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貴婦人Aの蘇生(小川洋子)

貴婦人Aの蘇生
小川洋子(著)
小川洋子は私の好きな作家の一人。「博士の愛した数式」ですっかりメージャーになりました。

彼女の特徴はなんと言っても独特な文体。

なんというのでしょうか、読んでいると「ひっそり」「ひんやり」「ひめやか」という言葉しか思いつきませんが、そんな触感がします。

かといって冷ややかと言うのでもない。

ちょっと村上春樹にも似ているかも。

どちらも今はすたれぎみの純文学の香がします。

さて「貴婦人Aの蘇生」

ちょっと妙なところから話が始まります。

大学生の「私」は行きがかり上、伯母と同居を始めます。

動物の剥製を集める趣味のあった伯父の妻であるその伯母はロシア人。

伯父よりかなり年上で、当初は「何かたくらんでいるのでは」などと勘ぐられていた。

周囲の心配は杞憂で、伯父夫婦は仲むつまじく暮らし、剥製の収集も尋常でないほどに進んだある日、伯父が急死する。

北極グマの剥製に顔を突っ込んで…。

一人残された伯母は憑かれたように剥製に刺繍をほどこしていく。

その刺繍の図案は大小の違いはあっても全て同じ。

薔薇のモチーフの中央にアルファベットの「A」

伯母の名前は「ユーリ」なのになぜ「A」?

ロマノフ王朝最後の生き残り「アナスタシア」伝説へと物語は進み…

いつものように非常に面白かったです。

だいたい、小川洋子の小説には世にも奇妙なシチュエーションが出てくるんですけど、それが小川洋子の筆にかかると全然奇妙じゃなく、「そういうこともあるよね」と思わせられるんです。

並大抵の筆力じゃないと思います。

そして読み終わった後、泣きたいんだか微笑みたいんだかわからない、複雑な気分になりました。

長雨の中読むのに向いていると思います。
貴婦人Aの蘇生
小川洋子(著)
朝日新聞社出版(2005)
北極グマの剥製に顔をつっこんで絶命した伯父。死んだ動物たちに刺繍をほどこす伯母。この謎の貴婦人はロマノフ王朝の最後の生き残りなのか?『博士の愛した数式』で新たな境地に到達した芥川賞作家が、失われた世界を硬質な文体で描く、とびきりクールな傑作長編小説。 出典:楽天
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池田 千波留
パーソナリティ・ライター

コミュニティエフエムのパーソナリティ、司会、ナレーション、アナウンス、 そしてライターとさまざまな形でいろいろな情報を発信しています。
BROG:「茶々吉24時ー着物と歌劇とわんにゃんとー」

パーソナリティ千波留の
『読書ダイアリー』

ヒトが好き、まちが好き、生きていることが好き。だからすべてが詰まった本の世界はもっと好き。私の視点で好き勝手なことを書いていますが、ベースにあるのは本を愛する気持ち。 この気持ちが同じく本好きの心に触れて共振しますように。⇒販売HPAmazon

 



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