最高のアフタヌーンティーの作り方(古内一絵)
提供する側の人々の物語 最高のアフタヌーンティーの作り方
古内 一絵(著) 私がパーソナリティを担当している大阪府箕面市のコミュニティFMみのおエフエムの「デイライトタッキー」。その中の「図書館だより」では、箕面市立図書館の司書さんが選んだ本をご紹介しています。
今回ご紹介するのは、古内一絵さんの『最高のアフタヌーンティーの作り方』。タイトルだけ聞くとレシピ本のようにも思えますが、違います。小説でした。 アフタヌーンティーはお好きですか?私は恥ずかしながら、存在は知っていたものの、ずっと食べたことがありませんでした。 というのも、あの三段のキラキラしいしつらえが眩しく気恥ずかしかったことと、あんなにスイーツばかり食べられない、と思っていたから。 しかし、昨年、新しくなった宝塚ホテルでアフタヌーンティー デビューしてみて考えが変わりました。 「余裕で食べられる!」 おいしくて気分も上がるアフタヌーンティーを提供する側の人々の物語が『最高のアフタヌーンティーの作り方』。
遠山涼音 29歳。都心の真ん中とは思えないほど、ゆったりとした庭園を持つ桜山ホテルに就職して7年目。ようやく、念願の部署に異動となった。
それはマーケティング部のアフタヌーンティーチーム。季節ごとのアフタヌーンティーを企画・開発し、お客様に提供する部署だ。 桜山ホテルでは、7、8ヶ月前に新作のアフタヌーンティーのテーマを決定する。 涼音が初めて手がける企画はクリスマスのアフタヌーンティーだ。張り切って企画書を作成した。 まずは、調理班代表シェフとパティシエにプレゼン。それが通れば試作品が作られ、社員が試食、高評価を得て初めて商品化されることになる。 涼音の初めてのプレゼンは散々な結果となった。アフタヌーンティーの料理担当のシェフにもスイーツ担当のパテシェにも反対されたのだ。 それどころか、せっかくの企画書を最後まで読んでくれなかった。涼音はお客様に最高のアフタヌーンティーをご提供できるのか?! (古内一絵さん『最高のアフタヌーンティーの作り方』の出だしを私なりにご紹介しました。) 私が何も考えず、パクパク美味しくいただいたアフタヌーンティー。お客様に提供されるまでに、こんなにも考え抜かれていたとは。びっくりしました。
きっとそれはアフタヌーンティーに限ったことではないのでしょう。どんな仕事でも、現場は真剣であり、見えない努力を重ねているのかもしれません。 桜山ホテルでアフタヌーンティーに関わっている人たちはそれぞれ事情を抱えています。 外見ではわからない病気を抱えている人、出産・子育てと仕事の両立を模索して苦しむ女性、仕事にプライドを持ちすぎて尖りすぎ、家族に去られてしまった男性、など。 そしてお客様もいろいろです。 幸せそうにアフタヌーンティーを食べるお一人様の女性は人付き合いが苦手で職場でも浮いている。かと思うと、団体でワイワイ食べに来るお客様も。 人の数だけある事情を優しく包み、ひとときの幸せを与えるのがアフタヌーンティーなのでしょう。 古内一絵さんは食べ物の描写がお上手で、読んでいるとついつい食べたくなるのでした。 そういえば以前読んだ、古内一絵さんの『マカン・マラン 二十三時の夜食カフェ』も作中に出てくる料理が全て美味しそうでした。どちらも空腹時に読むのはちょっと辛いかもしれませんね。 ところで『最高のアフタヌーンティーの作り方』で、私が最も親しみを感じた登場人物は、涼音のおじいちゃんです。 町工場を経営していた おじいちゃんは、毎日三時には必ずおやつの時間を確保しています。しかも甘いお菓子が大好き。そしてまだ子供だった涼音にこんなことを言って聞かせました。 ”涼音、お菓子はちゃんと味わって食べなきゃいけないぞ。寝っ転がってテレビを見ながら食べたり、だらしなく際限なく食べたりしちゃ駄目なんだ”
(古内一絵さん『最高のアフタヌーンティーの作り方』P10より引用) 涼音がアフタヌーンティーの開発に携わりたくて桜山ホテルに就職したことも、元をたどればおじいちゃんの影響なのかもしれません。
おじいちゃんがそんなにも「おやつ」を大切に思うのは、第二次世界大戦の戦災孤児だったことが原因です。 そして おじいちゃんにとって大切な「おやつ体験」には、名指しはされていませんが、元宝塚歌劇団で、広島の原爆で亡くなった園井恵子さんが関係していることがズシンと胸に響きました。 私も涼音のおじいさんの言葉を胸に刻んで、今日からおやつの時間を大切にしようっと。 『マカン・マラン 二十三時の夜食カフェ』の感想はこちら。 最高のアフタヌーンティーの作り方
古内 一絵(著) 中央公論新社 人が生きていく上で、お菓子は決して必要不可欠なものではない。しかし、だからこそ、楽しく美しい。老舗・桜山ホテルで、憧れのアフタヌーンティーチームへ異動した涼音。夢にまで見た職場で初めて提出した企画書は、シェフ・パティシエの達也に却下される。悩む涼音だが、お客様、先輩、そして達也の隠れた努力を垣間見ることで、自分なりの「最高のアフタヌーンティー」企画を練り直し…。 出典:楽天 池田 千波留
パーソナリティ・ライター コミュニティエフエムのパーソナリティ、司会、ナレーション、アナウンス、 そしてライターとさまざまな形でいろいろな情報を発信しています。 BROG:「茶々吉24時ー着物と歌劇とわんにゃんとー」 ヒトが好き、まちが好き、生きていることが好き。だからすべてが詰まった本の世界はもっと好き。私の視点で好き勝手なことを書いていますが、ベースにあるのは本を愛する気持ち。 この気持ちが同じく本好きの心に触れて共振しますように。⇒販売HP/Amazon
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