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さがしもの(角田光代 )

本好きさんにはたまらない9つの物語

さがしもの
角田 光代(著)
さほど分厚くないし、一話一話は短いけれど、みっちりと中身が詰まった短編集を読みました。角田光代さんの『さがしもの』です。

『さがしもの』に収められている9つの短編小説に共通しているのは「本」をメインにした物語であること。

それぞれのタイトルをご紹介しておきましょう。
・旅する本
・だれか
・手紙
・彼と私の本棚
・不幸の種
・引き出しの奥
・ミツザワ書店
・さがしもの
・初バレンタイン
(角田光代さん『さがしもの』 目次より転記)
冒頭の『旅する本』はとても不思議な話です。

18歳の時にある本を古本屋に売った女性。大学の卒業記念に一人で旅したネパールの古本屋で、その本と再会します。

同じタイトルの本が、たまたまネパールの古本屋に売られていた訳ではありません。彼女が売った、まさにそのものが売られていたのです。

日本の古本屋に売った本が、なぜネパールに?!

しかもたまたま入った古本屋で再会するなんて、偶然にしては出来過ぎです。

でもその本の一番最後のページに書かれている手書き文字とイラストを見て、彼女はその本が自分が売ったものだと認めないわけにはいきません。

彼女はその本を買い、再び読んだ後、今度はカトマンズで売ります。

そしてまた数年後、今度はまた別の国の古本屋で、「その本」と再会するのです。

なんという不思議な話。

彼女はまた「その本」を買ってもう一度読むのですが、出会い直して読むたびに本の内容が変わっていることに気がつきます。

いえ、本当は本の内容が変わったのではなく、本人が変わっているのですけれど。

私も今度、大事な本に印をつけて、古本屋に売ってみようかな、そしてその本と再会するために、いく先々で古本屋に立ち寄ってみたい、

そんな気持ちになる小説でした。

タイトルにもなっている『さがしもの』の主人公は中学2年生の女の子。

もう余命がわずかと宣告されたおばあちゃんに、ある本を探して欲しいと頼まれます。

「その本を見つけてくれなけりゃ、死んでも死にきれないよ」と。

まだパソコンが流通しておらず、本屋さんも即座に検索・回答ができない時代です。

おばあちゃんが亡くなるまでに探したい……

そう思ってあちこちの本屋さんを巡ったことが、結局女の子の将来を決めることになる、というお話。

そうそう、この短編も相当「不思議」なお話でした。

私が一番好きなのは『彼と私の本棚』です。

5年間付き合い同棲していた彼と別れることになり、自分の荷物と彼の荷物を仕分けている女性が主人公です。

アルバイト先で知り合った彼。付き合って、お互いの部屋に出入りするようになった時、互いに本棚を見て思うのです。

「自分の本棚みたい」と。

読書傾向、好きな作家が似ているのですね。

それってすごく素敵なこと。

私ごとで恐縮ですが、夫とお付き合いするようになったきっかけは本でした。

職場の同僚だった夫と、世間話をしている時に、「本」の話になりました。

夫が村上春樹さんの小説を褒めたのだけれど、私は当時、すでに売れっ子作家だった村上さんを食わず嫌いで敬遠していました。

一作も読んだことがないと言うと、夫が村上春樹さんの文庫本をプレゼントしてくれたのです。

『羊をめぐる冒険』上下巻。

読んでみたらすっかりハマってしまい、以後、村上春樹さんをかたっぱしから読むことに。

この本のプレゼントがなかったら、夫と結婚していなかったかも。

思い返せば、高校生の頃好きになった人も、私に本を贈ってくれたのでした。

もらったのは太宰治『パンドラの匣』。

その時も、これがきっかけで、大嫌いだった太宰治が好きになったのでした。

む、私って本で釣られる女だったのね。

しかし『彼と私の本棚』は、趣味嗜好がぴったり合う相手とでも別れが来る、という切ないお話。

私が読後感を共有できる喜びを知っているだけに、いっそう切なく感じるのかもしれません。

不思議だったり、共感したり、じんわりと胸が熱くなったり……

角田さんはどうしてこんな素敵な物語を紡ごうと思ったのでしょう。

もしかしたらこれが答えかもしれない、と思う一文がありました。
おなかが空いたってまずしくたって、人は本を必要とする。
(角田光代さん『さがしもの』P128 『引き出しの奥』の一文を引用)
本好きさんにはたまらないだろう9つの本の物語でした。
さがしもの
角田 光代(著)
新潮社
「その本を見つけてくれなけりゃ、死ぬに死ねないよ」、病床のおばあちゃんに頼まれた一冊を求め奔走した少女の日を描く「さがしもの」。初めて売った古本と思わぬ再会を果たす「旅する本」。持ち主不明の詩集に挟まれた別れの言葉「手紙」など九つの本の物語。無限に広がる書物の宇宙で偶然出会ったことばの魔法はあなたの人生も動かし始める。 出典:楽天
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池田 千波留
パーソナリティ・ライター

コミュニティエフエムのパーソナリティ、司会、ナレーション、アナウンス、 そしてライターとさまざまな形でいろいろな情報を発信しています。
BROG:「茶々吉24時ー着物と歌劇とわんにゃんとー」

パーソナリティ千波留の
『読書ダイアリー』

ヒトが好き、まちが好き、生きていることが好き。だからすべてが詰まった本の世界はもっと好き。私の視点で好き勝手なことを書いていますが、ベースにあるのは本を愛する気持ち。 この気持ちが同じく本好きの心に触れて共振しますように。⇒販売HPAmazon

 



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