その話は今日はやめておきましょう(井上荒野 )
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![]() ハラハラしちゃう その話は今日はやめておきましょう
井上荒野(著) このタイトルから、内容を想像することができますか?私は全く予想ができませんでした。
井上荒野さんの『その話は今日はやめておきましょう』。読み始めたら止まらなくなりました。 大楠ゆり子69歳。娘と息子は独立して家を出ており、72歳の夫 昌平と二人住まいだ。
半年ほど前、ゆり子の誕生祝いに、昌平がクロスバイクをプレゼントしてくれた。 昌平は人間ドック受診後生活習慣を改めるよう指導され、クロスバイクを始めることにしたのだが、ゆり子にも勧めて、一緒に走ろうというのだ。 最初は怖々乗っていたゆり子だが、すぐに慣れ、天気が良い日には二人でサイクリング、ランチを食べに行くのが習慣になった。 そんなある日、自転車で出かけた昌平が交通事故に遭い、足の骨を折ってしまった。 病院で困っていた二人の前に、親切な青年 一樹が現れる。 一樹は、自転車のパンクを修理してくれたサイクルショップの店員だった。 偶然の再会以来、ゆり子と昌平は何かと一樹を頼るようになるが…… (井上荒野さん『その話は今日はやめておきましょう』の出だしを私なりに紹介しました) 二人が住んでいるのは庭付きの一戸建て。
独立した二人の子どもの部屋をそのままにしておけるほど、広さや間取りにも余裕があります。 夫婦仲良くクロスバイクで出かけてランチ。 経済的にもゆとりがあり、理想的な初老の夫婦像だなと、最初は思いました。 でもそれは夫婦揃って健康であればこそ。 昌平が骨折してから、生活が少しずつ変わってきます。 娘と息子は遠くに住んでいる上、働き盛り。 細々したことを頼みにくいのです。 私の年代から見ると、ゆり子の気持ちもわかるし、子どもたちの気持ちもわかる。 結局、二人が子どもたちには相談せず、サイクルショップをやめてフリーターになっている一樹に「何でも屋さん」のようなことを頼むのは自然な流れだと思えました。 ところが、読者は早い段階で、一樹の別の一面を知ることになります。 そんな青年を家に入れてしまっていいのか?! 危ないんじゃないの?とハラハラします。 一樹は極めて人間らしい人物です。 100%悪い奴ではないし、100%好青年でもない。 どんな人間にも、良い面と悪い面があるのだと思います。 ちょっとしたことで悪事に手を染めてしまったり、親切な行動をしたり……。 ゆり子と昌平、そして一樹の三人の関係がどうなるのか、気になって一気に読んでしまいました。 私たち夫婦も、あと十数年でゆり子たちと同世代になります。 子どもがいない私たちの場合、こういう時にはどうすれば良いのかしら、と考えながら。 ちなみに、私はストーリー以外に、この二人の夫婦のありようにも興味がありました。 昌平が、ゆり子の嬉しそうな顔や驚いた顔を見るのが好きだ、というような記述がありまして、長年連れ添ってなお、こんなふうに思ってもらえるって素敵だなぁと思ったのです。 ![]() 池田 千波留
パーソナリティ・ライター コミュニティエフエムのパーソナリティ、司会、ナレーション、アナウンス、 そしてライターとさまざまな形でいろいろな情報を発信しています。 BROG:「茶々吉24時ー着物と歌劇とわんにゃんとー」 ヒトが好き、まちが好き、生きていることが好き。だからすべてが詰まった本の世界はもっと好き。私の視点で好き勝手なことを書いていますが、ベースにあるのは本を愛する気持ち。 この気持ちが同じく本好きの心に触れて共振しますように。⇒販売HP/Amazon
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