人を動かす「仕掛け」(松村真宏)
仕掛けで住みやすい世界に 人を動かす「仕掛け」
松村真宏(著) これを研究する人が増えたら、世の中がもっと良くなるのではないかしら、と思う本に出会いました。
大阪大学大学院 経済学研究所教授 松村真宏さんの『人を動かす「仕掛け」』です。 『鶴の恩返し』、『うぐいすの里』などのように、昔話には、見るなと言われているものを見て、大切なものを失ってしまう話がよくあります。 「パンドラの箱」も、開けてはいけないと言われているのに、開けてしまうお話です。 古今東西、人間には禁止されたことをしたくなる習性があるようです。 他にも、自分の意思とは別のところで、行動に移したくなる条件付けはたくさんあるように思います。それをうまく利用したものが「仕掛け」です。 例えば、コンビニエンスストアや銀行のATMの床に、足跡マークが描いてあり、そこから放射状に各レジ(またはATM)に向かって矢印が伸びていたら、たいていの人はまず足跡マークのところに並び、空いたレジ(ATM)に進むのではないでしょうか? 「一列に並んで、先頭の人から空いたレジに進んでください」という文字が書かれた掲示板をおいておくより、足跡マークと矢印の方が効果があるように思いませんか? この例のように、ほとんど無意識に行動してしまうきっかけを松村さんは「仕掛け」と呼んでおられます。(「仕掛け」のちゃんとした定義については本書をお読みください) 「仕掛け」を商業的にうまく利用することもできます。 例えばスーパーなどの試食コーナー。 長時間立ちっぱなしで「いかがですか?」と勧めてくださってもちょっと立ち寄りにくい気もします。一口食べたら商品を買わなくてはいけなくなりそうで。 そこで「仕掛け」。 試食品に刺してある爪楊枝やピックを捨てるゴミ箱を「美味しかった」「普通」「おいしくなかった」など区分けしておくのです。(本文では縦軸に年齢層を配置して、年齢ごとの評価になるようにしてありました) お客様には「アンケートにお答えください」と呼びかける。 そうすると、ただ単に食べるのではなく、アンケートに答えてあげたのだから、無理に買う必要はないという気持ちになり、試食に手を伸ばす人が増えるというのです。 それはなんとなくわかる気がします。 それ以外にゴミをポイ捨てするどころか、人がポイ捨てしたゴミを拾ってでも、ゴミ箱に捨てたくなる「仕掛け」やお手洗いを綺麗に使ってもらう「仕掛け」など面白い例がたくさん書かれていました。 松村さんは今後、小学校の夏休みの宿題として、子どもたちに仕掛けづくりに取り組んでもらうことを目標になさっているんですって。 みんなが気持ちよく公衆道徳を守れるような「仕掛け」がいっぱい作られると良いなぁ。 ところで、著者の松村さんは元々人工知能の研究をしておられました。 世界で起こる色々な現象や人間の行動をデータ化して、コンピュータに覚えさせるのです。 しかし、その研究を進めるうちに、データにはなっていないことが世の中にはたくさんあると気がついたのだそうです。 そういえば、私がシステムエンジニアだった頃、同期の一人が、ある分野のスペシャリストの働きをAI 化する研究に取り組んでいました。 「どう、うまくいってる?」と聞いたら 「ある程度まではね。でも肝心の『プロの技』的なところがデータ化できないねん。『どうやって品質を見分けているんですか?』って聞いたら『うーん、勘ですワ』って言うねんもん。 そこのところこそデータ化したいのに、誰に聞いても『言葉にするのは難しい。勘としか言いようがない』って言うねん。ハァ、どうしたら良いんやろ」 とため息をついていましたっけ。 それから30年。 AI(人工知能)の進歩は目覚ましいものがありますが、それでもデータにはしにくいものがこの世界にはまだまだあるはず。 「仕掛け」に反応する人間の心も、そこに含まれている気がします。 池田 千波留
パーソナリティ・ライター コミュニティエフエムのパーソナリティ、司会、ナレーション、アナウンス、 そしてライターとさまざまな形でいろいろな情報を発信しています。 BROG:「茶々吉24時ー着物と歌劇とわんにゃんとー」 ヒトが好き、まちが好き、生きていることが好き。だからすべてが詰まった本の世界はもっと好き。私の視点で好き勝手なことを書いていますが、ベースにあるのは本を愛する気持ち。 この気持ちが同じく本好きの心に触れて共振しますように。⇒販売HP/Amazon
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