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パリのおばあさんの物語(モルゲンステルヌ/岸恵子)

寂しくて美しい絵本

パリのおばあさんの物語
モルゲンステルヌ(著) 岸惠子(訳)
寂しくて美しい絵本を読みました。

スージー・モルゲンステルヌ著、セルジュ・ブロック イラスト、女優の岸惠子さんが翻訳した『パリのおばあさんの物語』。フランスで20年以上読み継がれているそうです。

パリで独り住まいのおばあちゃんは90歳。小さなカゴを持って野菜を買いに行きます。力が弱くなって物をたくさんを持てないからです。

お金を支払う時だって大変。目がしょぼしょぼして、小銭を見分けるのに時間がかかるんです。

家に帰ってくると、今度は扉の前で鍵と格闘。小さな鍵は指にうまくなじみません。

それより何より、鍵をなくしてしまうんじゃないかと気が気ではないのです。

物語の冒頭から、年老いたおばあさんの、ありとあらゆる不自由さが読者に突きつけられます。

歳をとってできなくなっていくことのあれこれ。

大好きだった趣味も、得意だったことも、目や指の具合が悪くなって、自然としなくなっていく、想像するとそれはとても寂しいことです。

だけどこのおばあさんは、そんな状況の中、悲観的になりません。いつもほんの少しユーモアを持ち、明るい言葉を口にしています。

このおばあさんは根っから明るい人なのでしょうか? それとも何の苦労もせずに今日まで生きてきたのでしょうか?

いいえ、そうではありません。ページをめくっていくうちに、おばあさんのつらく悲しい過去がわかってきます。

おばあさんはユダヤ人。旦那様もユダヤ人で、強制収容所に連行されてしまいました。子供たちも生きるためにバラバラに逃げていきました。

おばあさん自身もあちらこちらに身を潜め、生きながらえたのです。

家族水入らずで暮らせる幸せを、このおばあさんほど知っている人はいないかもしれません。

だけどおばあさんは今、一人暮らし。

あちこち思い通りにならなくなってきた自分の身体と折り合いをつけながら、懐かしい過去の思い出を大切にして生きています。

おばあさんは自身の老いに、覚悟を持って臨んでいるように見えます。

私もいつか、このおばあさんのように、一人で老いと向き合う日が来るはず。その時に、このおばあさんのように、ある種の美しさをたたえて生きていられるかしら。

歳をとれば誰もが悟りを開けるわけではないでしょう。

つまり、今の生き方を見つめ直して初めて、「パリのおばあさん」のような老後を迎えることができるはず。

少し悲しいけれど美しく、かくありたいと思えるパリのおばあさんの物語。

女優 岸惠子さんの訳も、ひっそりとした中に強さを感じる言葉で、胸に沁み入るものでした。
パリのおばあさんの物語
モルゲンステルヌ(著) 岸惠子(訳)
千倉書房
パリに暮らす一人のおばあさんが、昔を振り返りながら、いまを語る。フランスで子供から大人まで読みつがれている絵本を女優・岸惠子が初めて翻訳。 出典:楽天
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池田 千波留
パーソナリティ・ライター

コミュニティエフエムのパーソナリティ、司会、ナレーション、アナウンス、 そしてライターとさまざまな形でいろいろな情報を発信しています。
BROG:「茶々吉24時ー着物と歌劇とわんにゃんとー」

パーソナリティ千波留の
『読書ダイアリー』

ヒトが好き、まちが好き、生きていることが好き。だからすべてが詰まった本の世界はもっと好き。私の視点で好き勝手なことを書いていますが、ベースにあるのは本を愛する気持ち。 この気持ちが同じく本好きの心に触れて共振しますように。⇒販売HPAmazon

 



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