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まあたらしい一日(いしい しんじ)

ちょっと不思議な短編集

まあたらしい一日
いしいしんじ(著)
私がパーソナリティを担当している大阪府箕面市のコミュニティFMみのおエフエムの「デイライトタッキー」。

その中の「図書館だより」では、箕面市立図書館の司書さんが選んだ本をご紹介しています。

2024月5月1日放送の番組では、いしい しんじさん文、tupera tupera絵の『まあたらしい一日』(BL出版)をご紹介しました。


ポップな表紙が印象的な本です。

収められている27の短編は、童話のようでもあるし、人生訓のようでもあります。

タイトルをご紹介しましょう。
こいぬとおひさま
日はまたのぼる
きょうはなんの日?
あかいくつ
ピヨピヨスーパー
かわいい犬
かさ
大きい一年生
ぶたぶたくん
羊をめぐる冒犬
おおきなおいも
ぼろぼろ服のおひめさま
本と踊り子
若草ものがたり
キッチン
海辺の蚊フカ
老ねこと海
せんたくもの
ハッサンのぼうし
ネリノ
ちいさなまんまるいただの玉
銀河食堂の夜
とべないほたる
DINOSAURS and HOW THEY LIVED
ねるじかんまであと10分
細雪
なんのおと
(いしいしんじさん『まあたらしい一日』の「もくじ」より引用)
タイトル『まあたらしい一日』は、この中の3つ目『きょうはなんの日?』に由来しています。


おばあちゃんは孫に、毎日聞きます。

「きょうはなんの日だい?」

おばあちゃんは歳をとりすぎて、色々なことを忘れてしまっているのですね。

毎日毎朝、同じ言葉を繰り返します。

「きょうはなんの日だい?」

孫はおばあちゃんのことを嫌いではありません。

いえ、おばあちゃんのことはずっと大好きだったのではないかしら。

だけど、そう毎日毎日同じことを聞かれるとちょっとうんざりしてしまいます。

うんざりしながらも、孫は毎日答えます。

たとえば

「おばあちゃん、きょうは憲法記念日だよ」
「きょうは七夕だよ」

というふうに。

だけどおばあちゃんは、孫がどのような答えを返しても、毎朝必ず同じ言葉を返します。

「まあたらしい一日ね」

今日がなんの日なのか毎朝ちゃんと伝えているのに、おばあちゃんが毎回同じ答えしか言わないから孫はちょっとうんざりしているのかもしれません。

ある日、いつものように問いかけられ、期末テストの日だと焦りながら答えて家を出た孫は学校に向かう途中で思い出すのです。今日はおばあちゃんのお誕生日だった、と。

ここで孫はちょっと後悔します。おばあちゃんのお誕生日だったのに「期末テストの日だよ!」と邪険に答えて家を出てきてしまった……

さて、孫はそのあとどうしたでしょうか?

それは実際に読んでくださいね。

色々なことを忘れていき、毎朝同じことばかり言うおばあちゃん。

このおばあちゃんを悲しく感じる人もいらっしゃると思います。

でも私は、歳をとってしまった時、このおばあちゃんみたいになりたいと感じました。


少し前のことです。

お義母さんを介護し、見送った友人と喋っていた時のこと。

そのお義母さんも、ご高齢になり、色々なことを忘れていったそうです。

「そうなった時に、その人の本質って出るんですね。

義母はいつもニコニコして、私にとても優しい言葉をかけてくれました。

そして最後まで上品な振る舞いをしていました。

ああ、この人は演技ではなく、芯から優しくて品のある人だったのだなと思ったんです」

友人の言葉に私は戦慄しました。

確かに、色々なことを忘れていく過程で、上辺だけ取り繕っていたものは全て外れていくはずです。

友人のお義母様のように芯から素敵な人なら良いですが、私はどんなおばあちゃんになるのかしら、想像しただけで怖い!!

もしかしたら、何でもかんでも本音で語り、周りの人を傷つけるおばあちゃんになってしまっているかも。

ものすごく品のない振る舞いをして、お世話してくださる方たちに眉をひそめさせるおばあちゃんになったらどうしよう。

ああ、怖い!!!

その点、「きょうはなんの日」のおばあちゃんは、どうですか?

今日が何の日であれ「まあたらしい一日ね」と答えるおばあちゃん。

嬉しいことがあったにせよ、悲しいことがあったにせよ、昨日は昨日。

一晩寝て、また太陽が登ってきたら ま新しい一日が始まるのだと言える、とても前向きなおばあちゃんだと思います。

できるなら私はこういうおばあちゃんになりたいです。

『まあたらしい一日』に収められている27の短編は、一つ一つはとても短いです。

ご紹介した「きょうはなんの日」は、あっという間に読めますが、じんわりと人生訓を感じる作品でした。

とはいえ全ての短編が人生訓ではありません。

そんな説教くさい本ではないのです。

『日はまたのぼる』『あかいくつ』『ぶたぶたくん』『羊をめぐる冒犬』『若草物語』『キッチン』『海辺の蚊フカ』『老ねこと海』『銀河食堂の夜』『細雪』…どこかで見たような、聞いたようなタイトルも。

27の作品からお気に入りを見つけてください。

余談ですが、収められた作品の中にこのようなくだりがありました。
その日からまいにち、神社のひかげやら、京阪のかいさつやら、まなかちゃんの前にあらわれては、くびのうしろでくちばしをカツカツならすのです。
(いしいしんじさん『まあたらしい一日』P18より引用)
いしいしんじ さんは大阪ご出身だそうで、もしかしたら京阪沿線にお住まいだったのかも。

まさか物語の中で京阪電車に出会うことがあろうとは、びっくりしました。
stand.fm
音声での書評はこちら
【パーソナリティ千波留の読書ダイアリー】
この記事とはちょっと違うことをお話ししています。
(アプリのダウンロードが必要です)
まあたらしい一日
いしいしんじ(著)
BL出版
今日もどこかで、またとない瞬間がきらめく。27の愛おしい小さな物語と奇妙奇天烈ふしぎな絵。物語と絵が響き合い、ユーモアとやさしさあふれる世界へと誘う、目にも心にも贅沢な一冊。 出典:楽天
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池田 千波留
パーソナリティ・ライター

コミュニティエフエムのパーソナリティ、司会、ナレーション、アナウンス、 そしてライターとさまざまな形でいろいろな情報を発信しています。
BROG:「茶々吉24時ー着物と歌劇とわんにゃんとー」

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ヒトが好き、まちが好き、生きていることが好き。だからすべてが詰まった本の世界はもっと好き。私の視点で好き勝手なことを書いていますが、ベースにあるのは本を愛する気持ち。 この気持ちが同じく本好きの心に触れて共振しますように。⇒販売HPAmazon

 



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