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ブラック・ショーマンと名もなき町の殺人(東野圭吾)

映像化するとしたら誰がいいかな

ブラック・ショーマンと名もなき町の殺人
東野圭吾(著)
テレビではなく実際にマジックをご覧になったことがありますか?

私は2度あります。

目の前で行われたマジックに「え?いつの間に?!どうやって?!」と目を丸くしてしまいました。きっとタネもしかけもあるでしょうに、プロのマジシャンとは凄いものです。

そんなマジシャンが活躍する小説、東野圭吾さんの『ブラック・ショーマンと名もなき町の殺人』を読みました。
神尾真世、30歳。故郷を出て東京の不動産会社に勤務している。もうすぐ結婚という慌ただしい時に、中学の同窓会の知らせを受けた。

真世は参加するかどうか迷っている。というのも、真世の父親は元中学教師で、真世もその中学校に通った。在学中は「神尾の前で何かしたらチクられる」と同級生に言われることもあり、父親が教師をしている学校に通うことは重荷だったのだ。同窓会に出席すれば自分にそんなつもりはなくても「恩師の娘」という立場になる。気後れする真世。同窓会出欠の返事を先延ばしにていたら、父親が亡くなってしまった。しかも病死ではなく、殺されたというのだ。何が何だかわからずに真世は故郷に帰ることになった。

警察は真世の同級生たちを重要参考人だと思っているようだ。父親の死がまだ実感できない上、自分の知っている人が犯人かもしれないと、呆然とする真世の前に、何十年も音沙汰がなかった叔父の武史が現れた。武史はマジシャンとしてアメリカで大活躍したこともあるらしい。武史は真世に告げる。自分が犯人を突き止める、と。

刑事を相手に華麗なマジックテクニックで情報を仕入れる武史を見て、真世も一緒に犯人を見つけ出す決意をするのだった……
(東野圭吾さんの『ブラック・ショーマンと名もなき町の殺人』の出だしを私なりにご紹介しました)
日本の裁判を見ていて、犯罪被害者は蚊帳の外だと感じることはありませんか?私は時々感じます。被害を受けた方やご遺族の気持ちはどこかにおいて置かれ、裁判が進められているように見えることがあるのです。

どうやらそれは警察の取り調べにも言えることのよう。

遺族であってもまずは容疑者の一人とみなされますし、容疑が晴れると今度は蚊帳の外。捜査の進展状況など教えてもらえません。誰よりも犯人が誰なのか、なぜ、どうやって殺されてしまったのか、知りたいと願っている遺族なのに。

もちろん、捜査に支障をきたすということもあるのでしょうが、遺族感情は二の次、犯人逮捕の方が重要であり、相手がご遺族であろうとも、情報は絶対に開示しないということなのでしょう。

だったら遺族自ら推理し、証拠を集めて犯人を突き止めようと思うのが武史です。

普通の人ならまず無理でしょうが、さすが元マジシャンだけあって、手先が器用。マジシャンならでは、さまざまな仕込みをして警察を出し抜くのが面白い!しかも武史は世知に長けていて会話も巧み。思わず知らず相手が色々話してしまうよう誘導します。

性格設定も面白くて、武史の金銭感覚はなかなかシビア。姪だからといって真世に甘い顔はしません。

ストーリー自体は、割とオーソドックスな謎解き小説なのですが、話の展開や犯人当てよりも、とにかく武史がめちゃくちゃ面白いです。私は途中から犯人が誰なのかはどうでも良くなってしまいました。次に武史が何を仕掛けるかの方がよっぽど興味深くて。

東野圭吾さんの小説「ガリレオシリーズ」のように、「ブラック・ショーマンシリーズ」化を願います。

映像化するとしたら誰がいいかなぁ、そんなことも妄想しながら楽しく読み終えました。

ところで、この小説が出版されたのは2020年11月。すでにコロナ禍に入っていた時であり、小説世界でも新型コロナウィルスの影響を受け、飲食店や観光業が大打撃を受けるなど、現実が投影されています。

東野圭吾さんはいつも、現実社会の問題を小説に取り込んでこられた方ですから、これは当然のことなのかもしれませんね。
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ブラック・ショーマンと名もなき町の殺人
東野圭吾(著)
光文社
殆どの人が訪れたことのない平凡で小さな町。寂れた観光地。ようやく射した希望の光をコロナが奪い、さらに殺人事件が…。犯人と探偵役、それぞれの仕掛けが張り巡らされています。騙されないように、お読みください。 出典:楽天
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池田 千波留
パーソナリティ・ライター

コミュニティエフエムのパーソナリティ、司会、ナレーション、アナウンス、 そしてライターとさまざまな形でいろいろな情報を発信しています。
BROG:「茶々吉24時ー着物と歌劇とわんにゃんとー」

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ヒトが好き、まちが好き、生きていることが好き。だからすべてが詰まった本の世界はもっと好き。私の視点で好き勝手なことを書いていますが、ベースにあるのは本を愛する気持ち。 この気持ちが同じく本好きの心に触れて共振しますように。⇒販売HPAmazon

 



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