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関西ウーマンインタビュー(作家)


蓮見 恭子さん(小説家)

小説を描くこととは、自分の心の中を整理する作業

蓮見 恭子さん
(小説家)
ミステリ作家としてデビューされ、現在は人間ドラマ小説にも挑戦する蓮見恭子さん。小説を書き始めたきっかけは、結婚出産後にゆらいだ「何か自分だけの世界を作りたい」という想い。趣味のつもりが、プロを目指したのは、ある方との出会いだったそうです。

物語を創作し、世の中に送り出す苦悩は「毎回が壁です」と仰る蓮見さん。常に自分との闘いに挑んでいるように感じました。
画家の夢から小説家への道
小説家としてデビューされたきっかけは?
私の場合、仕事のスタートは「横溝正史ミステリ大賞」という新人賞で、その贈賞式の席で複数の版元さんより声をかけてもらえました。

新人賞を主催する版元さんで仕事をしながら、他でも原稿を書き、刊行された本を読んだ方が、また声をかけてくれてという形で、仕事の幅が広がっています。

出版業界で開かれるパーティーには顔を出しますが、営業して仕事をとるのではなく、私の仕事を見て興味を持った方がアプローチしてこられます。いわば作品が名刺がわりです。
大阪芸術大学の美術学科を卒業されていますが、もともと絵を描いておられたんですね。
子どもの頃は漫画家になりたくて、絵を学べば漫画も上手く描けるんじゃないかと思い、芸大の美術科に進みました。大学では油絵を描いていて、卒業後もすぐに就職せず、アルバイトをしながら制作を続け、公募美術団体に出していたんです。

25歳の頃、さすがにこのままじゃまずいという焦りもあって、1度ちゃんと仕事をしようと思い、印刷会社に入りました。

そこでは記事入力オペレーターとして、広報誌や業界新聞、スポーツ新聞から持ち込まれた原稿をワープロに打ち込む仕事をしていました。 まだメールも無く、原稿用紙に手書きが主流の時代です。入力した記事をフロッピーに落として、次の工程に渡していました。
その仕事の経験が、後のデビュー作に繋がるんですね。
30歳で出産を機に退職しましたが、子供が10ケ月になった頃、元の職場から「戻ってこないか」と呼んでもらえて仕事を再開しました。

復帰後に就いたのが、スポーツ新聞の競馬面を作る仕事でした。4人のオペレーターがシフトを組んで担当していましたが、常に緊張感とプレッシャーがあり、今、思い出しても胃が痛くなります。

緊張がピークに達するのが金曜と土曜の朝。予想記者の印(◎とか▲など)が入った馬柱が掲載される紙面が発売される日で、最後は時間との戦いになります。降版前は殺気立った異様な雰囲気でしたね。

印刷会社には出産を挟んで15年勤務しましたが、この前職で得た競馬の知識が、デビュー作の競馬ミステリ『女騎手』と、同じシリーズの『無名騎手』の執筆に活かされました。
自分だけの世界を持ちたい
小説家を目指そうと思われたのはなぜですか?
最初は「残業しなくていいよ」と言ってもらえて、すごく良い条件で仕事に戻れたのですが、声をかけてくれた上司が異動すると早出や残業も頼まれるようになりました。

いつしか、仕事場と保育園、自宅の往復という生活に心が悲鳴を上げていたのでしょうね。今から思うと贅沢な悩みですが、何か自分だけの世界を持ちたいと考えるようになったんです。

その頃の私は35歳くらい。女性として迷いの多い時期だったのでしょう。四柱推命やカラーコーディネーター養成講座など、色んな教室の体験講座に参加しながら、並行して小説も書いていました。子どもがまだ小さかったので、紙と鉛筆だけで書ける小説は気軽に始められるのが良かったんです。

ある時、『ケイコとマナブ』に、小説教室「創作サポートセンター」(当時は「大阪シナリオ学校 エンターテインメントノベル講座」)の案内が載っているのを見つけました。「小説の書き方って教えてもらえるの?」と驚きましたが、とりあえず見学に行ったら、すごくおもしろかったんです。

最初は、「どうしてもプロになりたい」という強い気持ちもなく、良い趣味になればと、1年だけのつもりが、思いのほかのめり込んでしまいました。

小説教室では現役の作家や編集者の方たちが、生徒が提出した原稿を読んで、感想を述べたり修正点を指摘してくれました。

自分が書いた作品を挟んだ交流が、当時の私の気持ちにしっくりとハマったのでしょうね。作品指導の度に「ああ、これこれ! 私が求めていたものは」と楽しかったです。

印刷会社の仕事は、決められた手順を要領よくこなす事が求められ、そこに自分のオリジナリティは必要なかったんです。それなりの充実感はあったものの、自分らしくないと感じていたんだと思います。

大学時代、自分の描いた絵を先生に講評をしてもらっていたことを思い出し、何かを表現してリアクションが返ってくる事が、私にとっての「喜び」なのだと気付きました。
なぜミステリだったのですか?
最初は手当たり次第に書いていました。何か書きたい、でも何を書いていいか分からない。純文学も書きましたし、ファンタジーやホラーも書きました。何が言いたいのか分からないと言われるようなものも書いていました。

