還暦着物日記(群ようこ)
着物生活の大問題にも参考になるエッセイ 還暦着物日記
群 ようこ(著) 私がパーソナリティを務めさせていただいているエフエムあまがさきの番組「昭和通二丁目ラジオ」木曜日。昭和の歌をお送りする番組です。
毎月第1週目にお送りするのが「千波留Library」。私が選んだお勧めの一冊をご紹介する時間です。 今回ご紹介するのは、群ようこさんの『還暦着物日記』。タイトルに惹かれて読みました。 「着たいときに着る、ただそれだけ」とおっしゃる群ようこさんが1月から12月まで、和装に関することを日記形式で綴ったエッセイです。 私は着物が好きです。 でも、洋服と同じで着物も、若い時には似合っていた色柄が歳をとると似合わなくなったり、襟合わせや帯の位置などもしっくりこなくなったりして、戸惑うことがあります。 私はまだ還暦ではないけれど、群さんがどんな工夫をなさっているのか、興味津々でした。 群さんは年中、そして家の中でも着物を着ることが多いだけあって、年齢に関することだけではなく、着物生活にとって大問題の暑さ、寒さ、雨対策なども参考になることがいっぱいでした。 例えば「スポンとかぶるだけの和装スリップは、便利だけれどなんとなく着物の裾がボワンと広がってしまう気がする」旨の文章には、「やっぱり?!私もそう思っていました!」と、激しく同感しました。 とはいえ、私の知っている下着の種類は本当にかぎられているため、群さんが天候や気候に応じて使い分けておられる下着類、帯板、草履など、具体的に書いてくださっているのがありがたかったです。 調べて、私にも向いていそうなものは取り入れたいものです。 それにしても、着物を「着たいときに着る」とおっしゃるだけあり、群さんは着物も帯も小物も、カジュアルからフォーマルまで、本当にたくさんお持ちです。 しかも、とってもセンスが良い! コーディネートの写真が満載で、それを見るだけでも楽しい。 こんなふうに楽しませてもらったエッセイですが、一箇所だけ「そうだろうか?」と疑問に思うことがありました。 それは、着物でスクーターに乗る女性に関する記述。 群さんのご友人の目撃談なのですが、ある雨の日、建物から出てきた和装の女性が、やおらヘルメットをかぶり、スクーターに乗って走り出したのですって。 ご友人は車で追走するような形になったのだけれど、雨で着物も帯も濡れてしまい、腰のあたりは下着の線がくっきり…… その話を聞いた群さんは眉をひそめます。 おそらく、ウォッシャブルの着物と帯だろうから、彼女にとっては全身雨合羽のような気持ちなのかもしれない、着物を気軽に着るのは良いけれど、ここまで来たかと嘆いておられます。 彼女にとっては自分が着ているのは、形は着物であっても精神的には着物ではないのだ。
(群ようこ『還暦着物日記』P118より引用) そして将来、着物でスクーターどころかバイクに乗る女性が現れたら……と想像し、「世も末だ」と締めくくっておられました。
私はこの部分に納得がいきませんでした。 雨降りの日に全身濡れそぼって運転する点についてではなく、着物にヘルメットをかぶってスクーターに乗ることや、バイクにまたがることを 非常識のように書いておられる点に。 うーむ、そうかしら? 本当に世も末でしょうか。 私は着物で車を運転します。 それだけでもひどく驚かれることがあります。 昔は日常着だったはずの着物が、お祭りか、お正月か、成人式か、結婚式か、とにかく非日常にしか着ない特別なものになってしまったため、洋服だったらなんでもないはずの行動と相いれないように思われるようになったのでしょう。 でも、マリンバ奏者の通崎睦美さんは着物で自転車に乗られます。 スクーターはその延長にあると思うんです。 スクーター女子にとって着物は日常着だったのかもしれません。 となれば、日常の移動手段であるスクーターに乗るのも自然な発想だったのでしょう。 出かけるときは雨になるとは思わず、帰り道に「仕方ないなぁ」とずぶ濡れで運転したのかも。 私はこの女子に「雨が降って大変だったねぇ。後のお手入れも大変だったでしょ」と、同情はするけど、非難はしません。 そして将来バイクに乗る着物女子が現れたら? 裾が割れるから袴にしたほうがいいんじゃない?とは進言したいけど、世も末だとは思いません。 そこだけが群さんと意見が分かれました。 最後に。 このエッセイには、群さんが着物を着ると「出かけるの?!」と超不機嫌になる老猫しいちゃんが頻繁に登場します。 昨年(2020年)11月にしいちゃんは旅立ったようです。 そう思うと、生前のしいちゃんの不機嫌すら愛おしいです。 還暦着物日記
群 ようこ(著) 文藝春秋 着物を愛して四十年。「着たいときに着る、ただそれだけ」の気ままな着物ライフを阻むのは、地球温暖化と毛皮の相棒?着物嫌いの愛猫に気を使いつつ、豪快に買い、真面目に楽しむ。大人の和装エッセイ、写真つき。 出典:楽天 池田 千波留
パーソナリティ・ライター コミュニティエフエムのパーソナリティ、司会、ナレーション、アナウンス、 そしてライターとさまざまな形でいろいろな情報を発信しています。 BROG:「茶々吉24時ー着物と歌劇とわんにゃんとー」 ヒトが好き、まちが好き、生きていることが好き。だからすべてが詰まった本の世界はもっと好き。私の視点で好き勝手なことを書いていますが、ベースにあるのは本を愛する気持ち。 この気持ちが同じく本好きの心に触れて共振しますように。⇒販売HP/Amazon
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