おまじない(西加奈子 )
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![]() 悩める女子の物語 おまじない
西加奈子(著) 西加奈子さんの作品で読んだことがあるのは、直木賞受賞作の『サラバ!』のみ。かなりの長編でした。
『おまじない』は、8つの短編集で、全て女性が主人公。小学生から大人まで、様々な境遇の女子が登場しますが、共通するのは、皆何かに悩んでいること。 彼女たちの悩みは、私自身とは全く無関係のようでいて、心の奥深くに共通するものがある気がして、全て他人事でなく読めるのでした。 例えば『あねご』。 周囲の人からは大酒飲みでどうしようもなく下品な女だと思われている、通称「あねご」。 自分が美人でもなく可愛くもないと自覚している「あねご」は、いつも自虐ネタで笑いを取っている、いわゆる道化師的人物。 途中までは他の登場人物同様、「女性もここまで行くと辛いものがあるなぁ」と上から目線で読んでいたのですが、ラストの6ページでガラッと印象が変わりました。 一気に「あねご」に同調し(同情ではない)、涙ぐんでしまいましたよ。 『燃やす』の主人公は小学五年生の女の子。 それまでボーイッシュな格好をしていたのに、スカートを履くようになってすぐ、性的な犯罪に巻き込まれてしまう。 それを自分のせいだと思い込みます。 いや、思い込まされるといったほうが正確かも。 現実世界でも、性的犯罪が報道されると「あんな下着みたいな服を着て歩くのが悪い」と、被害者を責めるような意見が寄せられることがあります。 確かに、用心するに越したことはないけれど、それでも悪いのは被害にあった女性ではなく、犯行を行った人間の方です。 極論ですが、女性が全裸で歩いていたとしても、暴行するのは犯罪なのです。 軽微とはいえ犯罪被害者になった女の子がきちんと心の重荷を下ろすのでホッとしました。 実社会でも、この小説のようだったらいいのに。 8つの短編の中で、私が最も共感できたのは『孫係』です。 一瞬「まごまご」に見えて意味をつかみかねましたが、「まごかかり」です。 主人公は小学六年生のすみれ。すみれはパパとママの三人で東京に住んでいる。
母方の祖父は長野在住の大学教授で、妻に先立たれ一人暮らし。 その「おじいちゃま」が、学会や美術館の企画展監修の仕事で1ヶ月間東京で過ごすことになった。 ママは大興奮。ホテル住まいで良いという「おじいちゃま」を強引に説得し、1ヶ月間すみれたちの住む家に滞在してもらうことになった。 一人っ子のママはファザコンらしい。「おじいちゃま」と過ごすことを、心から喜んでいる。 だけどすみれは複雑だ。おじいちゃまのことは好きだけど、でも、でも…。 思わず呟いた。 「ひとりになりたいなぁ。」 (西加奈子さん『おまじない』の中の『孫係』前半概要を私なりに紹介しました) 私はこのすみれちゃんの気持ちがよくわかります。
自分のおじいちゃんと四六時中一緒に過ごすことが、ほんのちょっぴり鬱陶しい。 ああ、ひとりになりたいと思う反面、実のおじいちゃんにこんなことを思うなんて、自分はなんと冷たい人間なんだろうかと思う そういうこと、私もあります! 家の中だけでなく、学校での人間関係でも、すみれちゃんは悩んでいます。 仲良しのはずのお友達に対して沸き起こってくる負の感情に戸惑うのです。 私って意地悪だなぁ、と。 あー、わかりすぎて自分のことのよう。 そういうこと、私にもあります、ありました!! そんなすみれちゃんに授けられる解決法が良いのです。 大人の私にも応用できます。 感心する反面、その解決法に「偽善者」という言葉が連想されるのですが、西加奈子さんはそこにも救いを述べてくれています。 ああ、心底スッキリ。 この小説を読んで良かった。 最後に、収められている短編の全タイトルをご紹介しておきます。 『燃やす』、『いちご』、『孫係』、『あねご』、『オーロラ』、『ドブロブニク』、『マタニティ』、『ドラゴン・スープレックス』。
(西加奈子さん『おまじない』目次より引用) この中に、あなたが共感できる女性は何人いるでしょうか。
ぜひ探してみてください。 ![]() 池田 千波留
パーソナリティ・ライター コミュニティエフエムのパーソナリティ、司会、ナレーション、アナウンス、 そしてライターとさまざまな形でいろいろな情報を発信しています。 BROG:「茶々吉24時ー着物と歌劇とわんにゃんとー」 ヒトが好き、まちが好き、生きていることが好き。だからすべてが詰まった本の世界はもっと好き。私の視点で好き勝手なことを書いていますが、ベースにあるのは本を愛する気持ち。 この気持ちが同じく本好きの心に触れて共振しますように。⇒販売HP/Amazon
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