そのうち、ミステリを書いたときに新人賞の予選を通過する率が上がり、最終候補にも残れるようになったんです。

そこから、だんだんミステリに絞って書くようになったんですが、最初の頃は書くものが決まってなかったので、教室にいろんなジャンルの先生がおられたのは幸運でした。
鮮烈な出会いからプロを目指す!
プロになることを意識し始めたのはいつですか?
私より1年あとに入学してきた方ですが、物凄い小説を書く女性と出会ったことです。当時を思い出すと、今でも鳥肌が立ちます。

教室では印字した原稿を簡単に製本したものが配られるのですが、彼女の作品は手に取った瞬間からオーラが出ていて、どうしたらこんなふうになれるんだろうと憧れました。

あれよあれよという間に彼女がプロデビューするのを目の当たりにして、「この人みたいに上手に書きたい」と触発されたのが、プロをめざすきっかけですね。あの出会いが無かったら、私はプロになっていなかったと思います。

彼女はハードSFが書きたくて工学部に進んだほどの人で、豊富な知識と探求心を持っているんです。教室では冒険小説や壮大なサスペンスを提出されていて、とてもじゃないけど真似できない。そこで、私は別のアプローチでミステリに挑戦しました。

当時、シャーロック・ホームズに代表される「本格ミステリ」に興味を持ち始めていて、謎解きに重点を置こうと考えたんです。

「本格ミステリ」は構成にパターンがあるので、小説の書き方の勉強にもなるし、探偵となる人物をコミカルに作ればキャラクター小説にできます。

トリックや伏線の張り方を工夫して面白くしたり、アイデアを身近なネタから選べば、私にも何か書けるんじゃないかと思って……。

彼女と出会ってからは、それまで以上に精力的に長編を書いては新人賞に投稿を続け、2010年に「横溝正史ミステリ大賞」で優秀賞を頂いてデビューすることができました。小説を書き始めて8年目、本気でプロを目指してから数えると5年かかりました。
受賞作は得意の競馬の話を書かれたんですね。
以前から、「競馬の話を書けばいいのに」と言われていましたが、そもそも、(競馬の)仕事からの逃避で小説を書いていたわけですから、なかなかそういう気持ちになれませんでした。

でも、新人賞で何度も落とされた時に、やっぱり他の人が書けないものを出さないと駄目だと考えたんです。

実は受賞する前の年に、「鮎川哲也賞」の最終候補に残っていたんですが、その選考委員だった作家の1人が、「横溝正史ミステリ大賞」でも選考委員をされていて、私の事を覚えていてくれたんです。

応募作への評価以外に、2つの賞に全くタイプの違う原稿を応募してきた点に感心されたみたいですね。本来は大賞受賞者が決まって終わりだったところを、その方がプッシュしてくださったおかげで、優秀賞をいただけたそうです。頑張っていたら誰かが見てくれているんだなと、嬉しかったですね。
新人賞を取るには、やはり秘訣があるのでしょうか
小説って人によって好みがありますよね。満場一致で決まるレベルのものを出せれば良いのですが、全員に評価されるものをと考えるよりは、「誰か1人が10点満点をつけてくれればいい」という気持ちで書くと強いんじゃないでしょうか。

聞いた話ですが、ある賞で2つの応募作が競った際、一方の作品に決まりかけていたのが、選考委員の1人が「これを世に出しても何も起こらない。でも、こちらは欠点だらけだけど化ける可能性がある」とひっくり返されたことがあるそうです。

つまり、減点法じゃなくて加点法で選ばれたんです。人の心を動かすのは、欠点に目を瞑らせるほどの魅力とか破格な面白さで、書き手の「好き!」とか、「自分はこれで勝負する」という覚悟を押し出すのが、突破する秘訣だと思います。

新人賞は “新人”を発掘するイベントですから、今までなかった新しい「お土産」を持ってゆかなければいけない。既に存在するものなら新人の本を出す意味がない。「これは誰も書かなかった!」というサプライズが必要なんです。

私の競馬の話も、女性があまり書かない世界を書いたところを評価してもらえたのであって、これがもし男性であれば興味を持ってもらえたかどうか……。
仕事として小説を書くこととは
小説を書くことが仕事になると、何が違いますか?
新人賞では「何か新しいものが必要」と言いましたが、実際に仕事となると、あまり変わったものは求められないのかなというのが、私の印象です。

版元さんは本を売るのが仕事ですから、「今はこういうものが売れているから書いて欲しい」と注文されることもあります。

作家の中には、自分が興味を持てないものは書きたくないという方もいますが、知らない世界を書くことで世界は広がります。

今回の駅伝の話でも、既刊で競馬のレースシーンを書いていたので、人が走る場面も書けるだろうと安易に考えていたら、これが予想以上に難しく、非常に勉強になりました。

長い距離を走る場合、ただ走るだけではなく目標タイムを設定したり、ペースを考えながら走ったりと、数字が非常に重要でした。

登場する陸上部員は10人以上いて、それぞれ実力差がある。その書き分けにも苦労して、元陸上部員の担当編集者から「こんなに急に速くなりません」とか、「このタイムでは遅すぎます」と指摘をもらいながらの執筆でした。

