなと思います。

その時に、整体の先生から「完璧主義な人や頑張りすぎてしまう人の場合、無理してでも頑張ろうとするけれど、身体がギブアップを知らせるために、ぎっくり腰になることもあるんですよ」と言われました。

自分自身に思い当たる節があり、「無理なものは無理」と割り切るしかないなと思い至ったんです。

息子が11歳になった今思うのは、育児をしながら仕事をする中での悩みは「時間が解決してくれることも多い」ということです。
「時間が解決してくれることも多い」とは?
息子が成長して、息子1人でいろいろなことができるようになり、かなり楽になったところがあります。渦中にいる時にはなかなか実感できないけれど、子どもが母親のそばにいたがる時期なんて、あっという間なんです。

すべては思い出に変わってしまう、そう実感した出来事があります。

それは息子が小学校に入学してしばらく経った日のこと。遠足に行く息子のために、久しぶりにお弁当をつくることになりました。ほんの数カ月前まで毎朝、早くに起きて息子にお弁当を持たせていたのに、ふいに懐かしさがこみ上げてきたんです。

もう二度と「幼稚園児の息子」にお弁当をつくってあげることはできないんだって。  

そう考えると取り返しのつかないような気持ちになりました。その時々に精一杯してきたつもりでも、「もっとこうしていればよかった」「その時間を、大切にできていたらよかった」という後悔は尽きないものです。

幼い子どもの世話をするのは人生のうちでも期間限定の「かけがえのない幸福な時間」なのだということを痛感して、そのことを今回のエッセイに書きました。

エッセイを読んだ方それぞれが、自分自身の「日常のなにげない幸せ」に気づくきっかけになればいいなと思っています。
藤野 恵美さん
2001年に大阪芸術大学文芸学部を卒業。3年ほどフリーライターをした後、2004年に『ねこまた妖怪伝』で第2回ジュニア冒険小説大賞を受賞し、作家デビュー。児童文学で活躍する一方、『初恋料理教室』(ポプラ社)や『淀川八景』(文藝春秋)など文芸作品も執筆。ほのぼの子育てミステリ小説『ハルさん』(東京創元社)は2013年度啓文堂大賞を受賞し、2017年にテレビドラマ化されるなど好評を博した。2020年から大阪芸術大学で児童文学論と小説創作演習の講師を務める。
HP: https://fujinomegumi.wordpress.com/

藤野恵美さんの最新作
子どもをキッチンに入れよう!
子どもの好奇心を高める言葉のレシピ
(ポプラ社 / 2020/11)

限られた一日の中で、子どもと過ごす時間を増やすために、育児と家事を同時に楽しもうとさまざまな方法を実践してきたという藤野さん。「子どもの『やりたい気持ち』をお手伝いにつなげる」「子どもの自信につながる料理体験」「外食でコミュニケーション能力を高める」など、ご自身の実践や経験を、自分の子ども時代の実感や1000冊以上もの育児書を読んだ中での学びや気づきなども交えながら書き綴っています。子どものお手伝いのヒント付き、親子で楽しくつくる時短料理レシピも紹介。
⇒ポプラ社

(取材:2020年11月)
editor's note
「期間限定の『かけがえのない幸福な時間』」「『日常のなにげない幸せ』に気づくこと」という藤野さんのメッセージが、心に深くしみました。

私には今、中学生の娘がいるのですが、時々「抱っこ、抱っこして」と言っていた幼い頃の娘の姿を思い出すんです。渦中にいた時は毎日が大変で、気をはっていたところがあり、娘との時間を大切にできていなかったかもしれないという後悔があるから、今でもふと過るんだと思います。

そのたびに、過去にはもう戻れないけれど、目の前にある幸せを大事にしようと思い直すんです。

その気持ちも、日々に追われてしまい、置き去りにしがちになりますが、藤野さんからいただいたメッセージを時折り思い出し、今から、ここから改めて目の前の幸せを大事にしていけたらいいなと思いました。
小森 利絵
編集プロダクションや広告代理店などで、編集・ライティングの経験を積む。現在はフリーライターとして、人物インタビューをメインに活動。読者のココロに届く原稿作成、取材相手にとってもご自身を見つめ直す機会になるようなインタビューを心がけている。
HP: 『えんを描く』

関西ウーマンインタビュー(作家) 記事一覧

  • 「日常のなにげない幸せ」に気づく子育てをしながらの執筆経験を元にエッセイを出版した藤野さん
  • 「自分らしい旗を振り続ける」世界に対する違和感・こうあってほしい世界を、書くことで表明する寮さん。
  • 「自分の身から出るものしか書けない」16年の公募生活を経て作家デビュー。女性心理の物語を綴る大西さん
  • 「ミステリーの醍醐味は気持ちよく謎が解ける楽しさ」本格ミステリーで作家デビューを果たした川辺さん
  • 「小説を描くこととは自分の心の中を整理する作業」小説家として物語に自分の想いを投影する蓮見さん



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