わたし、定時で帰ります。(朱野 帰子)
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![]() こういう上司「いた、いた!!」 わたし、定時で帰ります。
朱野 帰子(著) 私がパーソナリティを担当している大阪府箕面市のコミュニティFMみのおエフエムの「デイライトタッキー」。その中の「図書館だより」では週に一度、箕面市立図書館の司書さんが選んだ本をご紹介しています。
今回ご紹介するのは、朱野帰子さんの『わたし、定時で帰ります。』です。 Web制作会社に勤務している東山結衣。何があろうと、定時である午後6時には仕事を終え、会社から徒歩5分の中華料理屋へ直行。ビール中ジョッキ半額のタイムセールを明日への活力にしている32歳の独身。
結衣は一度、婚約破棄している。元婚約者 晃太郎は残業、徹夜を厭わない仕事人間で、結衣とは考え方が合わず、それが原因で破談になったのだ。二年たってようやく心の傷が癒え、今は同業他社の男性と婚約中だ。 ところが、なぜか晃太郎が結衣の会社に転職してきた。今は結衣のリーダー的立場だ。そのため勤務中にたびたび過去を思い出し、ほろ苦い思いを噛みしめる結衣だった。 あるとき、予算・納期ともに、めちゃくちゃな仕事が舞い込んでくる。そのプロジェクトに関係する社員全員がサービス残業に明けくれないと、絶対に仕上がらないだろう。 同時期に結衣は結婚準備もしなくてはならないのに。結衣は定時退社を貫けるのか?無事に結婚式にこぎつけるのか? (朱野帰子さん『わたし、定時で帰ります』を私なりにまとめました。) 私は新卒採用された会社でシステムエンジニアをしていました。もう30年ほど前の話ではあるけれど、結衣の業務内容には想像がつきました。
その上で、30年前と変わらないこと、変わっていることにいくつか気がつきました。 変わらないことの一つは、残業の多さと、残業慣れしているひとの多かったこと。 夜8時ごろに部内で夜食の手配をして「さあもうひと頑張りするか!」と気合を入れている自分に気がつき、愕然としたこともあります。 残業が当たり前になってしまっていたのですね。当時はコンビニがなかったから、夜食の手配は結構大変でしたワ。 もう一つ、決定的に小説と同じだと思ったのは、上司のこと。 現場が火を噴くような仕事を取ってくる上司がいるんですよ。 絶対に無理な納期なのに!!とブツブツ言いながらコーディング(プログラミング)をしていたことを思い出しました。 小説には失敗の原因を部下に押し付ける上司も登場しますが、それも「いた、いた!!」。 部内で考えたプロジェクトについて、社長を交えた重役会議に図ったときのこと。 発表を任されたリーダーに、重役たちの厳しい詰問が飛ぶと、部長が自分には責任はないとばかりに、リーダーに向かって「おっしゃる通りだ!どうなっているんだ君!!」と発言。 書記として出席していた私は目が点になって、思わず記録を取る手が止まりましたよ。 「このプロジェクトの最終決定をしたのはアータでしょうが!!」と。 発表していたリーダーはぐっとこらえて説明を続けていましたが、会議のあとで「最前線で戦っていたら、援護射撃どころか、味方から背中を蜂の巣にされた気分」と言っていました。 この小説ではそういう上司と無謀な仕事受注に関して第二次世界大戦の「インパール作戦」になぞらえているのがおかしくも、適切だと思いました。 こういう上司は、業種や時代に関係なく存在するものなのかも。 逆に時代は変わったんだなぁと思ったのは、ネット環境です。 インターネットがなかった時代、管理者が業務全体の進捗状況をまとめ、図表化していたと思います。でも部署全員がアクセスできる環境はありませんでした。 だから、自分の進捗状況はつかめても、他の人がどうなのかはわからない。全体がどのくらい進んでいるかもすぐにはわからなかったです。 今は帰宅してからでも、データにアクセスしてみることができるし、各自状況を更新することもできる。 はー、仕事が俯瞰できていいなぁ! ただ、そんな便利な世の中になっているのに、結衣の会社でタイムカードで勤怠管理をしていることには違和感がありました。 そこだけ昭和?という感じです。 仕事や結婚、家族の問題など、形は違っても、どんな人にも当てはまるテーマな上に、朱野さんの勢いがあり読みやすい文章のおかげで、すぐに読み終えることができました。 面白くて元気になれる小説です。 わたし、定時で帰ります。
朱野 帰子(著) 新潮社 絶対に残業しないと決めている会社員の結衣。個性豊かな同僚たちに揉まれながら働く彼女の前に、無茶な仕事を振って部下を潰すというブラック上司が現れてー。新時代を告げるお仕事小説、ここに誕生! 出典:楽天 ![]() 池田 千波留
パーソナリティ・ライター コミュニティエフエムのパーソナリティ、司会、ナレーション、アナウンス、 そしてライターとさまざまな形でいろいろな情報を発信しています。 BROG:「茶々吉24時ー着物と歌劇とわんにゃんとー」 ヒトが好き、まちが好き、生きていることが好き。だからすべてが詰まった本の世界はもっと好き。私の視点で好き勝手なことを書いていますが、ベースにあるのは本を愛する気持ち。 この気持ちが同じく本好きの心に触れて共振しますように。⇒販売HP/Amazon
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