頭で数字のイメージができず、自分も実際に走ってみたりして、完成までに思ったよりも時間がかかってしまいました。

この経験を通して、未知の世界を書く時には題材やテーマへの強烈な感情移入が必要で、生半可な心構えでは何も書けないのだと学びました。そして、小説と自分との距離の取り方など、これから仕事を続けてゆく上でのヒントになりました。
小説家として描き続けてきた中で、どんな壁を感じてきましたか?
全てが壁で、今も悩んでいます。作品を完成させて、壁をクリアしたかに見えても、次の作品ではまた別の壁や悩みが現れます。

担当編集者と打ち合わせをして、テーマや題材、登場人物、ストーリーを決めて、「プロット」と呼ばれる設計図を作るんですが、たまにその通り書けないときがあるんです。自分で通した企画なのに書けない。それが一番辛いですね。

このまま書いてもおもしろくないとか、地味だなとか気付いてしまう。そうなるともう1回プロットに戻るんです。

またさらに打ち合わせをして、何度も何度も書き直しして、完成が近づくと楽しいんですが、ゲラになって戻ってきたらやっぱり気に入らない。ゲラは基本、初校と再校の2回ですが、3校までやることもあります。すごく迷惑でしょう(笑)。

かと言って、いつまでも手元に置いていると、仕事になりません。だから最後はダメダメな自分を受け入れます。

なぜ書き続けるのかというと、書いていないと余計な事ばかり考えてしまうから、さっさと次に行くんです。壁を乗り越えるために次の壁に向かう。結構、業が深い仕事です(笑)。
小説を書くことで表現したいこと
蓮見さんにとって、小説を書くことってどういうことでしょう。
自分の心の中を整理する作業でしょうか。例えば、以前書いた警察小説は本来、私の日常にはない非現実的な物語を考えていたはずが、最終的に家族の問題に着地しました。

自分自身からあまりにかけ離れてしまうと地に足が付いてない感じで、書いていても落ち着かなかったんです。

物語と繋がった状態で、私の想いを表現できるのが理想かな。作者の生き方や考え方を問われるのですから、怖いですよね。
これから書いていきたいこととは?
小説とは、人間を描くことだと思うんです。それなのに、ミステリを書く時はどうしても先にオチを考えて、そこから裏返しにして物語を創り、ストーリーに都合の良いように登場人物を動かしてしまいがちです。

今後はそうじゃなくて、人を動かしてみたら、結果としてミステリになっていた、という形で良いんじゃないかと考え始めています。

来年刊行予定の新刊が「家族と家の再生」がテーマで、私が生まれ育った街が舞台。愛着のある古い家と家族を守ろうとする主人公に、古い文化が壊されつつある旧市街で交わされる人間模様を、社会問題を絡めて書いています。

こうした題材をもっと掘り下げていきたいですし、そこで日常生活や人間関係を上手く表現しながら、ゆっくり物語が展開するような話を書きたい。

蘊蓄(うんちく)やミステリ的な工夫に頼るのではなくて、人間ドラマを丁寧に書くことで読ませる小説を書きたいですね。
蓮見 恭子さん
大阪芸術大学美術学科卒。2010年『女騎手』で第30回横溝正史ミステリ大賞優秀賞を受賞しデビュー。近著に『アンフェイスフル 国際犯罪捜査官・蛭川タニア』『イントゥルージョン 国際犯罪捜査官・蛭川タニア』『拝啓 17歳の私(改題『 ガールズ空手セブンティーン 』)』『襷を、君に。』がある。
蓮見恭子HP: http://hasumik.com/

蓮見恭子さんの最新作
『襷(たすき)を、君に。』
(光文社/2016/2/18)
全国中学校駅伝大会―中学3年生の庄野瑞希は大会記録を更新する走りでチームを逆転優勝に導く。しかし、周囲の期待に押し潰され、走る意味を見失った瑞希は、陸上をやめるつもりでいた。一方、福岡・門司港で、倉本歩はテレビの中の瑞希の美しく力強い走りに魅せられる。「あの子のように走りたい」その一心で新進気鋭の港ケ丘高校陸上部に入部するが、部員は歩よりはるかに速い選手ばかりで―。二人の奇跡的な出会いが、新たな風を紡ぎだす!スポーツ小説を多く手掛けてきた著者が少女たちの葛藤と成長を描く、胸を熱くさせる青春小説!
 ⇒Amazon

(取材:2016年12月)

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  • 「自分らしい旗を振り続ける」世界に対する違和感・こうあってほしい世界を、書くことで表明する寮さん。
  • 「自分の身から出るものしか書けない」16年の公募生活を経て作家デビュー。女性心理の物語を綴る大西さん
  • 「ミステリーの醍醐味は気持ちよく謎が解ける楽しさ」本格ミステリーで作家デビューを果たした川辺さん
  • 「小説を描くこととは自分の心の中を整理する作業」小説家として物語に自分の想いを投影する蓮見さん



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