なんと親しみやすくてダイレクトなタイトルでしょう。
「食堂のおばちゃん」
口に出してみると、どなたの胸の中にも
誰かの顔がポッと浮かんでくるのではないでしょうか。
私はなんとなく、大学時代の学食のおばさんを連想しました。
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佃の大通りに面した「はじめ食堂」を切り盛りするのは
一一子さんと一二三さん。
入力ミスではない。
一 一子と書いて「にのまえ いちこ」、
一 二三と書いて「にのまえ ふみ」。
ともに若くして夫を亡くした姑と嫁だ。
「はじめ食堂」はお昼は定食屋、夜は居酒屋を兼ねている。
ある日の昼定食の献立を紹介すると、
煮魚定食(ぶり大根)、焼き魚定食(サンマの開き)、
とんかつ定食、エビフライ定食、日替わりはチキン南蛮。
それに小鉢が二種類つく。
この日は厚揚げと玉ねぎの甘味噌炒めと小松菜のおひたしだ。
値段はエビフライ定食だけが1,000円で、あとは一律700円。
いわゆる「家庭の味」をお手頃価格で食べさせてくれる「はじめ食堂」には
常連さんが何人もいる。
中には毎日食べに来る人も。
「はじめ食堂」で美味しいご飯を食べているうちに、
夫婦のすれ違いや、商売に関する親子の対立、恋愛問題などが、
やんわりほんわり解決してしまう。
ああ、食べ物の力は偉大なり!
食堂のおばちゃん、ありがとう。
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著者 山口恵以子さんは実際に「食堂のおばちゃん」だったそうです。
某社員食堂に勤務しながら作家デビューを果たした異色の作家さん。
どうりで、食事を仕込む一子さんと二三さんの手際が良いわけだ。
食材の仕入れ風景も生き生きしているし、
オリジナルメニューがどれもこれも美味しそう。
おそらく、この小説を読んだ人は
何度も「あ~、これ、食べてみたい」と思うはず。
そんな人のために、巻末には
「食堂のおばちゃんのワンポイントアドバイス」と題した
レシピ集が掲載されています。
私が作ってみたいのは「豚肉と白滝の生姜煮」と「鰯のカレー揚げ」だなぁ。
ああ、お腹が鳴る!
ところで『食堂のおばちゃん』を読み終わったあと
「それからどうなる?」と、その先がとても気になりました。
まず、80歳を過ぎてなお現役の一子さんの体調。
このあといつまでお店に立ち続けていられるやら?
一子さんにもしものことがあったら、
二三さん一人で「はじめ食堂」を切り盛りしていけるのか?
次に二三の娘 要と、幼なじみのフリーター 赤目万里の今後。
なんとなく、こうなると良いなぁという将来像をにおわせながら
小説は終わっています。
山口恵以子さん、続きを読ませて!
そして美味しい定食をもっともっと、目で食べさせてください! |
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池田 千波留
パーソナリティ・ライター
コミュニティエフエムのパーソナリティ、司会、
ナレーション、アナウンス、 そしてライターと、
さまざまな形でいろいろな情報を発信しています。
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