ある日、アヒルバス(山本幸久)
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![]() どんな仕事をしていても悩みはあるものだ ある日、アヒルバス
山本幸久(著) 主人公の名前は高松秀子、通称デコ。高校の進路指導で勧められ、東京観光を提供するアヒルバスに就職した。観光バスガイド歴5年の23歳、寮生活をしている。
尊敬できる先輩の背中を追うように頑張ってきたのに、その先輩は他社にスカウトされ、退職してしまった。意気消沈しているデコに、突然の業務命令がくだる。新人研修の教育係に、というのだ。まだまだ自分も研修したいくらいだというのに。 研修係の長は”鋼鉄母さん”と呼ばれる四十代のベテランバスガイド。鋼鉄母さんに叱咤激励されながら、新人を教育し、かつ業務もこなすデコ。ついにはアヒルバスを揺るがす大事件にも巻き込まれ…… 乗ったことはないのですが、東京観光といえばはとバス。 アヒルバスの命名ははとバスのもじりでしょうか。 アヒルバスのツアーはネーミングが面白くて、『ディープな東京でドキドキ!旦那様にはナイショでナイト』『絶叫必至!なごみ系もあり?東京ジェットコースターめぐり』『あなたもヒロインになれる!月9ドラマロケ地巡礼』などなど、つい参加してみたい気分になりました。 デコはいわゆるずんぐりむっくり体型で、とりたてて美人でもない。でも、先輩の教えを守り、一生懸命仕事に取り組む姿勢が可愛くて、ついつい応援したくなります。 私は個人的にデコとは共通点が二つあり、より一層共感しました。 共通点その一:実力が伴わないのに、新人教育の担当になった。 私は大学卒業後、システム開発の仕事につきました。”システムエンジニア”という職種を”キーパンチャー(当時の名称)”と勘違いして入社試験を受け、たまたま合格しちゃったんですわ。 入ってから大いなる勘違いに気がついたものの、時すでに遅し。新人教育を受けたあと、文系のプログラムを組む部署に配属されました。全然プログラムを完成させられず、涙涙の残業の日々。もちろん同期一できない新人でした。 それなのに翌年、新入社員の研修係にと辞令が降りました。同期からはもう一人研修担当に選ばれていまして、その人は同期でトップクラスの高学歴で、プログラム理論も完璧に理解しており、誰から見ても順当な人事 「なんで私なんぞが?!できましぇーん!」半泣きの私に、上司は「なぜ君が選ばれたか?できない人の気持ちが一番わかるからだ、ガッハッハッハ!」はぁそうですかと納得しつつも、気の重いことでした。 しかし、不思議なもので、新人教育用の教材を作り、実際に教えているうちに、目から鱗がボロボロ!新人に教えることで私自身が学ばせてもらったのでした。 このおかげで、このあと系列会社であるコンピュータ専門学校講師に任命されることになったのですが、それはまた別の話。 高松秀子・デコもまた、鋼鉄母さんにしごかれつつ、個性豊かな五人の新人に振り回されながら成長していくのです。わかる! 共通点その二:ピノが好き ピノ、わかりますか?アイスクリームをチョコレートでコーティングした一口サイズの冷菓Pinoです。私はあんまり氷菓・冷菓を食べないんですが、ピノだけは特別。 あればどんどん食べちゃうのでなるべく買わないようにしているくらいです。ピノに対するデコの愛情も、わかるわ〜! また、バスガイドさんのお仕事と、ラジオパーソナリティーの仕事には多くの共通点があることにも気がつきました。 お客様に喜んでいただく、これが大きな喜びであること。そのためには技術力を高める必要がある。気持ちだけ先走っても伝わりませんから。姿勢、発声、滑舌、必要な知識のインプットなどなど、参考になること多数でした。 全く関係のないお仕事をされている方でも、職業への誇り、業務を遂行する上での努力、そして一生懸命な人の美しさなど共感出来ることはたくさんあると思います。 また、どんな仕事をしていても悩みはあるものだ、表面は平穏に見えても、みんな頑張っているんだなと、元気ももらえる小説です。 これから就職する人や、今のお仕事にお疲れ気味の方には特にお勧めしたい小説でした。 ある日、アヒルバス
山本幸久(著) 実業之日本社 アヒルバス入社五年の観光バスガイド・高松秀子(通称デコ)はわがままツアー客に振り回されたり、いきなり新人研修の教育係にされたりと悩み多きお仕事の毎日。さらにある日、アヒルバスを揺るがす大事件も起きて…笑いあり、感動ありのバスガイドたちの姿を東京の車窓風景とともに生き生きと描く。文庫のための書き下ろし短編・東京スカイツリー篇(「リアルデコ」)収録。 出典:楽天 ![]() ![]() 池田 千波留
パーソナリティ・ライター コミュニティエフエムのパーソナリティ、司会、ナレーション、アナウンス、 そしてライターとさまざまな形でいろいろな情報を発信しています。 BROG:「茶々吉24時ー着物と歌劇とわんにゃんとー」 パーソナリティ千波留の『読書ダイアリー』 |
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