嫁をやめる日 (垣谷美雨 )
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![]() 知っていると知らないとでは大違い。 嫁をやめる日
垣谷美雨(著) 本屋さんで思わず立ち止まってしまいました。なかなか衝撃的なタイトルではありませんか。
しかし”妻をやめる”のではなく”嫁をやめる”というのがミソ。 私は以前、ニュース番組で「死後離婚」なる言葉に出会いました。この小説は、ニュースで解説されるよりリアルで腑に落ちる「死後離婚」の話だったのです。 ”高瀬夏葉子は東京出身の44歳。結婚後、夫 堅太郎の生まれ故郷に引っ越し、地元フリーペーパーの記者をしている。
近くには夫の両親や親戚が住んでいる。田舎のことで、物理的にも心理的にも距離感がないが、高瀬家は名家と名高く、義理の両親はとても上品で、夏葉子は凛とした姑を、煩わしく思うどころか誇りに思っていた。 ところが、堅太郎が46歳の若さで急死したことから、夏葉子はいろいろなことに気付くことになる。 まずは夫について。東京に出張だと言って出かけたはずの堅太郎が、亡くなった場所は市内のシティホテルの一室だった。いったいどういうことなのか? 思い返せば、堅太郎は妻である自分と打ち解けることがなかった。誕生日や結婚記念日も、やれ残業だ出張だと、一緒に祝った記憶もほどんどない。もしかしたら浮気をしていたのだろうか? そして頼りにしていた息子を亡くした高瀬家の人々があれこれ夏葉子を頼りにしようとしていることが、ひしひしと伝わってきて、夏葉子はたまらない気持になってくる。いったい、自分の人生は何なのだろう。……” (垣谷美雨『嫁をやめる日』導入部分をまとめました) 物語は、夫に急死されたのに葬式で泣けない奥さん、というところから始まります。
そりゃ、東京へ行っているものだとばかり思っていたダンナが、近くのシティホテルで死んだんだと聞かされたら、いろいろ考え込んでしまって、涙も出ないかもしれません。 「裏切られた!!」と思うのも無理がない。しかもこの先どうやって生計を立てていくのかも考えなくてはいけない。 葬儀中、頭の中でパチパチそろばんをはじく未亡人、というのは、とてもリアリティがありました。そしてそのあとの、夫の親族の態度には戦慄すら覚えましたよ。 一番「こんなの絶対に嫌だ〜!!」と思ったのは、仕事を終えて帰宅したら、合鍵を持っている義母が自分の友だちを連れて上がりこみ、お茶まで飲んでいる……という場面。 怖い!!仕事していても落ち着かないわ、私だったら。 でもお姑さんにとったらそこは「息子が買った家=息子の家」なんですねェ。 民法877条2項によると、事情によっては三親等内の扶養義務が課せられることもあるとのこと。 そんな法律の有無にかかわらず、高瀬家ではどうやら、嫁が義理の両親だけではなく、引きこもりの義理の姉の世話もするのが当たり前と考えているよう。夏葉子の仕事や生きがいのことなど何とも思っていない…… あああ、息苦しい。読んでいて窒息しそうでした。 しかし、そこに登場するのが1枚の届け出用紙。俗に”死後離婚”と言われる制度です。 はー、こんな制度があったのか。知っていると知らないとでは大違い。 実際にその制度を利用するかどうかは別として、一度この小説を読んでみてくださいな。本当に勉強になりますから。 ただ、暗いことばかりではありません。この小説の舞台は長崎県で、長崎の美しい景色や、名物・食べ物がたくさん出てきます。 特に食べ物がたまりません。浦上そぼろに、ミルクセーキ、かんぽこ、トルコライス、銘菓ザビエルなどなど……。どれもこれもおいしそうで、思わず長崎に旅行したくなりました。 非常にドロドロした話のようですが、読後感は悪くありません。安心してお読みくださいね。 嫁をやめる日
垣谷美雨(著)/ 中央公論新社 ある晩、夫が市内のホテルで急死した。「出張に行く」という言葉は、嘘だったー。ショックを受けながらも、夫の隠された顔を調べはじめた夏葉子。いっぽう、義父母や親戚、近所の住人から寄せられた同情は、やがて“監視”へと変わってゆき…。追い詰められた夏葉子を、一枚の書類が救う!義父母、嫁家からの「卒業」を描く、「嫁」の役割に疲れたあなたに!人生大逆転ストーリー。 出典:楽天 ![]() ![]() 池田 千波留
パーソナリティ・ライター コミュニティエフエムのパーソナリティ、司会、ナレーション、アナウンス、 そしてライターとさまざまな形でいろいろな情報を発信しています。 BROG:「茶々吉24時ー着物と歌劇とわんにゃんとー」 パーソナリティ千波留の『読書ダイアリー』 |
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