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すぐ死ぬんだから(内館牧子)

何歳になってもお洒落でいたい

すぐ死ぬんだから
内館牧子(著)
昨年映画化もされた話題作『終わった人』の著者、内館牧子さんの『すぐ死ぬんだから』を読みました。
主人公 忍(おし)ハナは78歳。代々続く酒屋の跡取り息子 岩造と結婚し、接客、配達、仕入れなど、店の手伝いをしながら、二人の子どもを育ててきた。

忙しすぎて、身なりを構う暇もなかったハナだったが、あることをきっかけに、肌のお手入れを欠かさず、ファッションにも気を配るようになった。その甲斐あって、今ではとても78歳に見えない。

息子の雪男夫婦に店を譲り、夫婦で麻布のマンションに住むようになってからは、ますます自分磨きに専念できるようになった。

そのおかげだろうか、同窓会に向かう途中で、雑誌のグラビア担当者に声をかけられ、その場で写真撮影をしてもらった。それはハナが定期購読しているシニア女性向けの雑誌だ。

いつも楽しみに見ている「こんなステキな人、いるんです」のページに、自分が載るのかと思うとウキウキしてしまう。出席した同窓会でも、自分がひときわ目立つ存在だと認識できた。

夫はいつも「自分が一番自慢できることはハナと結婚したことだ」と、公言してくれている。

お洒落な後期高齢者で、夫にも大切にされ、言うことなしと思っていたハナだったが、ある日夫が急死してしまう。

突然すぎる別れに、茫然自失していたハナに、追い討ちがかかる。夫の遺言書に、とんでもない秘密が隠されていたのだ……
(内館牧子さん『すぐ死ぬんだから』の出だし部分を、私なりにまとめました)
私は去年から「普段着」の断捨離を始めました。

私の中の「普段着」とは、汚れても平気な服であり、電車で梅田(大阪)に行くには、ちょっと抵抗がある服。

それを着るについては、「今日は出かけないからこれでも良いか」という怠け心もありました。

でも昨年からは、「人間いつ死ぬかわからないんだから、毎日自分の気に入った服を着て過ごしたい」と思うようになったのです。

そんな私なので、タイトル『すぐ死ぬんだから』を見たときは、

「すぐ死ぬんだから、やりたいことをやらないといけない」

「すぐ死ぬんだから、気の合う仲間とのひと時を大切にしたい」

という意味なのだと思いました。

でも、この小説の中では、多くのご高齢者は

「すぐ死ぬんだから、楽なのが一番」

「すぐ死ぬんだから、お洒落したって仕方がない」

と言って、お洒落を放棄しているのです。

ハナさんが同窓会に出て愕然とするシーンはとてもリアルでした。

くすんだ色の服装で、帽子をかぶりリュックを背負った人が多い中、鮮やかな色の洋服で、3センチとはいえヒールのある靴を履いたハナさんは会場でとても目立ってしまいます。

そんなハナさんのことが気に食わないのは、学生時代人気があった女子。

今では「どうせ死ぬんだから」と、お洒落を放棄してしまった人たちです。

かつて可愛かった女子たちは、ハナさんにチクチクと嫌味を言います。

遠回しに「いい年をして、派手な格好をして」と言っているわけ。

でもハナさんは、そんなことに負けたりしません。
それでも「人間は中身よ」という人はいる。

その言葉が好きな人は、たいてい中身がない。

それを自覚し、外側から変えることだ。

外が変わると中も変わってくる。
(内館牧子さん『すぐ死ぬんだから』P198より引用)
ファッションを整えることで、中身も整ってくる、というのです。

私はその意見に大賛成。

いいぞ!ハナさん!!

途中までは、ハナさんのファッションに関するこだわりと、息子の嫁との関係などが話の主眼かと思っていたのですが、夫である岩造の急死から、びっくりするような展開になります。

なんなのそれは!ひどい!!ハナさんどうする?

読みながらハナさんのことが心配で心配で。

ところがハナさんは強いです。

心配ご無用。さすがハナさん。ああ、胸がスッキリ。

ネタバレが心配なので、具体的にはいえないけれど、本当に面白いです。

もちろん、実際に自分がハナさんの立場に立ったら、面白がってばかりはいられない事態なのですが。

急に湧き上がってきた大きな問題に対して、ハナさんがどう向き合い、どんな言葉を発するのか、人生訓にしたいことがいっぱい詰まっていました。

その中で一つを選ぶとすれば
怒りにはやめ時がある。

恨みにも憎しみにもやめ時がある。
(内館牧子さん『すぐ死ぬんだから』P288より引用)
私は餅をついたような性格(かなり恨みがましい)なのだけれど、「許す」というのは、豊かな人生を送るために、大切なことなんだなと感じました。

ハナさんの人生の一大事に、家族が色々と関わってきますが、その中でも孫の雅彦の態度、言葉がとても良い!

私は子どもがいません。当然孫もいないわけですが、こんな孫がいたら、さぞ楽しく頼もしいだろうなぁ。

中高年女性に特にオススメの小説でした。
すぐ死ぬんだから
内館牧子(著)
講談社
終活なんて一切しない。それより今を楽しまなきゃ。78歳の忍ハナは、60代まではまったく身の回りをかまわなかった。だがある日、実年齢より上に見られて目が覚める。「人は中身よりまず外見を磨かねば」と。仲のいい夫と経営してきた酒屋は息子夫婦に譲っているが、問題は息子の嫁である。自分に手をかけず、貧乏くさくて人前に出せたものではない。それだけが不満の幸せな老後だ。ところが夫が倒れたことから、思いがけない裏を知ることになるー。人生100年時代の新「終活」小説! 出典:楽天
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池田 千波留
パーソナリティ・ライター

コミュニティエフエムのパーソナリティ、司会、ナレーション、アナウンス、 そしてライターとさまざまな形でいろいろな情報を発信しています。
BROG:「茶々吉24時ー着物と歌劇とわんにゃんとー」

パーソナリティ千波留の
『読書ダイアリー』

ヒトが好き、まちが好き、生きていることが好き。だからすべてが詰まった本の世界はもっと好き。私の視点で好き勝手なことを書いていますが、ベースにあるのは本を愛する気持ち。 この気持ちが同じく本好きの心に触れて共振しますように。⇒販売HPAmazon

 



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