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心淋し川(西條奈加)

人生の転機を見守りながら読める

心淋し川
西條 奈加(著)
「心淋し川」と書いて「うらさびしがわ」。江戸の下町を舞台にした西條奈加さんの時代小説を読みました。

「心町」と書いて「うらまち」と読む、架空の町が小説の舞台です。その街を流れている川の名は「心川(うらがわ)」。

字面はなかなか風流ですが、実際は淀んでおり、夏ともなると嫌な匂いがする、ドブ川と言った方が良い川です。

その川の両側に建っているボロボロの長屋。『心淋し川』には、その日その日をつましく生きる長屋の住人を主人公とした6つの短編が収められています。

それぞれのタイトルをご紹介しましょう。
「心淋し川」
「閨仏」
「はじめましょう」
「冬虫夏草」
「明けぬ里」
「灰の男」
(『心淋し川』目次より引用)
19歳のちほ。父は酒浸りで仕事もロクにしないし、母は口を開けば愚痴ばかり。出来の良かった姉は4年前に嫁に行き、実家には寄り付かない。

姉は母親譲りなのか手先が器用で、縫い物をして家計を助けていた。姉のあとをついで縫い物仕事をしてはいるが、ちほは手先が不器用で、売り物にはならないと、やり直しを命じられることも多い。

仕事もはかどらず、家の中も憂鬱。誰か良い人と巡り合い、所帯を持てたら、こんな家から出て行けるのに……
(「心淋し川」の出だしを私なりに紹介しました)
りきは今年34歳。女性ばかり4人で住んでいる。といっても、現代のルームシェアとは訳が違う。4人はみな、六兵衛という男の囲い者なのだ。

4人は揃いも揃って器量が悪い。そんな4人が旦那様の寵愛を競うのは、なんだか詫びしいことだ。

一番最初に囲われた りきは、今では旦那様のお相手をすることはない。炊事や洗濯、掃除など、雑用係のように、他の女の面倒を見てやっている。愚痴をきいてやることもある。

もう自分は用済みなのか、ここから出て行った方が良いのかと悩む りきだったが、ある日、ひょんなことから、「仏」を彫るようになった。祖母の形見の小刀が、りきに力をくれたのかも知れない。
(「閨仏」の出だしを私なりに紹介しました)
短編の主人公は女性ばかりではありません。
小さな料理屋を営む与吾蔵はある日、寺でひとりの少女に出会う。

少女の歌声に与吾蔵は衝撃を受けた。昔、別れた女が歌っていたものと同じだったからだ。

妊っていたその女に対して「誰の子かわからない」と言ってしまったことを後悔しても遅い。

女はそれっきり与吾蔵の前から姿を消してしまった。もしかしたら、寺で出会った少女は自分の娘なのか?!
(「はじめましょ」の出だしを私なりにまとめました。)
どうやら心町の住人はみな、どこか満たされない人だとわかっていただけたかも知れません。

ドブ川の匂いのする長屋で、その日その日をなんとか生きている人たちです。

だけど、それぞれの短編の読後感は悪くありません。

うっすらとではありますが、明るいものを感じられるように書かれています。

うらぶれた町に住む人々の人生の転機を見守りながら読めるのです。

ただ、第3話まで読んで少し首をひねりました。

この作品は第164回直木賞を受賞しています。

一話ごとに面白いけど、直木賞をとるほどかな?

なんと失礼な奴でしょうか、私は。

でも、正直なところ、そう思ったんですよ。

途中までは。

ところが最終話「灰の男」を読み終わったとき、うむ、これは直木賞受賞も頷ける、と思いました。

上から目線で偉そうなことを言ってすみません。

でもね、単なる短編集で、軽く読める作品だと思わせておいて、最後にグッと引き締まるのですよ。

読み終わって思うのは、歌のタイトルではありませんが「人生いろいろ」。

嫌なことばかりは続かない。

だけどまた、人生に良いことばかりもない。

自分に見えていたものが、正反対の場合もある。

時代物(世話物)がお好きな方には、ぜひお勧めしたい小説でした。
心淋し川
西條 奈加(著)
集英社
不美人な妾ばかりを囲う六兵衛。その一人、先行きに不安を覚えていたりきは、六兵衛が持ち込んだ張形に、悪戯心から小刀で仏像を彫りだして…(「閨仏」)。飯屋を営む与吾蔵は、根津権現で小さな女の子の唄を耳にする。それは、かつて手酷く捨てた女が口にしていた珍しい唄だった。もしや己の子ではと声をかけるがー(「はじめましょ」)他、全六編。生きる喜びと哀しみが織りなす、渾身の時代小説。第164回直木賞受賞。 出典:楽天
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池田 千波留
パーソナリティ・ライター

コミュニティエフエムのパーソナリティ、司会、ナレーション、アナウンス、 そしてライターとさまざまな形でいろいろな情報を発信しています。
BROG:「茶々吉24時ー着物と歌劇とわんにゃんとー」

パーソナリティ千波留の
『読書ダイアリー』

ヒトが好き、まちが好き、生きていることが好き。だからすべてが詰まった本の世界はもっと好き。私の視点で好き勝手なことを書いていますが、ベースにあるのは本を愛する気持ち。 この気持ちが同じく本好きの心に触れて共振しますように。⇒販売HPAmazon

 



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