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歪んだ波紋(塩田武士)

それはおかしいんじゃないの?

歪んだ波紋
塩田武士(著)
私がパーソナリティを担当している大阪府箕面市のコミュニティFMみのおエフエムの「デイライトタッキー」。その中の「図書館だより」では、箕面市立図書館の司書さんが選んだ本をご紹介しています。

今回ご紹介するのは、塩田武士さんの『歪んだ波紋』です。

最近、テレビ番組を見ていて、雑な作りだなと思うことが増えました。

たとえば、お店レポート。
「あれ?このお店先週、他局の別番組でも取り上げられていたような…」

レポーターの顔ぶれだけが違うだけで、同じ店の同じ商品を同じように紹介しているのに気がついたことは二度や三度ではありません。

数年前なら、各局が取り上げるほどの人気店、人気商品なんだ……と、素直に信じたかも知れませんが、今は別の事情が透けて見えます。

多くの場合、テレビ局は自社で番組コーナーを作っていません。制作会社に発注しています。その上、予算がどんどん削減されてきている。

となると、一つの制作会社がいくつかの局の番組を請け負い、一度のロケで済ませるのが一番簡単で安上がりなわけです。

おそらく現地では、一人の(一組の)タレントさんの収録が終わると、別のタレントさんがスタンバイして、もう一度最初から似たようなシーンを撮り直しているんじゃないでしょうか。

その方が取材されるお店も一度の対応で済みますし。

放送日は少しずつずれるので、視聴者は毎日のように同じ店の紹介を見せられることになります。数年前なら宣伝効果抜群だったかも知れません。

でも今ではほとんどの人が、自分で情報をとれる時代です。

テレビで何度も同じお店、同じ商品を見せられて「次の休みの日にはあの店へ行こうか」と、単純に行動に移す人は減ったのではないでしょうか。

私ならまずネットで検索します。そして「普通の人」の評判を参考にします。

だってテレビや雑誌はスポンサーの意向に沿って作られているんですもの。

レポーターは本当はおいしいと思っていなくても「おいしい!」と紹介するに決まっているではないですか。

そんなものに踊らされるものですか。

もう一つ、雑な番組だな感じるのは、ちょっと調べたら嘘だとわかることを平気で報道している場面を見るとき。

県民性などを切り口にしている某番組。

以前は大好きでよく見ていました。

ですが、自分が生まれ育った県の、よく知った地域の話で「これがどこのご家庭の冷蔵庫にも入っています」といわれて、一度も見たことがない商品を紹介されたときにはびっくりしました。

私だけが知らないだけで、本当は流行しているのだろうかと気になって、SNSで検索してみると

「知らんし!」
「うちの冷蔵庫にはないぞ!」
「まさにその市に住んでいるけど見たこともない」

といった意見がぞくぞくとアップされるではありませんか。

テレビ局はこういうことになると予測しないで番組を作っているのだろうか、と不思議に感じます。

もちろんインターネットで得られる情報がすべて正しいわけではないですが、少なくともテレビや新聞のように一方通行ではありません。

一つの事象に多くの人が本音で意見を言え、それを誰もが閲覧できる。

メディアが流す情報に「それはおかしいんじゃないの?」という意見が飛び出すこともあります。

おそらくテレビや新聞に携わっている人にとって、今はとてもしんどい時代なのではないでしょうか。

前置きが長くなりましたが、塩田武士さんの『歪んだ波紋』は、そんな時代の新聞やテレビ、週刊誌、ネットニュースなどの誤報、虚報、ねつ造にまつわる5つの短編が収められています。

意図せず誤報になってしまったもの、企まれたねつ造など、それぞれの描写に説得力があるのは、塩田さんが新聞社ご出身ということによるものが大きいと思います。

塩田さんは尼崎市生まれなのだそうですね。

小説の舞台が関西なので、関西になじみが深いかたにとっては、小説の面白さに加え、景色までしっかり見えて読み応えが増すことでしょう。
歪んだ波紋
塩田武士(著)
講談社
「誤報」にまつわる5つの物語。新聞、テレビ、週刊誌、ネットメディアー昭和が終わり、平成も終わる。気づけば私たちは、リアルもフェイクも混じった膨大な情報に囲まれていた。その混沌につけ込み、真実を歪ませて「革命」を企む“わるいやつら”が、この国で蠢いている。松本清張は「戦争」を背負って昭和を描いた。塩田武士は「情報」を背負い、平成と未来を描く。全日本人必読。背筋も凍る世界が見えてくる。 出典:楽天
profile
池田 千波留
パーソナリティ・ライター

コミュニティエフエムのパーソナリティ、司会、ナレーション、アナウンス、 そしてライターとさまざまな形でいろいろな情報を発信しています。
BROG:「茶々吉24時ー着物と歌劇とわんにゃんとー」

パーソナリティ千波留の
『読書ダイアリー』

ヒトが好き、まちが好き、生きていることが好き。だからすべてが詰まった本の世界はもっと好き。私の視点で好き勝手なことを書いていますが、ベースにあるのは本を愛する気持ち。 この気持ちが同じく本好きの心に触れて共振しますように。⇒販売HPAmazon

 



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