HOME  Book一覧 前のページへ戻る

悪玉伝(朝井まかて)

今も昔も変わらない正義のあり方

悪玉伝
朝井まかて(著)
タイトルを見ただけではどんな小説か想像もつかなかったのですが、表紙を見て、読んでみたいと思ったのです。

なんとなく見覚えのある作風だと思ったら、装画は日本画家の黒川雅子さん。

直木賞作家 黒川博行さんの奥様で、いつも黒川さんの作品の表紙を彩っておられます。そのおかげで見覚えがあったのでした。
八代将軍吉宗の時代。

大阪四ツ橋に屋敷を持つ木津屋吉兵衛。

元々は堀江にある大店 辰巳屋に生まれたが、長男が家業を継ぎ、次男の吉兵衛は木津屋の養子となったのだ。

学問好きの吉兵衛は、多くの書を集め、勉学のできる町人を集めて私塾のようなものを開いている。

一方、遊び人でもある吉兵衛は、洒落た身なりで芝居見物やお茶屋遊びもする。

病で先立った妻の後添いとして、まだ十歳だった島原の禿を身請けし、年頃になるまで育て上げた上で夫婦になるという、気の長いこともしている。

吉兵衛のやることなすこと金のかかることばかりで、そろそろ木津屋の財は先が見えてきていた。

そんな時、辰巳屋の当主だった兄が急死。店を継ぐ予定の娘婿 乙之助は頼りないばかりで、大番頭の与兵衛が幅を利かせているのを見た吉兵衛は、自分の生家である辰巳屋の力になるべく采配を振るうことにしたのだった。

その相続争いが、将来は将軍まで巻き込むことになろうとは夢にも思わずに……
(朝井まかてさん『悪玉伝』の出だしを私なりにまとめました)
私は全く知らなかったのですが、この小説は史実を基にして書かれているのだそうです。

江戸時代最大の疑獄事件「辰巳屋一件」と呼ばれ、歌舞伎の演目にもなっているのですって。

それによると、吉兵衛は、養子に入った木津屋の財産を食い潰した上、兄の死をきっかけに、実家辰巳屋に入り込み、婿養子を追い出したことになっています。

しかも追い出された婿養子の乙之助が、相続は不当であると訴えた際には、賄賂を使ってお裁きを有利に運んだということで、吉兵衛は「悪玉」として後世に伝えられているのだそう。

しかしそのことを知らない私は、タイトルの「悪玉」が誰を指すのか、最後まで全然わからないでいました。

朝井まかてさんが、これまでの「辰巳屋一件」と違う観点で書いておられるから、吉兵衛=悪玉とは思えなかったわけ。

現代においても、相続問題のこじれはよく聞く話。

誰の立場で見るかによって、正義のあり方も変わることは、今も昔も変わらないのですね。

洒落者であり、学問好きな吉兵衛の暮らしぶりと、江戸に召喚され、牢獄内での吉兵衛のサバイバルぶりの対比は非常に面白いです。

大阪のぼんぼんは、頼りなさげに見えて、意外と肝が座っています。

さすが大店の生まれ、あっぱれ。

大阪人の「東京なんぼのもんじゃい!」という気質は江戸時代からあったことも描かれております。

八代将軍吉宗や、名奉行として今でも有名な大岡越前といった歴史の花形も登場する、華やかで面白い小説でした。
悪玉伝
朝井まかて(著)
KADOKAWA
大坂の炭問屋の主・木津屋吉兵衛は、切れ長の目許に高い鼻梁をもつ、三十六の男盛り。学問と風雅を好み、家業はそっちのけで放蕩の日々を過ごしていた。そこへ実の兄の訃報が伝えられる。すぐさま実家の大商家・辰巳屋へ駆けつけて葬儀の手筈を整えるが、事態は相続争いに発展し、奉行所に訴状が出されてしまう。やがて噂は江戸に届き、将軍・徳川吉宗や寺社奉行・大岡越前守忠相の耳に入る一大事に。真っ当に跡目を継いだはずが謂れなき罪に問われた吉兵衛は、己の信念を貫くため、将軍までをも敵に回した大勝負に挑むがー。 出典:楽天
profile
池田 千波留
パーソナリティ・ライター

コミュニティエフエムのパーソナリティ、司会、ナレーション、アナウンス、 そしてライターとさまざまな形でいろいろな情報を発信しています。
BROG:「茶々吉24時ー着物と歌劇とわんにゃんとー」

パーソナリティ千波留の
『読書ダイアリー』

ヒトが好き、まちが好き、生きていることが好き。だからすべてが詰まった本の世界はもっと好き。私の視点で好き勝手なことを書いていますが、ベースにあるのは本を愛する気持ち。 この気持ちが同じく本好きの心に触れて共振しますように。⇒販売HPAmazon

 



OtherBook

千波留の本棚

82歳の敏腕セキュリティ・コンサルタ…

御社のデータが流出しています(一田和樹)

千波留の本棚

現実世界でもちゃんと議論するべき問題

代理母、はじめました(垣谷美雨)

千波留の本棚

まずは自分がバカだと悟る

バカとつき合うな(堀江貴文 西野亮廣)




@kansaiwoman


■ご利用ガイド




HOME