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1976に東京で(田澤拓也)

太宰治をお手本に?!

1976に東京で
田澤 拓也(著)
私がパーソナリティを担当している大阪府箕面市のコミュニティFMみのおエフエムの「デイライトタッキー」。その中の「図書館だより」では、箕面市立図書館の司書さんが選んだ本をご紹介しています。

今回ご紹介するのは、田澤拓也さんの『1976に東京で』。
タカザワは1952年(昭和27年)、青森県生まれ。6年かけて早稲田大学を卒業し、大手出版社 蒼学館に入社。

入社時、タカザワにはすでに妻がいた。相手は同じ大学のKで、母親には随分反対された。Kは4年で卒業し、先に就職していた。

2年余計に大学へ通ったタカザワは一時期、Kの収入と親からの仕送りで生活をしており、そのことを情けなく感じていたものだった。

タカザワは蒼学館の編集部に配属された。

担当することになったのは、売れ行きの良い『週間マンデー』で、新人といえども締め切り前には夜遅くまで勤務せざるを得ない。

忙しい中タカザワは、先輩やライターの仕事ぶりを見ながら、徐々に記事の書き方や取材の仕方を学んでいった。
(田澤拓也さん『1976に東京で』の出だしを私なりにご紹介しました)
主人公のタカザワくんは青森県の津軽半島で生まれています。

彼の誕生の4年前に亡くなった太宰治とは同郷で、太宰治の作品を読みふけるうち、だんだん、太宰治と自分に共通点があるように思い始めます。

簡単にいえば、自分のことを情けない奴だと思う時に、ああ、太宰治と同じだ、と感じるのです。

それ以外にも、日常生活の中で頻繁に太宰治の作品の一文を思い出してしまうのですから、かなりの太宰フェチと言えるでしょう。

私も大学での専攻は近代日本文学であり、太宰治は好きでしたから、太宰治の言葉はいくつか覚えています。
生まれてすみません。『二十世紀旗手』より
子供より親が大事、と思いたい。『桜桃』より
富士には月見草がよく似合う。『富嶽百景』より
選ばれてあることの 恍惚と不安と 二つ我にあり『葉』より
もう一つ「日本人にはハッピーと明るくいうより、俯き加減に『しあわせ』と呟く方が似合っている」というような内容の文章が印象に残っているのですが、正確な文章と作品が思い出せません。

それに比べてタカザワくんは太宰治の言葉を日常的に引用しています。

例えば、24歳で入社した出版社に初出勤する日の朝、髭を剃りながらふと、この先定年まで働くのか……と思ったら
「ここを過ぎて悲しみの市(まち)、か」と、私は太宰治の『道化の華』の一節を口にしてみた。
(田澤拓也さん『1976に東京で』P5 より引用)
といった具合です。

それぐらい自分の中に太宰治を入れ込んでいるんですね。

そもそも、女性にだらしない性格が太宰治に似ていると感じています。

2年余分に学生生活をし、妻の収入と実家からの仕送りで生計を立てている情けなさを感じる時も思うのは太宰治。

人生の窮地や岐路においても太宰治。

確かに私も太宰治は好きです。

天才だと思っています。

あの文章のうまさは尋常ではありません。

ですがいくら同郷の、尊敬する作家とは言え、太宰治を人生のお手本にするのは間違ってはいませんか?

そう、ツッコミを入れながら興味深く面白く読みました。

もう一つ興味深かったのは、編集部での仕事。

私は高校卒業時から大学4回生まで、春休みは週刊朝日の編集部にアルバイトに行っていました。

今もそうですが、出版社に大いに憧れていたのです。

当時「週刊朝日」に連載されていた、司馬遼太郎さんの『街道を行く』の手書き原稿がポンとデスクに乗っているのを見たときは、感動で震えたものです。

ほんの僅かとは言え、週刊誌の編集部の空気を知っているので、タカザワくんと先輩方との様子がありありと思い浮かびました。

タカザワくんが書きとめた「週刊誌の原稿がめきめきうまくなる七か条」は非常にためになると思い、ノートに書き写しましたよ。夏休みの読書感想文教室でも応用できそう。

タカザワくんは私より ひと世代上です。

ということは、団塊の世代の方がこの小説を読むと、もっともっと時代の空気を感じ、懐かしく思われるかもしれません。
1976に東京で
田澤 拓也(著)
河出書房新社
津軽から東京、そして出版社へ。昭和の真っ只中を生きる青年の春夏秋冬。開高健賞作家が描く「1976」の物語。 出典:楽天
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池田 千波留
パーソナリティ・ライター

コミュニティエフエムのパーソナリティ、司会、ナレーション、アナウンス、 そしてライターとさまざまな形でいろいろな情報を発信しています。
BROG:「茶々吉24時ー着物と歌劇とわんにゃんとー」

パーソナリティ千波留の
『読書ダイアリー』

ヒトが好き、まちが好き、生きていることが好き。だからすべてが詰まった本の世界はもっと好き。私の視点で好き勝手なことを書いていますが、ベースにあるのは本を愛する気持ち。 この気持ちが同じく本好きの心に触れて共振しますように。⇒販売HPAmazon

 



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