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最悪の将軍(朝井まかて)

「犬公方」と呼ばれた徳川第五代将軍綱吉の生涯

最悪の将軍
朝井 まかて(著)
最悪の将軍と聞いて、誰を連想しますか?

この小説は「生類憐みの令」を制定したことから「犬公方」と呼ばれた徳川第五代将軍綱吉の生涯を描いた作品です。

「生類憐みの令」の評判が悪いのは、犬(動物)好きなお殿様が気まぐれに出した命令のために、動物より人間の命が軽くなってしまった、といったことが原因のように思われます。

しかし、朝井まかてさんは、そんな綱吉のイメージを一新。綱吉ほど、命を大切に思っていた将軍はそれまでいなかったということになります。

そもそも「生類憐みの令」は動物愛護の観点からのみ出されたものではありません。

当時、口減らしのため、年老いた親を棄てたり、生まれてきた赤ん坊を殺してしまうことが珍しくありませんでした。

また、まだまだ戦国時代の気分が抜けない武士にとっては「死」が名誉の証だと考える人も多かった。

しかし、綱吉はもう二度と戦国の世に戻すまい、戦によって民を苦しめたりせず、国を豊かにしたいと考えていました。

そもそも綱吉は三代将軍徳川家光の四男坊で、将軍に成るべくして生まれたわけではありませんでした。

兄である四代将軍家綱とすぐ上の兄が亡くなり、将軍になったという経緯があり、「将軍とはどうあるべきか」について悩んだようです。

そして「武」ではなく「文」により世を治めるべきだと思い、武士のあり方自体を変えようとするのでした。

武力一辺倒ではなく、教養・素養を大事にし、立ち居振る舞いや言葉遣いにも美しさを求め、長幼の序を重んじます。

母親や妻にも思いやりを持って接していて、これのどこが「最悪の将軍」なのかしら?

このように、『最悪の将軍』を読んでいるうちに私の中の綱吉像はどんどん変わっていきました。

結局、綱吉を「最悪の将軍」にしてしまったのは、命令の意図を理解しない部下であり、法律を運用する最前線の人たちでした。

その辺りは読んでいてはがゆくなりました。

「生類憐みの令」はもともと、「人々が仁心を育むように」という意図で出されたもの。

その後に「捨て子禁止令」も出していることを考えると、現代に生きていたら、動物愛護や人命尊重の精神を持った素晴らしい人だと評価されたかもしれません。

小説とはいえ、とても切なくなりますが、御台所(妻)だけは夫の価値をわかっていたことが救いです。

水戸黄門や赤穂浪士なども登場しますので、歴史好きな方にはより面白く読める小説だと思います。
最悪の将軍
朝井 まかて(著)
集英社
生類憐みの令によって「犬公方」の悪名が今に語り継がれる五代将軍・徳川綱吉。その真の人間像、将軍夫妻の覚悟と煩悶に迫る。民を「政の本」とし、泰平の世を実現せんと改革を断行。抵抗勢力を一掃、生きとし生けるものの命を尊重せよと天下に号令するも、諸藩の紛争に赤穂浪士の討ち入り、大地震と困難が押し寄せ、そして富士山が噴火ー。歴史上の人物を鮮烈に描いた、瞠目の歴史長編小説。 出典:楽天
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池田 千波留
パーソナリティ・ライター

コミュニティエフエムのパーソナリティ、司会、ナレーション、アナウンス、 そしてライターとさまざまな形でいろいろな情報を発信しています。
BROG:「茶々吉24時ー着物と歌劇とわんにゃんとー」

パーソナリティ千波留の
『読書ダイアリー』

ヒトが好き、まちが好き、生きていることが好き。だからすべてが詰まった本の世界はもっと好き。私の視点で好き勝手なことを書いていますが、ベースにあるのは本を愛する気持ち。 この気持ちが同じく本好きの心に触れて共振しますように。⇒販売HPAmazon

 



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