砂漠(伊坂幸太郎)
なんて愉快な青春群像 砂漠
伊坂幸太郎(著) まずは伊坂幸太郎さんに言いたい。手加減してくださいよ、本当に。面白すぎるのも罪ですよ。途中でやめられず、夜中三時半まで読んでしまいました。
”仙台のとある街。大学一年生になったばかりの北村の語りで物語は進行する。北村は新人コンパでやませみのようなヘアスタイルの鳥井と知り合う。鳥井は横浜から来ているが、中学までは東京に住んでいた。
偶然にもそのコンパに参加していた新入生の南は、鳥井と中学時代の同級生だった。南はおとなしい女子だが、中学時代から特殊な能力を持っている。 モデル並みの美貌とスタイルの東堂は、コンパの席でひときわ目を惹くが、ほとんど笑わないミステリアスな女性だ。 盛り上がっているコンパ会場に遅刻してやってきたのは西嶋。千葉出身の西嶋は、麻雀から抜けられず遅刻してきたのだという。それだけでも顰蹙なのに、西嶋はカラオケのマイクを使って、演説をぶち上げる。 北村、西嶋、鳥井、そして東堂と南。この五人が送る大学生活は、とんでもない波乱に満ちていた……” (伊坂幸太郎さんの『砂漠』を大雑把にまとめました。ネタバレはほとんどしていません) 私は女子大出身なので、男女共学の大学生活を知りません。この五人のなんと楽しそうなことか!!女子も男子と一緒に雀卓を囲んだりするのね?!
「え?!そこ?!」という声が聞こえる気がしますが、家族麻雀しかしたことがない私。麻雀は性格が出るんです。 一緒にお酒を飲んだり、テーマパークに行くよりも、麻雀をして、勝ったり負けたりしたときに、どんな態度をとるのか、そもそもどんな手で上がろうとするのか、男性を見定めるのにこれほどいい場はありません。 そして麻雀をする方は、紹介文を読んでピンとこられたでしょう?東堂、南、西嶋、北村。鳥井以外はトン、ナン、シャー、ペー、まさに麻雀向きな名前なのです。 もちろん四人は麻雀だけをしているのではありません。ボウリングや、学園祭、そして恋愛。ああ、青春だわ〜。 ホストやえせ超能力者など登場人物も多彩です。何かと言うと仕切りたがり、「幹事の莞爾(かんじ)です」と名乗る石原莞爾くんもその一人。 最初は嫌な奴かと思ったけど、面白いヤツです。そして何よりいい味を出しているのが西嶋くん。変人なんですよ。めちゃくちゃ理屈っぽいし。 ただ、読んでいるうちに、妙に筋が通った西嶋くんのことがどんどん好きになっていきました。でもそれは、私なりに人生いろいろ経験したからこそかも知れません。 もし私がまだ二十歳そこそこだったら、彼の魅力に気がつくかしら。いや、ぜひとも西嶋くんを好きになり、友達になれる、そんな人間でいたいです。 一例をあげると、西嶋くんは言うんです。目の前に困っている人(動物でも)がいたら「助けちゃえば良いんですよ」と。 私たち夫婦は昨年、殺処分寸前の犬を貰い受けました。その時に思ったのです。たった一匹の命を救っただけじゃないかと。これは偽善じゃないかと。 でも西嶋くんのことばにハッとしました。 西嶋くんは続けます。あれこれ正論らしき理屈を述べて偽善だと言う人に限って、結局何も(誰も)救わないのだ、そんなことにかまわず、目の前に困っている人がいれば、助けちゃえば良いんですよ、と。 そうよ、そうよね?!!西嶋くん、迷いが晴れました。ありがとう。 最近で言えば、キングコング西野さんが、「はれのひ」の被害者に対して企画した”リベンジ成人式”なども「やっちゃえば良いんですよ」ってことではないかしら。 そんなこんなで小説の後半は変人西嶋くんに「頑張れ、頑張れ」とエールを送り続けることになりました。 著者 伊坂幸太郎さんの作品としては『死神の精度』『死神の浮力』を読んだことがあります。その時も感じましたが、伊坂さんの小説は独特な言い回しで、部分部分がとても面白いのです。 たとえば ”これは俺の持論なんだけどさ、洋服で外見を恰好良くすることは難しいけれど、恰好悪くすることはいくらでもできるんだ”
(伊坂幸太郎『砂漠』 P74 鳥井くんのセリフの引用) には思わず笑ってしまうと同時に深く納得しました。
また、随所に引用されている、サン=テグジュペリ『人間の土地』の名言が素晴らしくて、思わず、次に読む本リストに『人間の土地』を入れました。 最初は、大学生の物語と『砂漠』というタイトルが全然合わないと思ったのに、読後はなんて素敵なタイトルだろうと思いましたよ。 ところで巻末に添えられた著者あとがきに、この小説には構成上の仕掛けを施していると書かれていました。ワタクシ、それには全く気がつかず、ただただ「面白いなぁ」と思いながら読んでしまいました。 もう一度構成に注意しながら読み直した方が良いかしら。そうしたら又半分徹夜しちゃうかもね。伊坂幸太郎さん、あんまり面白すぎると睡眠不足になります。勘弁してください。 砂漠
伊坂幸太郎(著) 実業之日本社文庫 仙台市の大学に進学した春、なにごとにもさめた青年の北村は四人の学生と知り合った。少し軽薄な鳥井、不思議な力が使える南、とびきり美人の東堂、極端に熱くまっすぐな西嶋。麻雀に勤しみ合コンに励み、犯罪者だって追いかける。一瞬で過ぎる日常は、光と痛みと、小さな奇跡でできていたー。実業之日本社文庫限定の書き下ろしあとがき収録!明日の自分が愛おしくなる、一生モノの物語。 出典:楽天 池田 千波留
パーソナリティ・ライター コミュニティエフエムのパーソナリティ、司会、ナレーション、アナウンス、 そしてライターとさまざまな形でいろいろな情報を発信しています。 BROG:「茶々吉24時ー着物と歌劇とわんにゃんとー」 パーソナリティ千波留の『読書ダイアリー』 |
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