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謎とき『風と共に去りぬ』(鴻巣友季子)

次に読んだら、誰を好きになるかしら

謎とき『風と共に去りぬ』
矛盾と葛藤にみちた世界文学
鴻巣友季子(著)
マーガレット・ミッチェルの『風と共に去りぬ』を読まれたことはありますか?

私はまず、中学生の時に読みました。

というのも、1977年に宝塚歌劇団が『風と共に去りぬ』を上演することになり、原作を読んでおかねばと思ったのです。

レット・バトラー役の榛名由梨さんがヒゲをつけるというので、賛否両論湧き上がり、大きな話題になりましたっけ。

今2枚目男役さんがヒゲをつけるのは珍しくありませんが、当時、ヒゲといえば脇役さんしかつけないものだったんです。

それに関しては、拙コラムをご参照いただけるとありがたいです。⇒榛名由梨さんにお聞きする「ヒゲの二枚目誕生譚」(関西ウーマン「タカラジェンヌ歳時記」2015年10月16日)

しかし中学生にとって文庫本で5冊はなかなかの分量でした。南北戦争など難しいところは走り読みした記憶があります。

翌年(1978年)にはビビアン・リー、クラーク・ゲーブル主演の映画『風と共に去りぬ』が神戸三宮でリバイバル上映されると聞き、同級生数人で観に行きました。当時センター街にあった、大洋劇場だったと思います。

その後も宝塚歌劇で何度も再演されている『風と共に去りぬ』。何度目かの再演の時に、もう一度原作を読み返しました。

私にとって『風と共に去りぬ』はかなり思い入れがある作品なのです。

ですから、「謎とき」という言葉に惹かれました。単なる書評ではなさそうですもの。

著者 鴻巣友季子さんは翻訳者。マーガレット・ミッチェル『風と共に去りぬ』全5巻やエミリー・ブロンテ『嵐が丘』などを翻訳されています。(両方とも新潮文庫)

鴻巣さんが何度も原作を読み返し、多くの資料(もちろん英語)を調べて書かれたこの本は、意外なほど読みやすかったです。

きっと難しいことが書いてあるのだろうと思ったのに、さすが翻訳家、適切な言葉で書かれていて、大変わかりやすく、興味深く読めました。

『風と共に去りぬ』は原作も映画も大ヒットしています。

普通、原作が大ヒット作の場合、原作ファンが映画に対して、何かしら不満を持つものなのに、この作品についてはそれがない。珍しいことかもしれません。

映画のヒットが原作ファンに変化をもたらしたという指摘が面白い。

一つだけ例えをあげるなら、スカーレットのイメージ。

私もそうですけど「スカーレット・オハラは美人」だとほとんどの人が思っているんですって。

ところが、出だしの一文を見ると、いきなり
「スカーレット・オハラは美人ではない」と明記されている。
(鴻巣友季子「謎とき『風と共に去りぬ』 P30より引用)
それから、原作でスカーレット本人が認識している欠点としては、
首が短いことが挙げられる。しかし、スカーレットの首が短いなどと、だれが思っている(覚えている)だろう?
(鴻巣友季子「謎とき『風と共に去りぬ』 P31より引用)
確かに、スカーレットといえばビビアン・リーなので、首が長い美人で、一目で男性を虜にする女性というイメージが定着してしまっています。

それ以外にも、映画が成功したゆえの面白い記憶違いがいくつか指摘されています。

面白いといえば、マーガレット・ミッチェルの文体についての解説が非常に興味深かったです。

だれの視点で語られているかというポイントと、直接話法でも間接話法でもない、「自由間接話法」の使用など、言語的なテクニックが用いられているという指摘は、言われてみれば「なるほど!」と思うのですが、翻訳本を読んでいる時には、全く意識せずに読んでいました。

マーガレット・ミッチェルはこの小説を10年かかって書き上げているので、練りに練られているのでしょう。

また、普通だったら同性から嫌われそうな性格のスカーレットがなぜ女性読者の支持を受けるのかについて、鴻巣さんは、
うまい具合に「ノリツッコミ」的な表現がなされているから、
と解説されていて、笑ってしまいました。

私が思うに、スカーレットが女性読者に嫌われない理由は、エロティシズムの欠如にあるのではないかしら。

鴻巣さんは、何度も結婚し男性を手玉に取り続けているように見えるスカーレットが、実はエロティックさに欠けた女性だと指摘しておられます。

確かに、スカーレットはサバサバしていて、全然色っぽくない。確かにセクシャルな場面といえば、一箇所だけですね。

もしスカーレットが性的魅力に溢れた女性に描かれていたら、少なくとも私はスカーレットを好きになれないと思う。

ところで、鴻巣さんはこの小説は恋愛小説ではないとおっしゃっています。スカーレットとメラニーのWヒロインの物語なのだと。

それは名前の対比にも現れていて、スカーレットが赤、メラニーは黒(語源がメラニア、メラニン)。

情熱や生を連想する赤に対して、黒は理性や死をイメージしています。

スカーレットはメラニーを、おとなしいだけで、何の役にも立たないと見くびっていたけれど、生命の危機に瀕した時の行動力、スカーレットがスキャンダルで窮地に立たされた時などに見せる毅然とした態度から、只者ではないことが徐々にわかってきます。

奥の深い性格のメラニーに比べると、スカーレットは割と単純な性格。

生存本能が強く、行動は大胆、しかも商魂たくましいけれど、物事の本質を見極めたり、全体像を把握できた試しがありません。

おそらく南北戦争後の混乱期に、メラニーがいなかったら、スカーレットは相当苦労したものと思われます。

大好きなアシュリ(本書での表記)を奪った恋敵だったはずのメラニーが、自分の一番の理解者であり、友人であったのだと、スカーレットが悟るのはメラニーの死の間際。

長い長いこの小説は二人の結びつきの物語なのですね。

私はずっとこの小説を、一番自分を愛してくれた人(レット・バトラー)を失う恋愛が主体の小説だと思い込んでいました。

それはもしかしたら宝塚版『風と共に去りぬ』の影響かもしれません。

文体や、メラニーの性格分析などを念頭に、もう一度『風と共に去りぬ』を読んでみたい気持ちになりました。

とは言え、レット・バトラーやアシュリ・ウィルクスが重要な登場人物であることは間違いありません。

最初に読んだときは断然レット・バトラーが好きでした。

2回目に読んだ時には、アシュリの良さがちょっぴりわかった気がしました。

次に読んだら、誰を好きになるかしら?
謎とき『風と共に去りぬ』
矛盾と葛藤にみちた世界文学
鴻巣 友季子(著)
新潮社
前衛的でときにラディカルな文体戦略を駆使して描かれたのは、分裂と融和、衝突と和解、否定と肯定、ボケとツッコミから成る「壮大な矛盾のかたまり」であった。『風と共に去りぬ』を新たに翻訳した著者ならではの精緻なテクスト批評に、作者ミッチェルとその一族のたどった道のりを重ね合わせ、現代をも照射する古典名作の「読み」を切り拓く画期的論考。 出典:楽天
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池田 千波留
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