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妻の終活(坂井希久子 )

単なる「良い話」で終わらないのがすごい

妻の終活
坂井希久子(著)
シュウカツといえば「就活」、就職活動のことだと思っていたのは若い頃。今は「終活」の文字がすぐに浮かんできます。

そんな時、目に飛び込んできた『妻の終活』というタイトル。読まずにいられませんでした。
一ノ瀬廉太郎はもうすぐ七十歳になる。二歳年下の妻 杏子とは結婚して42年目、二人の娘に恵まれた。

長女は結婚して三人の男の子の母親だ。夫を尻に敷き、たくましい。比較的近くに住んでいる。次女はキャリアウーマンで、大阪に転勤。結婚はしていないが、バリバリ活躍している。

今は廉太郎と杏子、夫婦二人暮らしだ。廉太郎は有名な製菓会社の商品開発部に所属し、忙しく働いてきた。会社の代名詞になっているヒット商品を生み出したのは自分だというプライドがある。

定年後は嘱託として、製造工程の管理部門に配属された。部署に貴賎はないと自分に言い聞かせて頑張ってはいるが、実は今の部署では、自分がいてもいなくてもさほど影響がないことは、わかっている。

そんなある日、妻が病院についてきてほしいと言い出した。聞いてみれば平日に、だ。

これまで仕事最優先でやってきた廉太郎。急に言われて気安く休みをとることに抵抗があった。今はいくらでも休みが取れる部署にいることを妻に知られたくないという気持ちもあった。

そもそも、これまでの人生では、子どもが生まれる時も、近所の催しがある時も全て「仕事が忙しい!」と、妻に任せてきた。

日頃我慢強い妻が、病院についてきてほしいというのはよくよくのことだと思い至らず、「平日じゃないか!急に言われて休みなんか取れるか!」と、言い放ってしまった廉太郎だった。

まさか、妻が癌で余命一年と告知されることになるとは考えてもいなかったのだった……。
(坂井希久子さん『妻の終活』の出だしを私なりにまとめました)
廉太郎は、昭和時代の男性像そのものです。

「男は仕事、女は家庭を守るもの」と、思い込んでいます。

出産、子育て、近所づきあいが実は重労働であることなど、全くわかろうとしません。

その頑固さや思い込みの激しさには読んでいて腹が立って仕方がありませんでした。

妻 杏子は、内心はともかく、そんな夫に長年仕えてきている、昭和の時代の女性です。

だけど、自分の命の期限を知った時、これではいけないと決心するのでした。

癌告知を受け、傷心の杏子は、しばらく長女の家に居つきます。

その間廉太郎は、洗濯はしない、と言うよりできず、脱いだ洋服はその辺りにポイ。自炊もできず、ゴミの分別もできず、家の中は荒れ放題。

そして「どうして妻は帰ってこないのか!病院に付き添ってやらなかったのは悪かったかもしれないが、すねるのもいい加減にしろ!」と、逆ギレしているのです。

そんな父親に、長女はブチ切れ、次女は静かに呆れるばかり。

そして妻は謝ります。

あなたをこんなにも何もできない人にしてしまったのは、私のせいですね、と。

そして残された日々で、妻は夫を教育するのです。

ご近所づきあいの方法、ゴミの出し方、洗濯の方法、エトセトラ、エトセトラ。

しぶしぶ妻の教育を受け入れる廉太郎ですが、娘二人とは、価値観の違いで対立してばかり。

私は自分に子どもがいないせいで、永遠に子ども目線なのですが、こんな父親嫌だ!!と、腹が立って仕方がありませんでした。

最初は現実を受け入れられず怒ってばかりだった夫・廉太郎も、妻が先立ってしまうことを徐々に受け入れ、生活力をつけていきます。

二人の娘に対しても少しずつ理解を深め、分かり合えた……と思えた時、妻は天国へ旅立っていきます。

ああ、いい話だった、と思うでしょう?

ところがどっこい、この小説の最後の最後には爆弾が仕掛けられています。

単なる「良い話」で終わらないのがすごい。

そして杏子さんの秘めた気持ちがわかる気がする。

あまりにも興味深すぎて、1日で読み切ってしまいました。全ての妻にオススメの一冊です。

ちなみに、我が家の場合、私が先に天に召されても夫は全然困らないと思います。

私ができの悪い妻なので、必然的に夫の家事能力が向上しているから。

我が家では私こそが「廉太郎」なのだと思います。
妻の終活
坂井希久子(著)
祥伝社
まもなく七十歳になる一之瀬廉太郎は定年まで勤めあげた製菓会社で嘱託として働いている。家事や子育ては二歳下の妻杏子に任せきり、仕事一筋で生きてきた。ある日、妻から病院の付き添いを頼まれるがにべもなく断ってしまう。妻の頼みごとなど、四十二年の結婚生活で初めてだったのに。帰宅後、妻は末期がんで余命一年と宣告されたと告げる。呆然とする廉太郎に長女は「もうお母さんを解放してあげて」と泣きながら訴えるのだったー。余命一年を宣告された妻が、夫に遺す“最期のしごと”とはー。結婚四十二年、仕事一筋の男と家を守ってきた女。残された時間をどう生きるべきか…。 出典:楽天
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池田 千波留
パーソナリティ・ライター

コミュニティエフエムのパーソナリティ、司会、ナレーション、アナウンス、 そしてライターとさまざまな形でいろいろな情報を発信しています。
BROG:「茶々吉24時ー着物と歌劇とわんにゃんとー」

パーソナリティ千波留の
『読書ダイアリー』

ヒトが好き、まちが好き、生きていることが好き。だからすべてが詰まった本の世界はもっと好き。私の視点で好き勝手なことを書いていますが、ベースにあるのは本を愛する気持ち。 この気持ちが同じく本好きの心に触れて共振しますように。⇒販売HPAmazon

 



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