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ランチのアッコちゃん(柚木麻子)

女性にエール とにかく元気になれる

ランチのアッコちゃん
柚木麻子(著)
『ランチのアッコちゃん』は表題作を含む4つの短編集です。それぞれのタイトルをご紹介しましょう。
・ランチのアッコちゃん
・夜食のアッコちゃん
・夜の大捜査先生
・ゆとりのビアガーデン
(柚木麻子さん『ランチのアッコちゃん』の目次より引用)
タイトルの「アッコちゃん」とは東京の麹町にある小学生用教材専門出版社「雲と木社」の営業部長 黒川敦子のこと。

敦子さんは45歳、独身。身長173cm、がっちりした体型です。

想像しただけで威圧感がありますね。

威圧されるのは体型のせいだけではありません。敦子さんは仕事ができる。

しかもサバサバしていて決断も早い、要は仕事のできるオンナなのです。

だけど何故か色々な人に好かれて「アッコちゃん」と呼ばれております。

第一話「ランチのアッコちゃん」では、自分にはなんの取り柄もないと思い込んでいる23歳の派遣女子が、アッコちゃん部長のおかげで徐々に自分の道を切り開くようになっていきます。

「夜食のアッコちゃん」は「ランチのアッコちゃん」と同じく、アッコちゃんと部下のお話。

てっきり「夜の大捜査先生」「ゆとりのビアガーデン」も主人公が同じかと思ったら、違いました。

この4つの短編に共通するのは主人公が、何かに迷っている女性、もしくは一見何も取り柄がないように見える女性であること。

だけど、その平凡そうな女性が次第に元気になっていく点も4編の共通点です。

読んでいてとても気分が上がります。

私が好きなのは、4つ目の「ゆとりのビアガーデン」です。
佐々木玲実は二流女子大学を卒業、大手総合商社から派生した社内ベンチャー企業に就職するも、3ヶ月で退職した。

玲実自身の都合で退職したのではない。退職せざるを得なくなるくらい、周囲を困らせるポンコツぶりだったのだ。

入社初日で会社の機器を2つも壊す。人の話を覚えられない。敬語がおぼつかない。仕事と無関係なおしゃべりばかりしている。注意力散漫。仕事関係のことをパソコンで調べているうちに、全然違うことを検索していたりする。とにかく何から何までできない社員で、最初は根気よく指導しようとしていた社長や先輩たちもだんだん冷ややかになっていった。

だが玲実はなかなか打たれ強い性格で、全くめげる様子はない。そして他の社員たちよりも多く企画書を提出する。そのどれも採用されないのだが、それでも落ち込むどころか次々に新しい企画を上げる。やる気と元気だけはあるのだ。

だがある日、玲実の発注ミスでとんでもない数の事務用品が届いた時、堪忍袋の緒が切れた先輩が玲実を怒鳴りまくった。「会社の役に立たないのだったらとっとと消えて!」とまで言ってしまったのだ。

すると、それまで何があってもめげることがなかった玲実が、数日後には退職届を提出し、1ヶ月後には本当に退職してしまった。最近の若い奴は1年や2年ですぐに会社を辞めるから、多少能力が足りなくてもガッツで乗り越えるタイプの人材を雇おうということで選ばれた玲実だったのに、1年どころか入社3ヶ月で辞めてしまったではないか。

ある意味伝説のようになった玲実が、退職後1年たったころ、元の職場に姿を現した。

なんと、会社が入っているビルの屋上でビアガーデンを開業することになったので、挨拶をしに来たというのだ。

あの仕事ができない玲実がたった一人でビアガーデンを?!そんなことができるわけがない。きっとすぐ潰れるに違いない。

元同僚たちの予想に反して……。
(柚木麻子さん『ランチのアッコちゃん』第4話「ゆとりのビアガーデン」の出だしを私なりに紹介しました)
「ゆとりのビアガーデン」の主人公は佐々木玲実なのですが、物語は玲実が勤めていた会社の社長 豊田雅之の視点で語られています。

豊田は社長ではありますが、元々は親会社である大手総合商社に就職したサラリーマン。

自分の意思で新しい会社を立ち上げたのではなく、本社の意向で新たに作られた会社の社長就任を命じられた、いわば雇われ社長なのです。結果を出さねばとの思いもあって、社員に大きなノルマを課してしまうし、それを実現するためにみな夜明けまで残業したりして、社内のムードはピリピリです。社長から平社員まで疲れが蓄積してしまっているような感じ。

