小川洋子は私の好きな作家の一人。
「博士の愛した数式」ですっかりメージャーになりました。
彼女の特徴はなんと言っても独特な文体。
なんというのでしょうか、読んでいると
「ひっそり」「ひんやり」「ひめやか」
という言葉しか思いつきませんが、そんな触感がします。
かといって冷ややかと言うのでもない。
ちょっと村上春樹にも似ているかも。
どちらも今はすたれぎみの純文学の香がします。
さて「貴婦人Aの蘇生」
ちょっと妙なところから話が始まります。
大学生の「私」は行きがかり上、伯母と同居を始めます。
動物の剥製を集める趣味のあった伯父の妻であるその伯母はロシア人。
伯父よりかなり年上で、
当初は「何かたくらんでいるのでは」などと勘ぐられていた。
周囲の心配は杞憂で、伯父夫婦は仲むつまじく暮らし、
剥製の収集も尋常でないほどに進んだある日、伯父が急死する。
北極グマの剥製に顔を突っ込んで…。
一人残された伯母は憑かれたように剥製に刺繍をほどこしていく。
その刺繍の図案は大小の違いはあっても全て同じ。
薔薇のモチーフの中央にアルファベットの「A」
伯母の名前は「ユーリ」なのになぜ「A」?
ロマノフ王朝最後の生き残り「アナスタシア」伝説へと物語は進み…
いつものように非常に面白かったです。
だいたい、小川洋子の小説には
世にも奇妙なシチュエーションが出てくるんですけど、
それが小川洋子の筆にかかると全然奇妙じゃなく、
「そういうこともあるよね」と思わせられるんです。
並大抵の筆力じゃないと思います。
そして読み終わった後、
泣きたいんだか微笑みたいんだかわからない、複雑な気分になりました。
長雨の中読むのに向いていると思います。 |
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池田 千波留
パーソナリティ・ライター
コミュニティエフエムのパーソナリティ、司会、
ナレーション、アナウンス、 そしてライターと、
さまざまな形でいろいろな情報を発信しています。
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著書:パーソナリティ千波留の読書ダイアリー
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