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定年オヤジ改造計画(垣谷美雨)

こういう男性いるいる!

定年オヤジ改造計画
垣谷美雨(著)
読んだ作品にハズレが一つもない、信頼度抜群の垣谷美雨さんの最新刊、今年2月に出版された『定年オヤジ改造計画』を読みました。めちゃくちゃ面白かったです。
庄司常雄は大企業である大日本石油を定年まで勤め上げた。我ながら地道によく頑張ったと思っている。ところがその後、嘱託として再就職した会社は運悪く倒産してしまった。そこでは信じられないほどの安月給だった。

また次の仕事を探したとしても似たようなものかと思うと、本気で職を探す気になれない。一日家で過ごすようになると、どうもだらしなくなってしまい、自分でも危機感を覚えてはいるのだが。

妻はこれまで家庭を守り、夫を立て、よく尽くしてくれたと思う。性格のいい女なのだ。これからは一緒にあちこちに旅行して妻孝行をするつもりだ。その妻との間には子どもが二人。30歳の息子は既に結婚し、子どもが二人いる。

娘は33歳にもなってもまだ自宅にいる。結婚どころか、誰かと付き合っているようにも見えない。父親に対して時に乱暴な口をきくこの娘が今の常雄にとって唯一の気がかりといえる。早く結婚させなくては。

しかし問題はそれだけではないのだと、徐々に常雄は気がついていく。妻の様子がおかしいのだ。いつからだろうか、車で出かける時に、助手席に座らず後部座席に座るようになったのは。

聞けば病院に通っているという。「フゲン病」とかいう病名らしい。雲仙普賢岳に何か関係があるのだろうか?いまひとつピンとこない常雄である。 (垣谷美雨『定年オヤジ改造計画』の出だしを私なりにまとめました)
もうお分かりかと思うのですが、常雄の妻の病名は「夫源病」です。

子育てや家を守ることは妻の役割であり生きがいだろう……などというのは常雄の一方的な思い込みであり、妻にはいろいろな不満があったわけです。

それでも、夫が働いている間は良かったのです。自分だけの自由な時間があったから。

ところが今はどうでしょう。だらだらとテレビを見ながら一日を過ごす夫。当然のように三食を妻に作らせ、自分は何もしない。

「一緒にあちこち旅行するなんて、とんでもない!!」妻の心の叫びです。

最初は妻の不満を全く理解できなかった常雄が、徐々に学んでいくきっかけは、孫の保育所お迎えを頼まれたこと。

まだ3歳と1歳の子どもを保育所に預けて働くとは、最近の母親は何を考えているのか。内心 憤りながらやむなく引き受けたお迎え役が、徐々に世間を知る窓口となるのです。

これまでの垣谷さんの小説全て面白かったのですが、『定年オヤジ改造計画』は、レベルが違います。

常雄に対して娘が投げかける言葉はまるでマシンガンか火炎放射器のよう。元来優しくてしっかり者の妻の本音トークもすごい。筆が走っているとしか言いようがありません。

またその一つ一つが「わかる!」「こういう男性いるいる!」と共感できることばかり。

タイトルは『定年オヤジ改造計画』ですが、改造されるのが定年オヤジだけではないのが、この小説のいいところ。読後感は爽やかです。

仕事仕事で生きておられる中年男性のみなさま、熟年離婚の危機を避けるため、この本を読まれることをお勧めします。

ちなみに、我が家の場合は好きなことをして生きているのは私の方で、私が「常雄」なのではないかと、背中に冷たいものが走りました。愛想つかされないように、私も「改造」しなくては。
定年オヤジ改造計画
垣谷美雨(著)
祥伝社
大手石油会社を定年退職した庄司常雄。夢にまで見た定年生活のはずが、良妻賢母だった妻は「夫源病」を患い、娘からは「アンタ」呼ばわり。気が付けば、暇と孤独だけが友達に。そんなある日、息子夫婦から孫二人の保育園のお迎えを頼まれて…。崖っぷち定年オヤジ、人生初の子守を通じて離婚回避&家族再生に挑む! 出典:楽天
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池田 千波留
パーソナリティ・ライター

コミュニティエフエムのパーソナリティ、司会、ナレーション、アナウンス、 そしてライターとさまざまな形でいろいろな情報を発信しています。
BROG:「茶々吉24時ー着物と歌劇とわんにゃんとー」

パーソナリティ千波留の
『読書ダイアリー』

ヒトが好き、まちが好き、生きていることが好き。だからすべてが詰まった本の世界はもっと好き。私の視点で好き勝手なことを書いていますが、ベースにあるのは本を愛する気持ち。 この気持ちが同じく本好きの心に触れて共振しますように。⇒販売HPAmazon

 



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