戦場のコックたち(深緑野分)
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![]() 死と隣り合わせの青春群像。戦場版『スタンド・バイ・ミー』 戦場のコックたち
深緑野分(著) 2016年、数々のメディアに絶賛された深緑野分さんの小説『戦場のコックたち』。確かに、読み応えがあり、読後もしばらくはその世界観に浸ることができました。
”主人公はティモシー・コール、愛称はティム。アメリカ合衆国南部 ルイジアナ州の田舎に生まれた。子供の頃からレシピを見るのが好きだった。
ティムの祖父は「コールの親切雑貨店」を営んでおり、その店の一角には、祖母がこしらえた料理をワゴン販売するコーナーがあった。 祖母の料理はイギリス仕込み。イギリスに生まれ、キッチンメイドとして働く合間に、コック長の見よう見まねで料理の腕を上げたという。その後、祖父とともにアメリカに移り住んだのだった。 祖母お手製の料理は「コールの親切雑貨店」の売れ筋商品であり、ティムが料理好きなのは、多分にこの祖母の影響と言っていい。 ティムは1944年、19歳で合衆国陸軍に志願。第二次世界大戦の戦場へと向かうことになる。ティムは入隊の時、祖母のレシピ帳を荷物に入れた。のちにそれがティムを励まし慰めることになる。 軍隊でのティムの役割は管理部付きのコック。料理をする男性は軍隊では軽く見られているが、実際は栄養補給の意味でも、士気をあげるためにも、食事は大切なものである。ティムはそこで、いろいろなコックと出会い、ともに料理を作り、時にはともに戦った。 ちょっとしたことで、さっきまでの同志が死にゆく戦場で、ティムはかけがえのない友を得ていくのだった。” (上記は『戦場のコックたち』を私流に要約したものです) ティムが最初に投入される戦いはノルマンディー上陸作戦。
私はスピルバーグ監督の映画『プライベートライアン』の冒頭を思い出し、怖気立ちました。たった19歳で、あんな地獄を見るなんて。 そして無事生き残ったティムはノルマンディー地方から、ドイツ本国を目指し、ヨーロッパを移動していきます。 中には血の雨が降るような激戦もあるわけですが、この小説がさほど血生臭く感じられないのは、ひとえに料理に関する記述のおかげだと思います。 たとえばホット・キャベツ・スローの準備のため、ひたすらキャベツの芯をくり抜き、ざく切りにするうち、腕の筋肉がつってブルブル震えているティムや、輪切りのリンゴの上にソーセージを置いて、ブラウンシュガーをふりかけ、オーブンで焼いた料理「円盤ロースト」など、頭の中で映像や味がわーっと広がって、そこが戦場であることを一時忘れさせてくれるのです。 また、ティムが出会うコック仲間一人ひとりが個性豊かで面白い。 特に、ティムとどんどん仲良くなるエドワード・グリーンバーグ、通称エドは、宝塚歌劇だったら間違いなく二番手男役さんの役です。 かれは冷静で頭が良く、栄養管理面では完璧なのに、コックとして致命的なまでに「味音痴」。 味にうるさいティムとタッグを組めば、兵士仲間にとびきりの料理を提供する最強のペアとなるわけ。 そして、そのことが二人を近づけ、お互いに理解を深める結果となります。 実はこの小説は、一章ごとに戦場での「日常の謎」が提起され、それを解いていくミステリーとしての一面も持っています。 また、後半には「え?そんなことが可能なの?!」という事件(?)もあり、最後までハラハラさせられるのです。 ですが、私はこの小説をミステリーとしてとらえずに、一人の青年の成長譚として読みました。 こういう言い方をすると著者の深緑さんに失礼ではありますが、「戦場版『スタンド・バイ・ミー』」だなと思いました。 戦場という非常時に「料理」と「生死を共にする」ことで芽生える友情や行き違い、そして別れ…… また、戦場は体だけでなく心も傷つける場所だというのも感じ取ることができました。 読み進めるほどにじんわりと心打たれる、素晴らしい作品でした。 これ、ハリウッドで映画化してくれないかしら。 戦場のコックたち
深緑野分(著) 東京創元社 一晩で忽然と消えた600箱の粉末卵の謎、不要となったパラシュートをかき集める兵士の目的、聖夜の雪原をさまよう幽霊兵士の正体…誇り高き料理人だった祖母の影響で、コック兵となった19歳のティム。彼がかけがえのない仲間とともに過ごす、戦いと調理と謎解きの日々を連作形式で描く。第7回ミステリーズ!新人賞佳作入選作を収録した『オーブランの少女』で読書人を驚嘆させた実力派が放つ、渾身の初長編。 出典:楽天 ![]() ![]() 池田 千波留
パーソナリティ・ライター コミュニティエフエムのパーソナリティ、司会、ナレーション、アナウンス、 そしてライターとさまざまな形でいろいろな情報を発信しています。 BROG:「茶々吉24時ー着物と歌劇とわんにゃんとー」 パーソナリティ千波留の『読書ダイアリー』 |
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