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トンネルの森1945(角野栄子)

子どもの立場で見た1945年。戦争の悲惨さを感じる

トンネルの森1945
角野栄子(著)
『魔女の宅急便』の著者、角野栄子さんの小説『トンネルの森1945』。主人公はイコちゃん。5歳のときお母さんが亡くなってしまいます。それが昭和15年のこと。私の両親とちょうど同年代ですね。

東京で骨董品店を営むイコちゃんのお父さんは、イコちゃんが国民学校一年生の時に再婚。弟ヒロシが生まれ、イコちゃんは大人の事情で、東京本郷に住む祖母のタカさんに育てられています。

その頃、周りの大人が口癖のようにいうのが「こんなご時世だから」。イコちゃんの知らない間に日本は戦争に突き進んでいて、あらゆることが不便になって行ったのです。何につけても我慢しなければならないことを大人は「こんなご時世だから」と言うのでした。

一旦戦争に取られたお父さんが病気のせいで戻ってきて内心ホッとしたのに、東京は危ないということで、イコちゃんは田舎に疎開せねばならなくなります。

お父さんは数少ない壮年の男性ということで東京に残らねばならず、イコちゃんは新しいお母さん・光子さんと弟のヒロシの三人で生活しなくてはならないのです。

イコちゃんは本当はおばあさんとずっと一緒に居たかった。でも「こんなご時世だから」我慢しなくちゃなりません。それは祖母のタカさんも同じこと。別れ際、タカさんはイコちゃんにお人形を作ってくれました。

イコちゃんはひょろりと長いそのお人形にチエコさんと名付け、疎開先での心のよりどころにしています。(単行本の表紙でイコちゃんがおぶっているのがチエコさん)疎開先でもイコちゃんは、あれも我慢、これも我慢。これ以上我慢できないというくらい我慢することになります。

「こんなご時世だから」

子どもの立場で見た1945年。声高に戦争反対を叫んでいないのに、戦争の悲惨さを感じさせてくれます。

ところで私たち後世の人間が、第二次世界大戦について考える時、「本気でアメリカに勝てると思っていたのだろうか」と疑問に思います。この小説の中でその答えのひとつが書かれていました。

イコちゃんは無理にでも思い込んでいます。日本は勝つ、絶対に勝つはずだと。希望がなくなるのが一番怖いから、そう思っているというのです。なんだかわかる気がしました。

さて、このイコちゃんは著者角野栄子さんがモデルです。それから約70年後のイコちゃんが主人公の角野栄子さんの『ラストラン』も合わせてお勧めします。
トンネルの森1945
角野栄子(著) KADOKAWA
1945年。少女はたった一人で世界と戦っていた。太平洋戦争さなか、幼くして母を亡くしたイコは新しい母親になじめぬまま、生まれたばかりの弟と三人で千葉の小さな村へ疎開することに。家のそばにある、暗く大きな森の中で脱走兵が自殺した噂を耳にする。耐え難い孤独感と飢餓感はトンネルの森のように覆いかぶさり、押しつぶされそうになった時、イコは兵隊の影を追いかけ森に入るが…。『魔女の宅急便』の著者角野栄子が、自らの戦争体験から描き下した、憫然で、美しい、珠玉の物語。 出典:楽天

池田 千波留
パーソナリティ・ライター

コミュニティエフエムのパーソナリティ、司会、ナレーション、アナウンス、 そしてライターとさまざまな形でいろいろな情報を発信しています。
BROG:「茶々吉24時ー着物と歌劇とわんにゃんとー」

パーソナリティ千波留の『読書ダイアリー』
ヒトが好き、まちが好き、生きていることが好き。だからすべてが詰まった本の世界はもっと好き。私の視点で好き勝手なことを書いていますが、ベースにあるのは本を愛する気持ち。 この気持ちが同じく本好きの心に触れて共振しますように。⇒販売HPAmazon



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