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字幕屋は銀幕の片隅で日本語が変だと叫ぶ(太田直子)

そうだそうだ、日本語が変だ!

字幕屋は銀幕の片隅で日本語が変だと叫ぶ
太田直子(著)
夫が映画好きということがあり、私も映画はよく見るほうだと思います。最近は吹替版を見る機会も多くなりましたが、字幕で見ると、ところどころ聞き取れる単語や言い回しに、「へー、そんなふうに言うんだ」と興味深いものがあります。それはストーリー以外の楽しみ。

だけど、その字幕がどんなふうに作られているのかは、ほとんど知りませんでした。さまざまな制約、工夫、ポリシーなど、字幕翻訳者 太田直子さんの著書でいろいろなことがわかりました。

字幕を作成するうえで、正しく訳すのは当たり前のこと。でも、正しければ良いのかというとそうではなく、セリフを言っている俳優さんの口が動いている間で完結するように表示しなければいけない。なおかつ、観客が最後まで読み切れなければダメ。字数制限があるわけです。

また、喋り手の性別や個性がでるように一人称を何にするか考えたり、語尾を考えたり。確かに「私」「あたし」「僕」「俺」「拙者」……キャラクターが変わりますね。

会話の流れをよく見て、セリフを意訳することももちろんあります。

先日見た『ジオストーム』は字幕版で見ました。この本を読みかけていたので、いつも以上に字幕に注意しながら。

気象コントロール衛星開発者である主人公(ジェラルド・バトラー)がまだ10歳くらいの娘と言い合いをするシーンで、ジェラルドバトラーの「unbelievable」というセリフには「よせよ」という字幕が付いていました。へー、「信じられない」じゃないんだ、と思いました。

また、カレシの家に入ったら、知らない女性がいる…というシーン。彼に対して「talk!」と言った、そのセリフには「説明して」という字幕が付きました。なるほど。すごくリアルだわ。

ずいぶん前にみたラクロ原作の映画『危険な関係』でも印象的だった字幕がありました。

主人公のヴァルモン子爵が、「夫ある身のあなたに対する気持ちが抑えられない」と、貞淑なトゥールベル夫人を誘惑する際、英語のセリフ「beyond my control」に対する字幕は「どうにもならないのです」だったと記憶しています。

字幕翻訳者のお仕事って奥が深そうですねぇ。

太田さんは字幕翻訳の仕事をなさっていて、最近日本語が変だなと思うことが多いそうです。いろいろ挙げられていた「変」のいくつかに、私も深く共感しました。

一つ目は丁寧語や敬語の変化。「させていただく」が多すぎませんか?という問題。わかります。喋りの仕事でも感じますもの。あの人もこの人もさせていただきすぎ!!

本来「させていただく」という言葉には、相手の許可を得てするという意味が含まれています。

だけど相手の許可など必要でないことば、たとえば普通に「紹介します」でいいはずなのに、「紹介させていただきます」という言い回しがいかに多いことか。

太田さんが指摘されているのですが、最近ではそれに輪をかけて、「作らせていただく」「休ませていただく」などという言い回しも聞くようになりました。

私もテレビなどでこういう言い回しを聞くとイライラし、自分は番組でなるべく「させていただく」を言わないようにしています。

少なくとも「さ」入れことばは絶対に使わないよう心がけています。どう考えても「作らせていただく」は、文法的におかしいですから。

書き言葉の仕事にはない傾向なのかもしれませんが、私が喋りの仕事でもう一つ「変」と感じていることがあります。

それは何でもかんでも「〜したいと思います」。テレビでもラジオでも、語尾を「思います」で結ぶ人の多いこと多いこと。なぜ言い切らない?!

先ほどの「いただきたい」との合わせ技「次の曲を紹介させていただきたいと思います」なんて聞くと、私の中の違和感は頂点に達するのでありますよ。

今まさにしようとしていることは「次の曲を紹介します」でよろしかろ?もちろんこれから先のこと、決意の表明などは「したいと思います」で正解だと思いますけども。

ですが正直な所、時折、「させていただく、と言っておいたほうが無難かもね」という志の低いことが頭をよぎります。馬鹿丁寧にしゃべったほうがクレームが来なくて良いかもね、という、妥協です。

それは禁止用語についてもそう。太田さんはあれはダメ、これもダメ……と、禁止用語が増えていることをいかがなものかと思っておられる。私も同じことを日々感じています。

禁止用語を使用するかどうかと、差別の心は別物なのに、今はとにかく、この字を使ってはイカン、あの言葉を書いては(言っては)イカン……と表面的な言葉狩りが横行しているんじゃないかしら。

なんでもかんでも「させていただく」と言っておけば無難、何も考えず、禁止用語はとにかく言わないほうが無難、そんなことで本当に良いんだろうか、問題の根っこはそこにはないのでは?

『字幕屋は銀幕の片隅で日本語が変だと叫ぶ』を読んで、パーソナリティーの私も「そうだそうだ、日本語が変だ!」と叫んでしまいました。
字幕屋は銀幕の片隅で日本語が変だと叫ぶ
太田直子(著)
光文社新書
映画の字幕翻訳は、普通の翻訳と大きく違う。俳優がしゃべっている時間内しか翻訳文を出せないので、セリフの内容を100パーセント伝えられない。いうなれば字幕は、「要約翻訳」なのである。映画字幕翻訳を始めて約20年、手がけた作品数は1000本余りの著者が、外国映画翻訳の舞台裏、気になる日本語などについて綴る。 出典:Amazon

池田 千波留
パーソナリティ・ライター

コミュニティエフエムのパーソナリティ、司会、ナレーション、アナウンス、 そしてライターとさまざまな形でいろいろな情報を発信しています。
BROG:「茶々吉24時ー着物と歌劇とわんにゃんとー」

パーソナリティ千波留の『読書ダイアリー』
ヒトが好き、まちが好き、生きていることが好き。だからすべてが詰まった本の世界はもっと好き。私の視点で好き勝手なことを書いていますが、ベースにあるのは本を愛する気持ち。 この気持ちが同じく本好きの心に触れて共振しますように。⇒販売HPAmazon



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