物語は、社長の豊田が玲実のことを回想するシーンから始まります。

いかに玲実ができの悪い社員であったかのエピソードが満載で、思わず笑ってしまいました。

まるで私自身の新人時代みたいで。

私は大学を卒業後、コンピュータ関連の会社に入社しました。

30数名の同期とともに、1ヶ月間缶詰になってプログラミング言語の講義を受け、実際にコーディングし(プログラムを組み)課題を仕上げていくのですが、私は同期の中でいつもビリ。とにかく何を教えてもらっているのかの理解が追いつかないんです。それもそのはず、プログラマーが何をする人なのかよくわかっていなかった私は、入ってから「え?タイピングすれば良いだけじゃなかったの?!」とびっくりしたのでした。

新人研修が終わったらシステムエンジニアリング部に配属されましたが、毎日泣きそうになりながら仕事をしていました。本当に泣いてしまった日もあります。全くプログラムが完成せず、毎日残業していました。だんだん残業が当たり前になってしまい、帰宅が遅くなり寝不足に。そのまま出勤するものだから午前中は眠くて頭が回らず、昼過ぎにやっと目が覚め、夕方になると「さ、頑張ろう」と思うような、そんな毎日でした。

きっと、同僚や先輩から見たら私は玲実のようだったと思います。なんてダメな新人なんだと。

しかしあまりにもダメだったのが幸いして、私は翌年の新人研修の講師に選ばれました。

「できない人の気持ちがわかるのは君しかいない!優秀な人はできない人が何につまづいているのかがわからないんだよ。そこを頼むよ」と。ニコニコ笑いながら辞令を出した上司の言葉に、素直に喜べないなと思ったことを覚えています。

それくらい出来が悪かった私なので、玲実が他人とは思えないのですが、私と玲実には根本的な違いがあります。玲実は「こりゃダメだ」と思ったらスパッと辞めて、頭を切り替える柔軟さがあるのです。

それと、玲実は人懐っこいところがあり、計算ではなく素直に人の懐に飛び込むことができます。

失敗を恐れず、新しいアイデアをどんどん試す明るさもある。

とにかく、読んでいると可愛くてたまりません。つい応援したくなります。

とはいえ、同じ職場で働いている先輩方が彼女の度重なる失敗にイライラするのもわかるんです。あのまま玲実が職場に居続けていたら、もっと職場のムードを悪くしていたことでしょう。

ビアガーデンを開業することになってからの玲実は生き生きしています。オフィスで働いていた時、山のように企画書を提出していたように、ビアガーデンを軌道に乗せるためにあれこれ新しい試みを繰り出す玲実のパワーが爽快。それにとっても可愛げがあるし、読者の私は「玲実がんばれ!」という気持ちにさせられるのでした。

だけど社長の立場から見ると、たった3ヶ月で会社を辞めていったかつての部下に「このビルの屋上でビアガーデンをやるんですぅ」と言われて 面白いはずがありません。

豊田社長は「そうか、がんばれ、応援する」と言えないんですよ。

あれだけ出来が悪かった奴に何ができる、って思うのですね。

そこには「残業残業でこんなに頑張っている自分たちでも成果を上げるのに苦労しているのに、こんな能天気なことで事業が成功するはずがない、いや、成功して良いはずがない」という気持ちがあるわけです。

玲実が繰り出す奇抜な戦略とその成果、それを傍観する社長の豊田の心理、二つの対比が面白くて、あれよあれよという間に読み終えてしまいました。

なんだか自分に自信が持てない、とか、やる気が起こらず澱んだ気分の人におすすめしたい小説です。

とても元気になれますよ。
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ランチのアッコちゃん
柚木麻子(著)
双葉社
地味な派遣社員の三智子は彼氏にフラれて落ち込み、食欲もなかった。そこへ雲の上の存在である黒川敦子部長、通称“アッコさん”から声がかかる。「一週間、ランチを取り替えっこしましょう」。気乗りがしない三智子だったが、アッコさんの不思議なランチコースを巡るうち、少しずつ変わっていく自分に気づく(表題作)。読むほどに心が弾んでくる魔法の四編。読むとどんどん元気が出るスペシャルビタミン小説! 出典:楽天
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池田 千波留
パーソナリティ・ライター

コミュニティエフエムのパーソナリティ、司会、ナレーション、アナウンス、 そしてライターとさまざまな形でいろいろな情報を発信しています。
BROG:「茶々吉24時ー着物と歌劇とわんにゃんとー」

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ヒトが好き、まちが好き、生きていることが好き。だからすべてが詰まった本の世界はもっと好き。私の視点で好き勝手なことを書いていますが、ベースにあるのは本を愛する気持ち。 この気持ちが同じく本好きの心に触れて共振しますように。⇒販売HPAmazon

 



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