本を読んだことがない32歳がはじめて本を読む(かまど・みくのしん)
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![]() 読書の概念が変わった 本を読んだことがない32歳がはじめて本を読む
かまど(著), みくのしん(著) 私がパーソナリティを担当している大阪府箕面市のコミュニティFM みのおエフエムの「デイライトタッキー」。
その中の「図書館だより」では、箕面市立図書館の司書さんが選んだ本をご紹介しています。 2025月2月5日放送の番組では、かまど さん・みくのしん さんの『本を読んだことがない32歳が初めて本を読む』をご紹介しました。 この本は、32歳まで本を読んだことがなかった みくのしんさんに対し、かまどさんが「これ読んでみたら」と名作短編を紹介。それを みくのしんさんが「読む」様子を かまどさんがそばにいてフォローする様子を文字に書き起こしたものです。 人が読書する様子をレポートしたもの、と考えていいでしょう。 私はこの本の「はじめに」に目を通した時は大いに懐疑的でした。 「32歳まで本を読んだことがない?! そんなことある?!」と。 私が初めて本を読んだのがいつだったのか、記憶は定かではありません。 多分、幼稚園入学前には読んでいたと思います。 もちろん絵本です。まずは親が読んで聞かせてくれて、それを聴き覚えページをめくりながら声を出していたように思います。文字を読んでいたのではないにせよ、それが本との出会いであり、最初の「読書」だったことは間違いないと思います。 その後も本が好きで好きで、読書をしない日々なんて想像できない私にとって、「32歳まで本を読んだことがない」という状態が信じられませんでした。 そんなバカな。少なくとも教科書で何か短編くらいは読んだでしょうが、と思ったのです。しかも みくのしん さんのご職業はライターなんですよ。ますます本を読んだことがないなんて信じられません。 それに対しては答えがありました。 確かに みくのしんさんは国語の教科書で小説などを読んだ経験はあるのです。が、それは「読書」ではなくて「お勉強」。勉強が苦手だった みくのしんさんは、「覚える」ことでテスト対策をしていたのですって。国語も「テストに出るところを覚える」だけ。だから真の意味で文章を読むことがなかったとおっしゃっています。 一方、同じくライターである かまどさんは、子どもの頃から読書はしていました。そこで、読書初心者である みくのしんさんに読みやすいであろう短編を選んで実際に読む様子をレポートにまとめることにしました。 それが『本を読んだことがない32歳が初めて本を読む』。 この本に収められているのは、太宰治『走れメロス』、有島武郎『一房の葡萄』、芥川龍之介『杜子春』そして雨穴『本棚』を読む みくのしんさんの様子です。雨穴さんは大ヒット作『変な家』の著者です。 ここまできて私は、読書する人の様子のレポートってどんな感じなのだろう、と不思議に感じました。じーっと本を読んでいる様子を横から見て「今ページをめくりました、ちょっと眉間に皺がよってますね」とか?そんな実況中継が成り立ちますか? 実際は、全然違いました。 みくのしんさんは全て音読するのです。 そして1行、あるいは文節ごとに自分の感じたことをしゃべります。 ですので、本には、読んでいる小説の本文(引用)、みくのしんさんの言葉、それをフォローする かまどさんの言葉が繰り返されていきます。 どんな感じなのか、1冊目の太宰治『走れメロス』から拾ってみましょう。 きょう未明メロスは村を出発し、野を越え山越え、
最初は戸惑いました。十里はなれたシラクスの市にやって来た。 みく:え〜っと?この「十里はなれた」ってどういう意味? かま:距離の単位だね。一里が4キロくらいだから、40キロくらい離れた場所ってこどだよ。 みく:あぁ!「母をたずねて三千里」ってアニメもあったもんね。あれって距離のことだったんだ! (かまど・みくのしん 『本を読んだことがない32歳が初めて本を読む』P14より引用) 私の読書ペースと全然違うんですもん。 こんなに本文をぶつ切りにして、内容を把握できるのかしらん。 ところが みくのしんさんの読書風景を横から眺めているうちに、だんだん感覚が変わって来ました。 この人、すごいなと。 私だったら読み飛ばしてしまうような些細な言葉、さらっと読んでもストーリーの把握には支障がないような部分にもしっかり反応して味わっているんです。 また、物語世界への入り込み度合いも凄い。 2冊目 有島武郎『一房の葡萄』ではこんな感じ。 だからあんまり人からは、可愛がられなかったし、友達もない方でした。
なんという没入感。みく:寂しいこと言うなよ。俺がいるだろ! かま:すごいこと言い始めたな。みくのしんって友だちになろうと思って本を読んでんのかよ みく:いや、分かるよ?本の中の人と友達になれるわけないってことは理解してます。でも、俺はこんなに君のことを考えて読んでるのに…… って思っちゃうんだよ。 (かまど・みくのしん 『本を読んだことがない32歳が初めて本を読む』P122より引用) 私も登場人物に共感したり応援したり、思わず泣いてしまったりすることはあるけれど、こんなふうに声をかけることはありません。 だんだんと、私は襟を正すような気分になって来ました。 ここまで主人公に寄り添い、周囲の風景や音や色に敏感になりながら小説を読むことができるとは思いもよりませんでした。 こんな読書方法があろうとは。目から鱗です。 実は みくのしんさんの読書をナビゲートされた かまどさんも私と同じような気持ちだったようです。かまどさん自身、子どもの頃から本を読んできて、読書ができるつもりでいらしたそうですが、「あとがき」でこう語っておられます。 みくのしんの読書に並走していると、自分の読書を恥じる瞬間が何度も訪れる。なんせ同じ「一房の葡萄」でもここまで読み方が違うのだ。「今までの自分の読書はなんだったんだ」「自分はこんな風に本を読めたことがあるだろうか」と、自分の読書をちっぽけなものに感じてしまいそうになる。
本当にそう。(かまど・みくのしん 『本を読んだことがない32歳が初めて本を読む』P318より引用) 私の今までの読書って、あれで良かったんだっけ? でも、読書には「正解」はないし「間違い」もないのです。 その人の好きなように読めばいい、そのことを気づかせてくれる一冊でした。 ふざけたようなタイトルだけれど、内容はとても深い。 そして夏休みに読書感想文教室講師をしている私にとっては、今後、感想文以前に読書が苦手な生徒さんにどうアドバイスしたらいいのかのヒント満載でした。 ああ、この本に出会えて良かった!みのおエフエム「図書館だより」万歳! 余談。 「みくのしん」さんって本名なんですって。 芥川龍之介『杜子春』の冒頭を読んだ みくのしんさんと かまどさんの会話には大笑いしてしまいました。 みく:え!?「杜子春」って名前なの!? 珍しっ!
かま:みくのしん(本名:高杉 未来之進)が言えたことじゃないだろ。 こういう会話部分だけでも面白いですよ。
【パーソナリティ千波留の読書ダイアリー】 この記事とはちょっと違うことをお話ししています。 (アプリのダウンロードが必要です) ![]() 池田 千波留
パーソナリティ・ライター コミュニティエフエムのパーソナリティ、司会、ナレーション、アナウンス、 そしてライターとさまざまな形でいろいろな情報を発信しています。 BROG:「茶々吉24時ー着物と歌劇とわんにゃんとー」 ヒトが好き、まちが好き、生きていることが好き。だからすべてが詰まった本の世界はもっと好き。私の視点で好き勝手なことを書いていますが、ベースにあるのは本を愛する気持ち。 この気持ちが同じく本好きの心に触れて共振しますように。⇒販売HP/Amazon
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