三千円の使いかた(原田ひ香)
お金の使いかたで人生がわかる 三千円の使いかた
原田 ひ香(著) 日本では、お金についてあれこれ語ることをあまり良しとしない風潮があります。「清貧」という言葉が肯定的に使われることが多いことからも、お金よりも志こそ大事、という考えがあるとわかります。
しかーし! 現実問題として、お金はどうでも良いものでしょうか。 お金がなくたって愛さえあれば良いのでしょうか。 愛は大事です。 でも、本当は”お金も”大事なはず。 いくら愛があったとしても、お金がないばかりに助けてあげられない、という現実があるはずです。 お金は汚いものではない、もしお金を汚いと感じることがあるとしたら、それはお金ではなく、その使い方、使い道が汚いのでしょう。 お金に真正面から向き合って、よく考えて使うことが良い人生につながる、そんなことを教えてくれる小説、原田ひ香さんの『三千円の使いかた』を読みました。 結論から先に言うと、リアリティがあり、小説として面白い上に、お金に関する知識が深まり、自分のお金の使い方(この小説的に言えば人生)を省みずにはいられない、すごい小説でした。 6つの短編からなるこの小説は、お金をめぐる、ある家族の物語です。 家族構成は、祖母 琴子 73歳、琴子の息子である和彦と妻の智子、夫婦の娘である真帆と美帆の5人。ただし住まいは4軒。 琴子は亡くなった夫と暮らしていた家で一人暮らしを続けていますし、真帆はすでに結婚し、夫と子どもの3人で暮らしています。美帆は社会人になって実家を出て独り住まい、結婚を考えている彼氏がいる状態。 タイトル『三千円の使いかた』は、琴子さんが孫の美帆さんに言った言葉「人は三千円の使い方で人生が決まるよ」に由来しています。 では、目次を引用して短編のタイトルと、それぞれの主人公を紹介していきましょう。 第1話 三千円の使いかた(美帆)
第2話 七十三歳のハローワーク(琴子) 第3話 目指せ!貯金一千万!(真帆) 第4話 費用対効果 第5話 熟年離婚の経済学(智子) 第6話 節約家の人々(全員、あえて言えば美帆) (原田ひ香さん『三千円の使いかた』の目次に、主人公を当てはめてご紹介しました) どれも面白かったですが、「第5話 熟年離婚の経済学」が私の年代から見ると最も現実味を帯びた内容でした。
智子は手術を終えたばかり。初期で発見されたがんを切除したのだが、がんがどのステージなのかは細胞検査の結果を待たないとわからない。不安な気持ちで退院した当日から、晩ごはんの支度をしなくてはならないことが、思いのほか重荷になっていることに気づく智子。
夫の和彦は、いたって平凡な男性だと思う。これまで真面目に働き、家にお金を入れ続けてくれた。暴力など振るわれたこともない。が、家事能力がほぼゼロで、特に食事の支度は全くできないし、料理を作れないことをなんとも思っていないようだ。きっと姑が、男の子だからと何もさせてこなかったのだろう。当然のことだが和彦には、病み上がりの妻のために何か作ってあげようという発想はない。 当分、台所に立ち続けるだけでもしんどい状態なのに、買い物に行き、食事を作り続けなくてはならないのか。いや、今はまだ晩ごはんだけで良いけれど、退職後は三食全て用意しなくてはならないのか?なんの感謝もなく黙々と食べるだけの人に?!これまで感じたことがなかった不満や寂しさが智子の中に沸き起こってきた。 そんな時、親友が熟年離婚するかもしれないと言い出した。離婚には、財産分与や養育費など、解決しなければならないお金の問題が山積みだ。そして離婚した後、自分で生活していかなければならないのだ。 改めて自分自身の貯金額を考えて智子は焦った。何をどうするにせよ、もっと貯金を増やさなければ!! (原田ひ香さん『三千円の使いかた』 「第5話 熟年離婚の経済学」を私なりに紹介しました) なんだか智子さんの家の中が見える気がしませんか?
私は小説を読んでいるのに、どんどん映像が見えてきてドラマを見ているような気持ちになりました。それだけリアルなのです。 我が家では夫の方が料理がうまいくらいだから、条件は全く違うけれど、智子さんの気持ちはよくわかる!! さて、智子さんはこの後どうしたと思います? ファイナンシャルプランナーに相談をして、お金と真剣に向き合うようになるんです。具体的な部分は読んでいただくとして、小さなことからコツコツと、取り組み始めます。 智子さんだけではありません。 琴子さんも、真帆さんも美帆さんも、それぞれが「お金」と向き合うのです。 その方法の一つが家計簿。この小説では、日本で初めて家計簿を推奨した羽仁もと子さんが何度も紹介されます。私は結婚したばかりの頃、ある方に勧められて羽仁もと子さんの全集の中の1巻「家事家計篇」を読んだことがあります。その際、とても感銘を受けたのに、長い年月の間にすっかり忘れ、ダラダラと暮らしてきたものですわ。この小説で再び羽仁もと子さんと巡り合って背筋が伸びる気がしました。 私は今、スマートフォンのアプリで家計簿をつけているけれど、入力と残高のチェックだけしかしていないなぁ。琴子さんたちを見習って、ちゃんと自分のお金の使いかたと向き合わなくっちゃと思いましたよ。 ところで、目次を引用してそれぞれの主人公を紹介した際、第4話だけ主人公を書きませんでした。というのも、4話だけはこの家族以外が主人公なのです。 最初この章は、短編集の息抜きのような役割なのかと思いましたが、それだけではありませんでした。「お金と向き合う」とは、節約や効率の良いお金の使いかたを考えることではない、と訴えかける内容で、ちょっと他の話とは違う感じがしました。この章があるおかげで『三千円の使いかた』に深みが生まれていると思います。 最後に、本の帯にも掲載されているこの本の解説をご紹介して、むすびといたします。 解説を書いておられるのは、ご著書がことごとく面白く、私が勝手にハズレなし認定をさせていただいている作家 垣谷美雨さん。 この本は死ぬまで本棚の片隅に置いておき、自分を見失うたびに再び手に取る。そういった価値のある本です。
(原田ひ香さん『三千円の使いかた』 解説:垣谷美雨さんより引用) 垣谷さんがこのように絶賛する小説を、読まない訳にはいかないでしょう!
三千円の使いかた
原田 ひ香(著) 中央公論新社 24歳、社会人2年目の美帆。貯金に目覚める。29歳、子育て中の専業主婦、真帆。プチ稼ぎに夢中。55歳、美帆・真帆の母親、智子。体調不良に悩む。73歳、美帆・真帆の祖母、琴子。パートを始める。御厨家の人々が直面する、将来への不安や人生のピンチ。前向きに乗り越えたいからこそ、一円単位で大事に考えたい。これは、一生懸命生きるあなたのための家族小説。「8×12」で100万円貯まる?楽しい節約アイデアも満載! 出典:楽天 池田 千波留
パーソナリティ・ライター コミュニティエフエムのパーソナリティ、司会、ナレーション、アナウンス、 そしてライターとさまざまな形でいろいろな情報を発信しています。 BROG:「茶々吉24時ー着物と歌劇とわんにゃんとー」 ヒトが好き、まちが好き、生きていることが好き。だからすべてが詰まった本の世界はもっと好き。私の視点で好き勝手なことを書いていますが、ベースにあるのは本を愛する気持ち。 この気持ちが同じく本好きの心に触れて共振しますように。⇒販売HP/Amazon
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