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コーヒーが冷めないうちに(川口俊和)

あなただったら「あの日に帰りたい」ですか?

コーヒーが冷めないうちに
川口俊和(著)
私がパーソナリティを担当している大阪府箕面市のコミュニティFMみのおエフエムの「デイライトタッキー」。その中の「図書館だより」では週に一度、箕面市立図書館の司書さんが選んだ本をご紹介しています。

今回ご紹介するのは、川口俊和さんの『コーヒーが冷めないうちに』。
そこに行けば時間移動ができるということで、テレビに取り上げられたこともある喫茶店「フニクリフニクラ」。しかし、思うほど人は寄ってこない。

なぜなら、時間を超えられるといっても、いくつものルールにしばられて、めんどうだからだ。

そのルールとは
・喫茶店の中の特定の座席に座った時だけ
・時間を超えるだけで、現れる場所は同じところ
・時間移動中に、席を立って動いてはいけない
・時間移動先に居られるのはコーヒーが冷めるまでの間
などいろいろあるが、

一番がっかりするのは、
・過去に戻って何かを行ったとしても、結果は変えられない
ということだろう。

つまり、現在に不満があり、それを解消しようとして過去にもどっても、なんら変化を与えることができないのだ。だから「フニクリフニクラ」はいつもさほど混んではいない。

だが、これほどめんどうなルールがあってもなお、過去に行きたいと願う人もいる……
(川口俊和さんの『コーヒーが冷めないうちに』の「プロローグ」部分をまとめました。この時点ではネタバレはありません)
この小説は喫茶店「フニクリフニクラ」で時間を移動する四人の人物の物語です。

第一話『恋人』は、結婚を考えていた彼氏に別れを告げられた女の話。
第二話『夫婦』は、記憶が消えていく男と看護師の話。
第三話『姉妹』は家出した姉と、姉を訪ねてくる妹の話。
第4話『親子』は、この喫茶店で働く妊婦の話。

それぞれ、過去に戻ったからといって、現実が何も変わらないことがわかっていながら「あの日に」帰りたいと願う人たちです。

あの日に戻ったからといって、現実に何も変化も起こせないところから、タイムトラベルに主眼を置いた小説ではないことがわかると思います。

それよりはむしろ、それぞれの人物の内面の問題を描いている小説と言えるでしょう。

私はこの小説を通して著者から「過去や他人を変えることはできない。変えることができるのは自分自身のみ」というメッセージを受け取りました。

そして自分が変われば、自ずと未来が変わっていくのだろうと思います。

そしてもう一つ、私たちは目の前の人物の気持ちをわかっているようで、本当は全然わかっていないのかも、ということも感じました。

著者 川口俊和さんは元劇団脚本家で、これがデビュー作なのだそう。それを聞いて腑に落ちました。

この小説の舞台になるのは喫茶店「フニクリフニクラ」の店内のみ。そのまま小劇場で上演できそうです。

この本を今日の「図書館だより」に選んだ司書さんは元劇団脚本家ならではの文章から登場人物の心の動きや表情が、舞台を見ているかのように生き生きと伝わってくる、と推薦文に書いておられました。

私は小説のあちこちにある脚本の「ト書き」のように感じられる部分が説明過多に感じられました。

「お願い、あんまり説明し過ぎないで。私に想像の余地をちょうだい」という感じです。もちろんこれは私個人の好みの問題だと思います。

ところで、あなただったら「あの日に帰りたい」ですか?

私だったら「フニクリフニクラ」の特定の席には座らないと思います。

実は、想像の中では、私はすでに何度も過去に戻っているんです。

「あー、失敗しちゃったなぁ」とか「あのとき別のことをしていればもっといい結果になっただろうか」なんて思うときに。

でも、私は頑固者だから、何度過去の分岐点に戻ってみても、結局同じ道を選び、同じことをしてしまうと確信が持てます。

つまり、あの日に帰っても同じこと。

『北斗の拳』のラオウのように「我が生涯に一片の悔いなし」というわけではないけれど、過去に戻りたいとは思わないナァ。

ちなみに『コーヒーが冷めないうちに』は、2017年の本屋大賞のノミネートされ話題になりました。映画化されることも決まっていて、2018年9月21日公開ですって。

なかなか豪華な顔ぶれで、ヒットしそうです。
コーヒーが冷めないうちに
川口俊和(著)
サンマーク出版
お願いします、あの日に戻らせてくださいー。「ここに来れば、過去に戻れるって、ほんとうですか?」不思議なうわさのある喫茶店フニクリフニクラを訪れた4人の女性たちが紡ぐ、家族と、愛と、後悔の物語。 出典:楽天
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池田 千波留
パーソナリティ・ライター

コミュニティエフエムのパーソナリティ、司会、ナレーション、アナウンス、 そしてライターとさまざまな形でいろいろな情報を発信しています。
BROG:「茶々吉24時ー着物と歌劇とわんにゃんとー」

パーソナリティ千波留の
『読書ダイアリー』

ヒトが好き、まちが好き、生きていることが好き。だからすべてが詰まった本の世界はもっと好き。私の視点で好き勝手なことを書いていますが、ベースにあるのは本を愛する気持ち。 この気持ちが同じく本好きの心に触れて共振しますように。⇒販売HPAmazon



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